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第1章 血宵の戦士

第13話 壊れた橋

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 王都まであと二夜程度のところで、通り道の脇に建つ宿に泊まることになった。
 夕闇が迫る刻、宿から少し歩き、小さな食事場で夕食をとる。

「アイツは一体何者だったんだろうねぇ」

 スワビが野草のスープを飲みながら、思い出したように赤い男の話をする。自ら魔物に戦闘を仕掛け、謝ることもなく消えてしまった。客車の中で正体について話していたが、誰も知らない男だった。

「見たことのない赤い甲冑かっちゅうを着けていたから、王都よりも東の国から来たのかもな」

 この辺りの国では、いかつい防具は手に入らない。極地へ行かないかぎり、強力な魔物に襲われることがほとんど無く、国々の間での戦争も、ここ百年ほどは起きていない。だが、大陸の東側では、特に東の海の近くでは、獰猛どうもうな魔物が彷徨うろついており、それに対抗するために武器や防具が発達しているらしい。

 おれやスワビが身に着けている薄い鎖かたびらでは、大陸の東の国を旅することはできないだろう。あの赤い甲冑は、魔物の爪や牙からも身を守ることができる程のしっかりした作りだった。

 リリシアはおれの事を知っていた様な口ぶりだったが、あの男も彼女の一味だとすれば、何か意図があって、おれ達に魔物をけしかけたのかも知れない。またな、と言っていた。いつかおれの前に姿を現すのだろうか。

「おーい、大丈夫かぁ?」

 パンをちぎる手が止まっていたので、スワビが怪訝けげんそうな面持おももちでおれを見ている。

「いや、考えすぎなのかもな」

 おれの長く続いている記憶には、あのふたりは存在しない。だが、おそらくリリシアはおれの持つ使命か呪いについて知っているだろう。とすれば、リリシア達の後ろには、きっと、おれ以外の「呪われし者」がいる。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 朝の陽光が湖面にきらめき、森の中、木々の葉から漏れる光が道端に白くまだら模様を描く。
 馬車は道なりに進み、王都を目指す。

 大きな川を渡る橋の手前、馬はいななき、歩みを止める。
 馬を操る発起人が驚く。

「橋が……壊されておる」

 おれ達は客車から降りて川崖かわがけに立ち、呆然とその光景を眺める。
 大きな石造りの橋が、川の真中まんなかあたりで、上から大きなもので叩きつけられた様に崩れている。

「王都からこっちに来た時は通れたんだがな……」

 発起人の男が王都から宿場リミルガンへ来た時には、橋は壊れていなかったらしい。
 この橋は、何十年も前に年月をかけて架けられたという。補修にどのくらいの時間がかかるか分からないが、今は、かなりの回り道を強いられることになった。

 おれは発起人に進言する。

「川の上流までまわって、浅くなっているところを渡るしかないだろうな」
「また何日か川をさかのぼるのか……。しかしこれからは、王都と往復し辛くなったな」

 発起人は諦め顔で馬をなだめて、皆に出発を告げる。

 それから数日、馬車は川の上流へ向かい、馬が渡れそうな平瀬ひらせが続く場所を探す。夜になると天幕を張り、火を起こし見張りを立てて眠る。そうして運良く魔物には出逢わず、馬を向こう岸に渡らすことができた。

 そうして、また数日かけて王都へと続く道まで戻ったとき、橋の修復のために王都から大工達が調査に来ていた。
 おれ達は大工から、橋の破壊は怪物の仕業だと聴いた。

「とんでもなくデカい怪物が、また王都の近くに現れてな。今度は何もせずにどっかへ行っちまったんだが、その時に橋がたくさん壊されちまったんだ」

 客車の中では、宿場リミルガンに戻るべきではとの意見が出た。でも、せっかく時間をかけてここまで来たのだからと、ひとまず王都までは行こうということで落ち着いた。

 馬車は王都の全貌を見渡すことのできる丘の上を進む。聴いていたよりも破壊の程度はひどい有様だった。中央に位置する城の南側がえぐられた様に壊れていて、吹き飛ばされた塔は西側の市場街全体を瓦礫がれきの山にしていた。

 おれは怪物の大きさとその力をまざまざと見せつけられた様で、喉を鳴らしていた。
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