Owl's Anima

おくむらなをし

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第3章 星の記憶 編

第23話 vs.Leviathan(レヴィアタン戦)

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 景色が物凄い速さで後ろへ流れていく。小さなしまが見えたかと思えば、次の瞬間には視界から消えている。時々、鳥のような影が、一瞬映っては見えなくなる。低い位置にある雲を通り過ぎる度、氷のようなものがアウルの体に当たり弾ける。
 ジェット機に乗ったことはないけれど、こんな感じかな。何かが突然前に現れても、絶対避けられないだろう。

 アウルと視界を共有してから、体感で2時間くらい経っただろうか。甲斐さんに包まれていた感触は既に無くなっている。もう意識は、私の身体に戻れないのかも知れないし、このままアウルと同化して、私という存在は死んでしまうかも。それでもいい。私は、自分の役目を果たすんだ。

 大きな陸地が見えてきた。あれがアメリカか。

 アウルが徐々に速度を落とす。海岸線では、大きなりゅうの形をしたレヴィアタンが大暴れしている。喰らいつく機体マキナたちを振り解き、陸地に上がろうとするたび、数のちからで海へ押し返されている。
 恐竜のような形の機体マキナが、ぞろぞろと20体ほど戦いに参加しているみたい。数体と聞いていたのに、この短期間でクロエは、仲間をたくさん増やしたんだ。

 アウルに先んじて、飛龍ワイバーンが血気盛んにレヴィアタンへ襲いかかった。薄い翼をやいばのようにして斬りかかる。敵の外皮が裂けるが、すぐに黒い泡が噴出して再生してしまう。
 やはりアウルたちよりも、ふた回りは大きい。再生能力を考えると、ちょっとずつ削っても無駄だろう。どうやって止めれば……。

沙織さおり。今、こいつには話が通じない。まるで、何かに支配されているみたいだ。止めるなら倒すしかない』

 ……アウル、弱点とか、分からないよね。

『どうだろう。中は柔らかいんだろうけど、簡単に外側をがせるとは思えないな』

 相談していると、レヴィアタンのあおく光る目がこちらを向いた。奴の背の翼が、やいばのような形に変化する。飛龍ワイバーン真似まねたか?
 そのやいばが回転しながら、アウルに迫ってくる。
 アウルは宙に浮いたまま体をらせてかわす。

 巨大なちょうが、羽からあか鱗粉りんぷんのような煙を出してレヴィアタンの視界をさえぎる。
 この子は、話は出来ないけど味方のようだ。

 ……アウル、いったん離れよう!

 海岸に降り立ち、恐竜型の機体マキナたちを見渡す。クロエの姿は見当たらないが、どこかから彼らを使役しているのだろう。

 あかい煙が風で流され、レヴィアタンの頭がもう一度、あらわれる。奴は既に口を開いていて、光を放出しようとしていた。
 まずい、おそらく光線か何かが来る。
 アウルの腕を広げて、周りの機体マキナたちに散開するよううながす。気付いた数体が、その場から急いで離れる。

 レヴィアタンの口からレーザーのようなあおい光が放たれ、海岸をなぞる。地面がえぐられ、光をまともに受けた数体の機体マキナが、上下に引き裂かれていく。

 アウルは上昇して光から逃れようとする。レーザーが追いかけるように迫って来てアウルの尾を切断した。
 飛ぶちからを失い地面に堕ちながら、アウルは尾の再生をし始める。

 追撃を覚悟するが、レヴィアタンのレーザーは途切れた。どうやら、長い時間放ち続けることは出来ないようで、疲れたのか奴の動きがにぶる。

『沙織。僕は君が考えた形になれる。あいつの動きを止めて、みんなでいっせいに攻撃したら壊せないかな』

 攻撃が出来るように、動きを止める形……。
 私の意識の中で、今までの生活や学校での出来事がぐるぐると駆け巡る。何かヒントにならないか、探す、探す、探す。

「先輩、型付けってどうやってるんですか?」
「こうやってボールを入れて、ゴムバンドで縛るといいよ。色んな方法があるけど、私はこれで十分じゅうぶんかなぁ」

 私は、ソフトボール部で守備の上手かった先輩との会話を思い出した。うまくグローブを閉じられなくて、ポロポロとボールがこぼれてしまっていた時に、相談したのだ。私は面倒くさがりで、いつもグローブをそのままバッグに入れていた。バッグの中で畳まれているからいいだろうと思ってたけど、それはダメだったらしい。

 ……アウルは紐になれる?

『ヒモって何? 沙織がイメージしてよ』

 私はアウルが伸びて太い紐になり、レヴィアタンに巻き付く想像をした。
 アウルはその姿を変え始め、奴に向かって伸びていく。

 気付いたレヴィアタンが尾を激しく振る。その動きもとらえて、アウルは奴の周りをぐるぐると回りながら体を伸ばしていく。
 レヴィアタンは、一直線になり動きが取れなくなったことで、バランスを崩して横倒しになる。海岸に頭を強く打ちつける。土煙が上がり、風で流されていく。

 見え始めた奴の頭へ向かって、クロエの使役している機体マキナたちからの光弾が激しく飛び交う。さらに土煙が上がり、辺りを包んでいく。

 しばらくの攻撃が続いたあと、レヴィアタンは激しく体をくねらせ始める。その強いちからに抵抗できず、アウルの紐状の体は徐々に引きがされていく。
 そして、起き上がったレヴィアタンは、ボロボロになった頭から泡を噴き出しながら、もう一度口を開けて光を溜め始める。

 またレーザーを放つ気だ。クロエの使役する機体マキナたちはかなり近くにいる。このまま放たれたら、ほとんどが射程圏内になる。

 私はもう一度、強くイメージする。今度は、紐じゃなくて、この形状のまま内側に向かってやいばになるよう想像する。そして、思い切り締めつける感覚をアウルに送る。

 アウルはバネのような形状のまま、内側を鋭く尖らせ締めつけて、レヴィアタンの体を切断していく。
 等間隔に切断された体は、それぞれが飛び散り離れていく。

 だが、それぞれから黒い泡が噴き出し、再びりゅうの姿を形成しようと繋がり始めた。やはり、頭を完全に破壊しないといけないのか。

 奴の開いた口の光が強く輝き出す。もう止められない。

 その瞬間、視界に飛び込んできた大きな影。
 レヴィアタンの開かれた口を切断し、上顎うわあご下顎したあごを切り離す。光が霧散していき、奴の頭の内部が露出する。

『今だクロエ! 皆の光の弾でアイツの頭を吹き飛ばせ!』

 意識の中に響いたのは、アイラの声だ。さっきの影はアナンタか。
 海岸の機体マキナたちが光弾を放出する。レヴィアタンの頭の中の柔らかい、むしうごめく部分に光がぶつかっていく。

 そして、レヴィアタンの体は泥に変わり、海へと崩れ落ちていった。

 同時に、私の意識は消失した。
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