法律なんてくそくらえ

ドルドレオン

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「ゔっ・・」

「妃殿下、どうされましたか!」

口を押さえるエルメは、気分が悪そうだ。慌てた侍女のサラがエルメの背中を擦り、心配そうに声をかける。

「ご気分がすぐれませんか?」

「・・・ぎもぢわるい・・」

青ざめた顔でエルメの口からやっと出てきたセリフに、サラは慌てて彼女をベッドへ連れて行くと、医者を呼びに姿を消した。

(ゔー、ヤバいな・・・この気持ち悪さ・・あー吐きそう・・・・)

エルメがベッドで苦しんでいると、扉が勢いよく開き、顔面蒼白のマリオンが入ってきた。

「エルメッ!!」

そう叫びベッド脇に跪くと、彼女の額に手を置く。

(声・・声大きいから・・ゔゔ・・)

「熱はないようだな。君が倒れたと聞いて、駆けつけたんだ」

マリオンの言葉にエルメは、ニヘラァ~と力のない笑みを浮かべると、そこに皇帝と皇妃まで駆け込んできた。大袈裟な家族総出のお見舞いにエルメの吐き気が増す。

「気持ち悪いの?吐き気?」

そう聞いてくるのは、皇妃エリザベートだ。いつもの優雅な雰囲気はどこへやら、心配そうにしている。

更に込み上げてきた吐き気は見守る皆の不安を増し、想像力をかきたてる。

「ねえ、もしかして子供ができたんじゃないの?」

このエリザベートの言葉にそれが事実なら爺になる皇帝ダリオンは、目尻を下げ、父親になるマリオンは微妙な表情を浮かべた。

その時、サラに連れられてやってきた医者が、三者三様の感情を表す騒々しい見舞い客を丁寧に追い出すと、診察を始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「申し訳ございませんでした」

ベッドの上で頭を下げるのは、エルメだ。彼女が頭を下げる理由、それは昼間の体調不良の原因が妊娠ではなく、傷んだお菓子を口にした食あたりだったからだ。

前にエルメ自身が取り寄せたお菓子が引き出しの奥から一つだけ出てきた。小腹の空いていた彼女は、何の躊躇もなくそれを口にしたのだ。

「なぜそんなもの食べたんだ?」

呆れるマリオンが問いただすと、エルメは肩を落とし答える。

「焼き菓子だったから、大丈夫かなぁと思って・・それにちょっとだけお腹空いてたから、あー、十時のオヤツだなぁって思っちゃって、手を出しました」

「全く・・食あたりだと分かった時の父上と母上の顔を見ただろう?」

マリオンの言葉通り、医者から食あたりだと言われたダリオンとエリザベートは、ショックで放心状態になり、肩を落として部屋から出ていった。その後ろ姿は、エルメの目に焼き付いている。

「はい・・」

「とにかく明日二人にも謝っておけ」

「はい・・・」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ゔゔ・・まだぎもぢわるい・・」

「まあ、大変!お医者様を呼びに!」

「あっ、ダメ!ザラ、我慢ずれば大丈夫だがらいがないでぇ」

「何を仰るんですか!ダメです。すぐに呼びに行ってまいります」

鼻息荒く出ていくサラを見送るエルメは、顔を青くしていた。

あの妊娠騒動から一週間。既視感半端ないやり取りにさすがに二度目の騒動は、マリオンからお小言をもらうだけではきっと済まないと、エルメは別の意味で気分が悪くなる。

(ゔゔ~、にげぢゃおゔかな)

そんな考えがエルメの頭をかすめ、体調不良の身体を何とか動かし、ヨロヨロと扉から出ていった。
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