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第1章 血宵の戦士
第6話 光
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一歩、また一歩と、こちらの恐怖心を膨らませるかのようにゆっくりと、巨大鬼は迫ってくる。
初めて遭遇する敵に、おれ達の足はすくむ。進むことも引くこともできず、呆然とその光景を眺める。おれに戦士としてできることはないだろうか。追い払うには。倒すには。それとも。
修行時代に小熊と戦ったときはどうやったか。模擬戦闘で大男とやりあったときはどう立ち回ったか。
考えを巡らせてふたつの計画を思いついたが、おれは全員が助かる道を選ぶ。
「スワビ! 大悪鬼に矢を放て!」
スワビは一瞬大きく目を開けてこちらを見る。軽く頷くと、すぐに弓を引いた。
矢が放たれる。大悪鬼めがけ、矢は宙を切り裂いて進む。
思った通り、巨大鬼はその矢を目で追う。おれ達に向いていた注意がそちらへ逸れた。生態は知らないが、親子の様なものなのだろう。
「パナタ! 奴らの足に足止術を!」
巻物に息を吹きかけ、パナタは巻物を宙に放り投げる。巻物に描かれた魔法陣から紅い閃光が走る。
2体の足元の土が鋭く隆起して、螺旋状に変化し、足を絡めとる。
「逃げるぞ!」
おれは全員に向かって叫ぶと同時に踵を返し、歩き登ってきた道を戻るため、走る。
少しの間、皆のドタドタと走る足音が辺りに響く。低く大きな足音も距離を置いて追って来る。
おれ達は水場の近く、岩が並び、道から死角になる場所へ身を滑らせた。
パナタが皆の周りに淡い緑光の膜を張る。匂いを気とられないようにする風の魔術だろう。
低い音が通り過ぎ、足音が止まる。唸り声が響く。
狭い場所で固まっているので、スワビの足の震えが、そのままおれの腕に伝わってくる。モアーニは髭を触って気を落ち着かせ、パナタは深呼吸して失った分の力を回復させようとしている。
おれはここからどうすべきか考えを巡らせる。
魔物が先ほどの場所に戻ってしまえば、薬草を採取することはできそうにない。どこかに誘い出すか、どうにか倒すことができれば。
そうしているうちに、唸り声が徐々に遠ざかっていることに気づく。
「戻っていくのか」
パナタが残念そうに小さな声で呟く。今のおれ達では、例え1体に4人がかりでも、退治できるかどうか分からない。
おれは、諦め気分でゆっくりと岩から身を乗り出す。
その時。
おれは真後ろに大きな気配を感じた。振り向くより前に、ずしんと身体の右側から重い衝撃が走る。おれの身体は宙に浮いて吹き飛ばされる。
「し、まっ……!」
宙に舞いながら、1体の巨大鬼が逆さまに映る。どうやらまんまと嵌められたようだ。
そのままなす術なく肩から落ち、身体に鈍い痛みが生まれる。
よせばいいのに、スワビ、パナタ、モアーニが岩陰から飛び出して、巨大鬼の気を引こうとする。一瞬、魔物は目標を定められず狼狽し唸るが、再び倒れているおれの姿を見定める。
戦士として、魔物と戦い命を落とすことは恥じることではない。だが、おれは戦いから逃げた挙句、うっかり命を落としてしまうのだな。身体は痛みで動かず、自虐の笑みを浮かべることしかできない。
全てを諦めたおれの眼前に、どこからか無数の光が飛来した。
それはおれにとって希望の光、そして、苦難の旅の始まりを示す光でもあった。
初めて遭遇する敵に、おれ達の足はすくむ。進むことも引くこともできず、呆然とその光景を眺める。おれに戦士としてできることはないだろうか。追い払うには。倒すには。それとも。
修行時代に小熊と戦ったときはどうやったか。模擬戦闘で大男とやりあったときはどう立ち回ったか。
考えを巡らせてふたつの計画を思いついたが、おれは全員が助かる道を選ぶ。
「スワビ! 大悪鬼に矢を放て!」
スワビは一瞬大きく目を開けてこちらを見る。軽く頷くと、すぐに弓を引いた。
矢が放たれる。大悪鬼めがけ、矢は宙を切り裂いて進む。
思った通り、巨大鬼はその矢を目で追う。おれ達に向いていた注意がそちらへ逸れた。生態は知らないが、親子の様なものなのだろう。
「パナタ! 奴らの足に足止術を!」
巻物に息を吹きかけ、パナタは巻物を宙に放り投げる。巻物に描かれた魔法陣から紅い閃光が走る。
2体の足元の土が鋭く隆起して、螺旋状に変化し、足を絡めとる。
「逃げるぞ!」
おれは全員に向かって叫ぶと同時に踵を返し、歩き登ってきた道を戻るため、走る。
少しの間、皆のドタドタと走る足音が辺りに響く。低く大きな足音も距離を置いて追って来る。
おれ達は水場の近く、岩が並び、道から死角になる場所へ身を滑らせた。
パナタが皆の周りに淡い緑光の膜を張る。匂いを気とられないようにする風の魔術だろう。
低い音が通り過ぎ、足音が止まる。唸り声が響く。
狭い場所で固まっているので、スワビの足の震えが、そのままおれの腕に伝わってくる。モアーニは髭を触って気を落ち着かせ、パナタは深呼吸して失った分の力を回復させようとしている。
おれはここからどうすべきか考えを巡らせる。
魔物が先ほどの場所に戻ってしまえば、薬草を採取することはできそうにない。どこかに誘い出すか、どうにか倒すことができれば。
そうしているうちに、唸り声が徐々に遠ざかっていることに気づく。
「戻っていくのか」
パナタが残念そうに小さな声で呟く。今のおれ達では、例え1体に4人がかりでも、退治できるかどうか分からない。
おれは、諦め気分でゆっくりと岩から身を乗り出す。
その時。
おれは真後ろに大きな気配を感じた。振り向くより前に、ずしんと身体の右側から重い衝撃が走る。おれの身体は宙に浮いて吹き飛ばされる。
「し、まっ……!」
宙に舞いながら、1体の巨大鬼が逆さまに映る。どうやらまんまと嵌められたようだ。
そのままなす術なく肩から落ち、身体に鈍い痛みが生まれる。
よせばいいのに、スワビ、パナタ、モアーニが岩陰から飛び出して、巨大鬼の気を引こうとする。一瞬、魔物は目標を定められず狼狽し唸るが、再び倒れているおれの姿を見定める。
戦士として、魔物と戦い命を落とすことは恥じることではない。だが、おれは戦いから逃げた挙句、うっかり命を落としてしまうのだな。身体は痛みで動かず、自虐の笑みを浮かべることしかできない。
全てを諦めたおれの眼前に、どこからか無数の光が飛来した。
それはおれにとって希望の光、そして、苦難の旅の始まりを示す光でもあった。
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