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風雲、急を告げる

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「―― 失礼しましたぁ」

『寄り道しないで真っ直ぐうちへ帰れよ』

「はぁい」


 職員室から出て来た1人の女生徒・西園寺まりえは
 腕時計で時間を確認しつつ昇降口へと急いだ。


 晩秋の夕暮れは早く、辺りはもう薄暗くなりかけている。


 しかし、まりえは昇降口へ後少しとなった頃
 個人ロッカーへ化学のノートを忘れてしまった事に
 気が付いた。


「あ、いっけね……」


 一瞬”明日でいいか”という考えも浮かんだが、
 運悪く明日の1時限目に化学の小テストがあるので
 そうゆう訳にもいかなかった。

 まりえはため息をつきつつ昇降口とは反対方向
 にある階段へと足を向けた。


 生徒用の個人ロッカーは各教室前の廊下にある。

 ロッカーの中から目的のノートを取り出し
 昇降口へと戻りかけた所でお隣のクラス3ーS、
 通称”特進クラス”の教室の後方の扉がほんの少し
 開いている事に気付き「誰もいないよねぇ――」と、
 一応室内をチラリ覗いてからその扉を
 閉めようとして……室内奥の片隅で
 うずくまっている物体に気が付いた。

 もう誰も居ないと思っていたまりえは
 驚いて扉を全開にしてその物体に目を凝らした……


「!……い、和泉先輩?」


 扉から差し込む廊下からの僅かな明かりで
 見えただけでも、今の絢音が尋常な状態でない事
 だけはまりえにも分かった。

 絢音は涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らし、
 何かに怯えたよううずくまっている。

 
 まりえは踵を返し廊下をまっしぐらに走り出した。


  ”確か今日は生徒会の会合で三上先輩達も
   居残ってたハズ”


 ***  ***


 足早に3ーSの教室を目指す、
 あつし・まりえと幼なじみの理玖。


「――ったく、絢は大ばかだ」

「あっちゃん……」


 イマイチ状況が掴めないまりえは理玖に訊ねる。


「一体何がどうしたの?」

「妊娠してるんだ」

「えっ ――」


 ペロッと口を滑らせた理玖にあつしが声を荒げる。


「理玖っ!」

「ごめん」

「大丈夫。私、口は貝より固いって言われてるのよ」


 後方の扉から教室内へ入った3人はすぐ
 絢音を見付けた。

 気配に顔を上げた絢音は、傍らへ跪いたあつしの胸へ
 縋り付くよう抱きついた。

 あつしは震える絢音の体を優しく抱き寄せ。


「大丈夫、俺がついてる」

「ごめんね、あっくん……」


「あつし。とりあえず保健室に運ぼう」

「おぅ」
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