影に潜む銃声

９

リヤは毎日、赤子を育て、家事をこなし、少しずつ家族が成長していくのを見守りながら、心の中で静かな幸せを感じていた。紛争が日常の一部となり、爆撃や銃声の響く街並みの中でも、家に帰ると家族の笑顔が待っている。家の中で、彼女の世界は穏やかで、平穏無事であるように思えた。それが、リヤの小さな幸せだった。

だが、その日常にひびが入る瞬間が訪れた。

ある日、リヤは市場に出かけた際に、偶然立ち寄ったカフェで、若い男たちが耳打ちし合うのを聞いてしまった。彼らの話す内容に耳を澄ませると、それは新たな組織の話だった。最初は単なる噂かもしれないと思ったが、リヤの胸に強い不安が広がった。組織の名前や目的はすぐに明らかになった。

その組織は、国家を揺るがすほどの革命的な力を持ち、あらゆる方法で体制を打倒しようとしているという。街中で起こる暴力的な殺人事件や無差別な襲撃が、その組織の活動の一環であるということが次第に広まった。リヤはその情報に、冷たい汗を感じていた。目の前で起きる一つ一つの事象が、彼女の心を不安で満たしていく。

家に帰ると、リヤは夫にそのことを話すことに決めた。夫は喋れないが、リヤの目をしっかりと見つめ、静かに頷いた。彼の目には恐れが映っていた。彼もまた、リヤの心の不安を感じていたのだろう。

その後、数週間の間に、リヤの周りの町でも次々と暴力事件が起きるようになった。誰もが怖れを感じ、家を出ることすらためらうようになった。街の雰囲気は一変し、人々の表情は張り詰め、誰もが気を引き締めて過ごしていた。

そしてついに、リヤの家の近くで起きた事件が、彼女の心に強く残ることとなった。ある晩、家の近くで銃声が響き渡り、リヤは不安と恐怖に駆られて家の中で震えていた。翌日、その場所で起きた事件の詳細が明らかになると、それが新たに発足した組織による犯行であることが分かり、リヤは深い絶望感に囚われた。

彼女は、こうした暴力や革命の波が、ついには自分の身近なものにも及ぶことを恐れていた。家族を守るために、日常の中で平穏を築きながらも、リヤの心の中ではその恐怖と疑念が深まっていった。彼女はひとりで何とかそれに立ち向かうべきか、いや、家族を守るためには自分も戦わなければならないのかという葛藤が、日々の生活に暗い影を落としていた。

だが、リヤはまだ答えを出せなかった。彼女が求めているのは、あの静かな日常、無邪気に笑い合う家族との時間だった。そのためには、この紛争や革命の波に巻き込まれることなく、生きていかなければならない。しかし、どんなに願っても、リヤの周りでは、現実がそれを許してくれなかった。

リヤは再び赤子を抱きしめ、静かに思った。

「どうしてこんな世界に生まれてしまったのだろうか？」

その問いが、リヤの心に響き渡る。彼女は答えを探していた。答えが見つからない限り、この混沌とした世界に立ち向かうことはできないだろう。だが、リヤにはただ一つ確かなことがあった。それは、家族を守るためには、どんな手段でも選ばなければならないという覚悟だ。