ラン

ドルドレオン

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 酒というものは、わたしにとって血のようなものだ。そう思いつつ、ふふ、と笑い、コップに日本酒をどくどくと注ぎこむ。目の前にいるランという男は、黄ばんだ歯をのぞかせて、こちらを見る。
 わたしたち二人は、社会人になってから出会い、腐れ縁のようなものだが、お互い仲がいい。酒を飲む能力も同じぐらいだ。ランはしきりにコップの酒を飲み、あはは、と笑う。あはは、と間抜けなツラをしながら笑うのが、ランの癖だ。
 夏だというのに、妙に涼しい。そして変に寂しい夜だ。二人はつまらないものを面白おかしく話し、はた目から見たら、なんでそんなことで笑うのだろう、という疑問を抱くかもしれない。わたしの話す物語は、たいそうなものじゃない。むしろどこにでもある小話だ。それでもランはげらげら笑う。
 わたしはげそを歯で食らい、酒を口の中に入れ、味わっていた。ランは最近になって、精神的危機から抜け出していた。仕事をやめるまで追い詰められ、上司のパワハラにも耐え、苦しい日々を送っていたらしい。他人を非難することが出来ない彼は、自分自身を追い詰めていた。
 わたしはアイコスのたばこを吸い、じっとランの目を見た。そこには人生に対する虚脱感が見てとれた。夜は静かだった。二人はただ話す。そうして会話が途切れると、沈黙が来るのだが、その沈黙も悪くないものだ。
 ランはうつむいた。そこには何の意味もないが、わたしには人生に失望した男に見えた。ランは女癖が悪かったらしい。「おれは社会の底辺だ」そう言ったのを何度も聞いたことがある。
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