上 下
55 / 80
東京編

オオカミと仔羊

しおりを挟む

 2021年12月27日(月)

 今日は年内(2学期)最後の登校日。
 
 授業はなくて、ホームルーム中に通信簿を貰い、
 ホームルーム終了後班ごとに決められた場所を
 掃除してから帰途につく。
 
 
「あー、あや。これから何か予定ある?」

「ううん、今日はないけど」

「じゃ嵐山茶房付き合ってよ。例の新作スイーツ
 今日からお披露目だって」
 
「オッケー。いいよ行こ」



 麻布十番商店街にある『嵐山茶房』は、
 京都は宇治産の良質なお抹茶をふんだんに使った
 甘味が評判の和スウィーツのお店。  

 カウンター席の他にテーブル席も結構あるけど、
 試験後や長期休暇に入る前などお店はほとんど
 満席状態になる。


「あー良かった。今日はどっちも空いてるよ」

「いらっしゃい。絢ちゃんに利沙ちゃん」


 って、声をかけてくれたのはこのお店のご主人・
 鷹司 忍さん。
 
 
「ラッキー! マスターもいるよ。
 なら当然カウンター席じゃん」
 
 
 このお店、本店は六本木にあるので店主の忍さんは
 そちらにいる事の方が多い。
 
 マスター贔屓の利沙はそそくさとカウンター席に
 座った。 
 
 『なぁ忍ー、生クリームの配分こんなもんで
  いいかぁ?』
 と、カウンターの後方にある厨房の暖簾から
 顔を出したのは各務さん。
 
 まさかこんな所でまで顔を合わせるとは
 思ってなかった利沙と私は素っ頓狂な声を出した
 
 
「「 あー、センセがどうしてここに、しかも
  厨房にいるの??」」
  
  
「おー、2人揃ってお出ましか」   


 忍さんは各務さんが手にしてるボールの中の
 抹茶クリームをひと舐めして、   


「んー、こんなもんでいいと思うよ」

「了解。じゃ、仕上げに取り掛かるから」


 と、各務さんはまた厨房に戻って行った。
 
 
「あー、そっか。2人とも知らなかったんだね」

「「??」」

「あいつ ―― 竜二とぼくは幼なじみで、あいつ
 あれでもパティシエの資格持ってるから、時々
 店の手伝いして貰ってるんだ」

「へぇぇ~ ―― 人は見かけによらないって
 言うけど」
 
「本当だったんですねぇ……」


 利沙がマスターに恋してるのと同じく、
 私も……彼 ―― 各務さんの事が
 好き、なのかも知れない。
 
 自分の中で彼の存在がどんどん大きくなって
 ゆく……。  


「う~ん……美味しい! 最高!」


 各務さんが私達の為に用意してくれたのは
 2種のロールケーキ。
 
 ひとつはこのお店の看板商品である
 ”手作り粒あんの抹茶ロールケーキ”
 
 そしてもうひとつが新作スイーツ
 ”3種の苺のフレッシュロールケーキ”
 
 
 どちらも甲乙つけがたい美味しさだった。
 
 利沙はさっさと食べ終わると、
 テーブルに自分の代金を置き立ち上がった。


「えっ ―― 何よ」


 利沙は小声で、
 
 
「邪魔者は消えるよ。2人でごゆっくりどうぞ」

「利沙ちゃんも帰るの? 送って行こうか? 
 車で来てるから」
 
「ラッキー。じゃあ、お願いします」     
    
    
 利沙と忍さんは出ていってしまい、
 店内には他のお客さんとか店員さんはいるけど、
 カウンター席には各務さんと私だけ。
 
 何となく気まずい……。
 
 

「―― で、俺は何番目なわけ?」

「えっ?」

「人からのお誘いメールはシカトかますくせして
 さぁ、合コンする時間はあった訳だ」

「!! そ、それを言うなら各務さんだって ――」


 私の脳裏には学校の屋上で見た
 彼と神宮寺さんの姿がちらついている。


「あー?? 俺がどうしたよ」

「神宮寺さんからあんなにモーションかけられてる
 のに、適当にあしらい過ぎだと思います」
 
「あれ~ ―― ひょっとして、ヤキモチ焼いて
 くれてるぅ?」
 
「なっ ―― どうして私がヤキモチなんてっ」


 すると各務さんはレジに立っている店員さん・
 この麻布十番店のマネージャーに声をかけた。
 

「―― あぁ、北見さん。チェックお願いします」

「畏まりました」

「えっ、私まだ来たばかりなんだけど」

「甘いもんなら何時でも食わしてやる。けど、
 嫉妬するほど惚れた男とヤる事は
 もっと他にあるだろ」

「他って……」

「それを今、俺に言わせる気?」

「……」


 う、うわぁぁ……各務さんってば、
 いつになく攻めムード半端ないんだけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...