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 男はシャポーをかぶり、東京の街を歩く。雨が降り落ちる。果たして、自分の愛情は他人を救えるのか、いや、助けになるのか、と考えている。
 男は事業を成功させた。それまでに何度か破産を経験していた。ハングリー精神が、彼を突き動かすのが常だった。成功した時、これでやっと社会的に認められると、思った。
 上野には人がたくさんいる。そこをそっと練り歩き、夜のつまみを買う。ずいぶんと疲れた指をしている。彼は手のひらをじろじろ見る。仕事に精を出しすぎて、もっと大事なものを見落としていた。女を好きになってから、少しだけ、自分のことも好きになってきた。それでも、自分自身が何もできないと、そう考えていた。
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