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第19話 白玉ぜんざい
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お盆の期間は学校に立ち入ることが出来ない。
紫乃木家のお墓参りを終え、麗は自宅のリビングでだらだら過ごしていた。なぜなら文芸部の備品のノートパソコンはミイナが持っていったし、3日後には部活が始まるからだ。運動部も真っ青の詰め詰め日程である。何も出来ないわけだし、貴重なお休みはしっかり休養に充てないとね。
「麗、夏休みの宿題は終わったの?」
冷蔵庫から麦茶を取り出しつつ、姉の一子がおせっかいな言葉をかけてくる。
「ぼちぼちでんなぁ……」
「お盆明けにはデバッグの追い込みが待ってるんだから、出来るだけ終わらせておかないと後で泣きを見るわよ」
「へーい。このドラマが終わったらやりますよー」
一子はわざとよく聞こえるようにクソデカ溜息を吐いて、自室へ戻って行った。その姿を見送り、ソファーの上で麗はノートを開く。各ページにビッシリと文章が書かれている。
体を起こしノートをリビングテーブルに置き、シャープペンで文章の続きを書き始めると、カーペットに転がしておいたスマホから着信音が再生された。
「はい。ミイナ先輩、どうしました?」
『だらだらしてるところゴメンね。今日、出て来られるかな。駅前のファミレスとかでお話ししない?』
「どうしてだらだらしてること知ってるんですか……。わたしは暇なんで大丈夫ですよ」
『じゃあ、1時間後でいいかな。そのノートも持って来てね』
麗はリビングを見回して監視カメラを探す。あるいは今回ホラー展開なのかもと訝る。
「先輩、超能力とか覚えました?」
『さっきイッチーに電話して聞いたの。別に今回の話はホラーじゃないよ』
心を読まれてる……ッ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あたしはパフェにしようかな。このシャインマスカットの……は高いなぁ。パンケーキくらいしか頼めないや」
「うーん。さっきお昼ご飯食べたばっかりなので、わたしはこの白玉ぜんざいにします」
「……もしかして麗ちゃんって結構食べる方? 痩せの大食いみたいな」
「和菓子系が好きなんです。なんでだか、和菓子はお腹に溜まらないんですよね」
そうなんだ、と微笑んで、ミイナはテーブル上の注文用タブレットをタップした。
「あの、先輩。この前のアイデアの話ですよね? わたしが思い付いた」
「うん。早く聞きたかったのと、イッチーがいるとややこしくなりそうな気がしたから」
先輩は姉のことを随分と理解したもんだ、麗はそう思った。そして恐る恐るトートバッグから秘伝のノート、もとい大学ノートを取り出した。
「こちらをご覧くださいな」
「ふむ、どれどれ……。こ、これは!」
「ふぉっふぉっふぉっ。これを読んだ者は、わたし以外では先輩が初めてじゃぞ」
そんな茶番はさておき、ミイナはノートのページを捲って読み進めていく。
「あー、なるほど。ストーリーだね。ステージの前後に……去年コンテストに出品したのと同じような感じかな」
「そうです。ゲームを配布するって聞いてから、もっとコンシューマーゲームに寄せた方が良いんじゃないかって考えてて。去年皆さんが作ってらっしゃったゲームは綺麗なイラストとテキストで、プレイヤーがゲームを進める理由みたいなものを上手に説明してたなって思ったんです」
ミイナは指を鳴らそうとするが、カスッと指が擦れる音しか出ない。
「このページに描いてある画面イメージさ。下の方にテキスト枠を表示して、その上に話してるキャラクターの顔があるけど、史緒里ちゃんにイラストを描いてもらうってこと?」
「いえ、そこは3Dモデルを流用する想定です。えと、つまり……、ミイナ先輩にそういうプログラムを組んでもらうっていう……」
「なるほどぉー」
目を瞬かせて、ミイナは革張りのソファーに身を預ける。
「これは確かに、今のタイミングでは言いづらいね。それでもこれだけビッシリとノートに書いてくれたんだ。ありがと」
「あの、わたしは無理に実装してもらおうなんて思ってません。今後のゲーム作りに役に立つかもっていうくらいなので、今回はスルーしてください」
「なんで? やろうよ。ストーリー、あるに越したことはないんだから」
「でも……」
麗が言いかけたところで、パンケーキと白玉ぜんざいが運ばれてきた。いったん休戦して、ふたりはもくもくと食べる。パンケーキはフワフワで、上に乗ったバニラアイスもクリームも、お互いの味が溶け合って口の中を幸せで満たしてくれる。
一方、白玉ぜんざいは王道の甘味。ぜんざいは冷やしても美味しいなんて卑怯だ。そして白玉のもちもち感がたまらない。一緒に食べるとなお美味し。
「先輩、今回はグルメ回でもないですよね?」
「まあいいじゃない、美味しいんだから。それより、でも……の次は何だったのかな」
「……今から実装を始めるとしたら、先輩の負担がかなり大きくなると思います。今の仕様でコンテストに出して、その後実装してもいいんじゃないでしょうか」
フォークを皿の上に置いて水を飲み、ミイナは腕を組んだ。天井を仰いでしばらくの間、目を閉じ、そして開く。
「あたしたちってさ、何のためにゲーム作ってるんだろうね」
「それは、いつか皆が驚くようなゲームを作りたいからです」
「だよね。なら妥協はしちゃダメなんじゃない? あと、コンテストに出品したらすぐ次のゲーム作りを始めるよ。今のゲームは9月末で開発終了」
「先輩はいいんですか? この間先輩がおっしゃってたみたいに、デバッグのこと考えたら夏休みが終わるまでには実装しないと」
麗の心配そうな顔に対し、ミイナは自信ありげな笑みを浮かべた。そしてパンケーキをガッと頬張り、麗に宣言する。
「らいひょうふ! みょねんもほんなほほがはったから!」
「ちゃんと飲み込んでから喋ってください!」
紫乃木家のお墓参りを終え、麗は自宅のリビングでだらだら過ごしていた。なぜなら文芸部の備品のノートパソコンはミイナが持っていったし、3日後には部活が始まるからだ。運動部も真っ青の詰め詰め日程である。何も出来ないわけだし、貴重なお休みはしっかり休養に充てないとね。
「麗、夏休みの宿題は終わったの?」
冷蔵庫から麦茶を取り出しつつ、姉の一子がおせっかいな言葉をかけてくる。
「ぼちぼちでんなぁ……」
「お盆明けにはデバッグの追い込みが待ってるんだから、出来るだけ終わらせておかないと後で泣きを見るわよ」
「へーい。このドラマが終わったらやりますよー」
一子はわざとよく聞こえるようにクソデカ溜息を吐いて、自室へ戻って行った。その姿を見送り、ソファーの上で麗はノートを開く。各ページにビッシリと文章が書かれている。
体を起こしノートをリビングテーブルに置き、シャープペンで文章の続きを書き始めると、カーペットに転がしておいたスマホから着信音が再生された。
「はい。ミイナ先輩、どうしました?」
『だらだらしてるところゴメンね。今日、出て来られるかな。駅前のファミレスとかでお話ししない?』
「どうしてだらだらしてること知ってるんですか……。わたしは暇なんで大丈夫ですよ」
『じゃあ、1時間後でいいかな。そのノートも持って来てね』
麗はリビングを見回して監視カメラを探す。あるいは今回ホラー展開なのかもと訝る。
「先輩、超能力とか覚えました?」
『さっきイッチーに電話して聞いたの。別に今回の話はホラーじゃないよ』
心を読まれてる……ッ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あたしはパフェにしようかな。このシャインマスカットの……は高いなぁ。パンケーキくらいしか頼めないや」
「うーん。さっきお昼ご飯食べたばっかりなので、わたしはこの白玉ぜんざいにします」
「……もしかして麗ちゃんって結構食べる方? 痩せの大食いみたいな」
「和菓子系が好きなんです。なんでだか、和菓子はお腹に溜まらないんですよね」
そうなんだ、と微笑んで、ミイナはテーブル上の注文用タブレットをタップした。
「あの、先輩。この前のアイデアの話ですよね? わたしが思い付いた」
「うん。早く聞きたかったのと、イッチーがいるとややこしくなりそうな気がしたから」
先輩は姉のことを随分と理解したもんだ、麗はそう思った。そして恐る恐るトートバッグから秘伝のノート、もとい大学ノートを取り出した。
「こちらをご覧くださいな」
「ふむ、どれどれ……。こ、これは!」
「ふぉっふぉっふぉっ。これを読んだ者は、わたし以外では先輩が初めてじゃぞ」
そんな茶番はさておき、ミイナはノートのページを捲って読み進めていく。
「あー、なるほど。ストーリーだね。ステージの前後に……去年コンテストに出品したのと同じような感じかな」
「そうです。ゲームを配布するって聞いてから、もっとコンシューマーゲームに寄せた方が良いんじゃないかって考えてて。去年皆さんが作ってらっしゃったゲームは綺麗なイラストとテキストで、プレイヤーがゲームを進める理由みたいなものを上手に説明してたなって思ったんです」
ミイナは指を鳴らそうとするが、カスッと指が擦れる音しか出ない。
「このページに描いてある画面イメージさ。下の方にテキスト枠を表示して、その上に話してるキャラクターの顔があるけど、史緒里ちゃんにイラストを描いてもらうってこと?」
「いえ、そこは3Dモデルを流用する想定です。えと、つまり……、ミイナ先輩にそういうプログラムを組んでもらうっていう……」
「なるほどぉー」
目を瞬かせて、ミイナは革張りのソファーに身を預ける。
「これは確かに、今のタイミングでは言いづらいね。それでもこれだけビッシリとノートに書いてくれたんだ。ありがと」
「あの、わたしは無理に実装してもらおうなんて思ってません。今後のゲーム作りに役に立つかもっていうくらいなので、今回はスルーしてください」
「なんで? やろうよ。ストーリー、あるに越したことはないんだから」
「でも……」
麗が言いかけたところで、パンケーキと白玉ぜんざいが運ばれてきた。いったん休戦して、ふたりはもくもくと食べる。パンケーキはフワフワで、上に乗ったバニラアイスもクリームも、お互いの味が溶け合って口の中を幸せで満たしてくれる。
一方、白玉ぜんざいは王道の甘味。ぜんざいは冷やしても美味しいなんて卑怯だ。そして白玉のもちもち感がたまらない。一緒に食べるとなお美味し。
「先輩、今回はグルメ回でもないですよね?」
「まあいいじゃない、美味しいんだから。それより、でも……の次は何だったのかな」
「……今から実装を始めるとしたら、先輩の負担がかなり大きくなると思います。今の仕様でコンテストに出して、その後実装してもいいんじゃないでしょうか」
フォークを皿の上に置いて水を飲み、ミイナは腕を組んだ。天井を仰いでしばらくの間、目を閉じ、そして開く。
「あたしたちってさ、何のためにゲーム作ってるんだろうね」
「それは、いつか皆が驚くようなゲームを作りたいからです」
「だよね。なら妥協はしちゃダメなんじゃない? あと、コンテストに出品したらすぐ次のゲーム作りを始めるよ。今のゲームは9月末で開発終了」
「先輩はいいんですか? この間先輩がおっしゃってたみたいに、デバッグのこと考えたら夏休みが終わるまでには実装しないと」
麗の心配そうな顔に対し、ミイナは自信ありげな笑みを浮かべた。そしてパンケーキをガッと頬張り、麗に宣言する。
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「ちゃんと飲み込んでから喋ってください!」
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