Owl's Anima

おくむらなをし

文字の大きさ
上 下
18 / 29
第2章 クロエ・グティエレス 編

第18話 vs.Dinosaurs(恐竜戦)

しおりを挟む
 ぽつり、ぽつりと雨が降り出した。空は急に現れた灰色の雲に覆われ、朝陽の光がぼんやりと薄らいでいく。同時に、強い風が吹き始めた。
 クーパーが物凄い速度で走って行ったあとを、わたしたちも辿たどって走る。
 木々は左右に折れ、土はえぐられ、四肢の爪の跡がはっきりと地面に刻まれている。

「ベロニカ、相手はどこにいるの?!」

 100フィートもあるなら、そろそろ見えても良さそうだが、深い森の巨木が邪魔だし、雨で遠景がかすんでいるせいか、クーパーすら視界に入ってこない。

「もう少し……見えた!」

 木々の葉のあいだに、ちらちら、クーパーとみ合う相手の姿が見えてきた。あれも図鑑で知っている。Tレックスの形だ。
 ようやく森の木が低くなった場所に着き、全貌がはっきりした。大きな頭に太い胴体、短い両腕に、体を支える太い両脚。長い尾を振りながら、クーパーとぶつかり合っている。

「アイツらは何をしているんだ。じゃれ合いにも見えるな」
いてみようか。……クーパーが冷静なら」

 ……ねぇ、キミはその子と戦ってるの?

 問い掛けると、クーパーは一旦、身を引いて相手との距離を空ける。

『話が出来ないんだ。だから止めるしかない。何かい方法はあるかな』
「ベロニカ、止める方法、あるかなって」

 彼女はTレックスを眺めながら、あごに指を当てて考える。
 一方のTレックスは鼻から蒸気のようなものを噴き出して、クーパーをにらんでいる。

「恐竜を捕えるか。いや、頭を冷やせばいいのでは? だったら……」

 わたしはベロニカの言葉をクーパーに伝える。

『やってみるよ。上手く出来るかな』
「クーパーなら大丈夫。レディ、ゴー!」

 クーパーが姿勢を低くして、Tレックスへ向かって駆け出す。
 Tレックスは、尾を激しく振ってクーパーをはじこうとする。その攻撃をかわして、そのままの勢いで横を通り過ぎ、逃げるようにクーパーが、森に自分で作った獣道を戻って行く。Tレックスは混乱したように、クーパーを追いかけ始めた。

「よし、このままみずうみまで誘導できれば、Tレックスを落ち着かせることが……」

 ベロニカの言葉は、ヘリのプロペラが空気を切り裂く音でさえぎられた。彼女は舌打ちして、雨降る空を見上げる。

「軍のヘリか。Tレックスを追いかけてきたんだ。クーパーにも気付いただろう、まずいな」
「サムがなんとかしてくれるんじゃないの?」
協力者サポーターが権力者でもない限り、もう止められないと思う。あとは軍の判断だろうが、またこの辺りが火の海になるかも知れないな」
「そんな……」

 その時、またベロニカのスマートフォンから通知音が再生された。彼女は画面を観て、すぐにわたしにも見せる。
 カメラで撮ったものだ。荒い画像だが、たくさんの恐竜の形状が映っている。海岸のようだから、この辺りじゃない。テレビかウェブ、もしくはSNSの映像だろう。そのあとに続くメッセージを読む。

『軍が怪獣たちと戦闘中だ。他の国には一切、知らせていないらしい。知られたら、その隙を突いてくる国があるだろうからね。強い情報規制がおこなわれている』

 ベロニカがスマートフォンをポケットに入れながら、クーパーたちが進んで行ったほうにらむ。

「あのTレックスだけじゃない。次々と海から怪獣が現れるんだ」

 わたしはみずうみに向かって駆け出した。すでに地面はぬかるんでいて、さらにクーパーたちの脚跡あしあとのでこぼこに足をとられ、上手く走れない。ベロニカがわたしのあとを追いながらく。

「何をする気だ。クーパーたちの戦いに巻き込まれるぞ!」
「もう一度クーパーと、あと、あのTレックスとも、話をしたい。彼らが何のために海から来てるのか教えてもらうの!」

 もと来た大きな獣道を走って戻ると、小さなみずうみの中でクーパーたちが対峙していた。
 わたしは、Tレックスに向かって叫ぶ。

「ねぇ! わたしの声、聴こえる? 言葉、分かる?!」

 Tレックスが声に反応して、目をあかく光らせた。

『この子からさっき、聞いたよ。本当にボクらと話ができるんだね』
「キミたちは、どうしてここに来たの? 海には居られないの?」

 鼻から蒸気を噴き出して、Tレックスは答える。

『ボクらの世界は、もう限界だ。数が増えすぎて、ケンカばかりなんだ。だからみんな、外の世界に出てきてるんだよ』

 わたしはベロニカに、Tレックスの言葉を伝える。

「まるで私たちの世界と同じような状況じゃないか。もしかしたら地球自体が、限界なのかも知れない」
「どうする? この子も仲間になってくれるかな」

 ベロニカはまたあごに指を当てて考える。しばらく考えて、何か思いついたようにクーパーとTレックスを眺める。

「Tレックスにひとつ演技をしてもらって、そのあと、海にかえってもらおう。彼は目立ちすぎるし、この場所はかくまうには狭すぎる」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 軍のヘリが戻ってきた。プロペラの音は、森の木々に反響してみずうみの空気を震わせる。

「クーパー、始めて!」

 クーパーがTレックスに突撃する。それを短い両腕でがっちりと受け止めて、Tレックスはクーパーを投げ飛ばす。
 横倒しになったクーパーに、Tレックスは尾を振り回して強く当てる。

 咆哮ほうこうを上げて、クーパーはみずうみの中に落ちていく。
 Tレックスが大仰おおぎょうな声を上げて、ヘリをにらむと、みずうみから出て西へと走り出す。
 ヘリはその姿を追いかけるように、強い雨の降る中、西の空へと飛んで行った。

 わたしとベロニカは、茂みから飛び出して、ハイタッチする。

「すごい、すごい! あの子たちの演技、最高!」
「あのヘリは偵察機だな。ミサイルを搭載していなかった。よほど注意深くない限りは、ここへは戻ってこないだろう」

 わたしは何度もうなずいて、クーパーに言葉を伝える。

 ……ありがとう。上手くいったよ。

 クーパーが、湖面に少しだけ顔を出す。

『あいつ、本気で叩いてきたな。次に会ったらボクも……』
「そういうこと言わないの。演技って、あれくらい大袈裟おおげさにするものよ」
『ボクも早く、大きな所で泳ぎたいよ。クロエ』

 わたしは驚く。今、クーパーがわたしの名前を呼んだ。

「名前、覚えてくれたの?」
『だって、キミはボクの大事な友達なんだ。名前くらい覚えるさ』

 友達……。

 わたしは嬉しくて、満面の笑顔で叫ぶ。

「そうだね! わたしたち、友達だ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

怪物どもが蠢く島

湖城マコト
ホラー
大学生の綿上黎一は謎の組織に拉致され、絶海の孤島でのデスゲームに参加させられる。 クリア条件は至ってシンプル。この島で二十四時間生き残ることのみ。しかしこの島には、組織が放った大量のゾンビが蠢いていた。 黎一ら十七名の参加者は果たして、このデスゲームをクリアすることが出来るのか? 次第に明らかになっていく参加者達の秘密。この島で蠢く怪物は、決してゾンビだけではない。

ロボリース物件の中の少女たち

ジャン・幸田
キャラ文芸
高度なメタリックのロボットを貸す会社の物件には女の子が入っています! 彼女たちを巡る物語。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...