13 / 26
つかの間の憩い
しおりを挟む
今日は月に1回だけ、
実桜のようなΩのサポーターやシニア達が
屋上での日光浴が許されている貴重な日。
さわやかな初夏の風が吹いて、
実桜の柔らかな金色の髪と薄桃色の肌を
撫でてゆく。
無意識に小さな笑みがこぼれる。
そして、ゆっくりフェンスにもたれ遥か遠くへ
目をやる。
名だたる高級娼館や遊郭が立ち並ぶ
ウエスト・エンドいちの花街。
が、ここと一般の町とを区切る、
高圧電流の流れた堅固でバカみたいに
高い壁が周囲**キロをぐるりと囲っているので
”おい、それ”とは脱出不可能。
正式な通行許可証を所持した者だけが、
大門(おおもん)を通って外の世界へ出る事が
出来る。
『ふふふ……』
不意に聞こえてきた小さな声にびっくりして、
前後左右をキョロキョロ見回す。
「御機嫌よう」
と、実桜の横へ突然湧いて出たよう、
羽衣をまとった年令・性別共に不詳の
元・No.1シニア、桔梗が現れた。
「うわっ ―― びっくりした……」
桔梗は何も言わずただ黙って実桜の顔を
じぃ~っと凝視する。
「…………」
「…………」
その沈黙に耐えられなくなったのは、実桜。
「あ、あの……何か?」
「……キミはまだ牙を失っていない。でもね、
牙は最後の最後、取っておきに隠しておく
ものだよ」
「!!……」
「キミが何を考えているのか。だいたいわかる。
こんなとこに長くいればね。誰もが始めの数ヶ月で
脱走を計画する。だがよほど上手くやらないと
後悔する事になる。僕はそういう仲間をたくさん
見てきた」
「……」
見透かされて実桜は青ざめた。
実桜は震える拳を握りしめ、思わずもらした。
「あんたはどうして逃げないの?……酷い目に
もたくさん遭わされてきたんでしょ」
「キミはやさしいな」
桔梗はふわりと笑った。
「でも、僕は大丈夫。僕は自分の意思でここにいるの
だから。ついでに――独り言だけど ”シニア”に
昇格が決まった生徒はしばらく全ての検査・実験
からは離れて、徹底的に体を磨きこまれる。
会話やマナーといった点に重点をおいた準備が
始まるんだ。キミの場合もともと育ちが良いん
だから、そうした事は今さら問題ないだろう」
(育ちがいいって、言ったって、その肝心な記憶が
欠落しちゃってるんだから、意味がない)
「……」
「それからキミも知っているだろうけど”シニア”
昇格を望むなら、”聡明会”が裏でツルんでる
**組の競売にかけられる。この競売はどうしても
嫌なら拒否する事もできるけど、経験から言わせて
もらえば拒否しない方がいい。それは何故か?は
言わずもがなでしょ?」
「……」
「じゃあ、今日のところはこれで。
日光浴の邪魔をしてごめんね」
そう言い残し、桔梗は現れた時と同じく
風のように去って行った。
実桜のようなΩのサポーターやシニア達が
屋上での日光浴が許されている貴重な日。
さわやかな初夏の風が吹いて、
実桜の柔らかな金色の髪と薄桃色の肌を
撫でてゆく。
無意識に小さな笑みがこぼれる。
そして、ゆっくりフェンスにもたれ遥か遠くへ
目をやる。
名だたる高級娼館や遊郭が立ち並ぶ
ウエスト・エンドいちの花街。
が、ここと一般の町とを区切る、
高圧電流の流れた堅固でバカみたいに
高い壁が周囲**キロをぐるりと囲っているので
”おい、それ”とは脱出不可能。
正式な通行許可証を所持した者だけが、
大門(おおもん)を通って外の世界へ出る事が
出来る。
『ふふふ……』
不意に聞こえてきた小さな声にびっくりして、
前後左右をキョロキョロ見回す。
「御機嫌よう」
と、実桜の横へ突然湧いて出たよう、
羽衣をまとった年令・性別共に不詳の
元・No.1シニア、桔梗が現れた。
「うわっ ―― びっくりした……」
桔梗は何も言わずただ黙って実桜の顔を
じぃ~っと凝視する。
「…………」
「…………」
その沈黙に耐えられなくなったのは、実桜。
「あ、あの……何か?」
「……キミはまだ牙を失っていない。でもね、
牙は最後の最後、取っておきに隠しておく
ものだよ」
「!!……」
「キミが何を考えているのか。だいたいわかる。
こんなとこに長くいればね。誰もが始めの数ヶ月で
脱走を計画する。だがよほど上手くやらないと
後悔する事になる。僕はそういう仲間をたくさん
見てきた」
「……」
見透かされて実桜は青ざめた。
実桜は震える拳を握りしめ、思わずもらした。
「あんたはどうして逃げないの?……酷い目に
もたくさん遭わされてきたんでしょ」
「キミはやさしいな」
桔梗はふわりと笑った。
「でも、僕は大丈夫。僕は自分の意思でここにいるの
だから。ついでに――独り言だけど ”シニア”に
昇格が決まった生徒はしばらく全ての検査・実験
からは離れて、徹底的に体を磨きこまれる。
会話やマナーといった点に重点をおいた準備が
始まるんだ。キミの場合もともと育ちが良いん
だから、そうした事は今さら問題ないだろう」
(育ちがいいって、言ったって、その肝心な記憶が
欠落しちゃってるんだから、意味がない)
「……」
「それからキミも知っているだろうけど”シニア”
昇格を望むなら、”聡明会”が裏でツルんでる
**組の競売にかけられる。この競売はどうしても
嫌なら拒否する事もできるけど、経験から言わせて
もらえば拒否しない方がいい。それは何故か?は
言わずもがなでしょ?」
「……」
「じゃあ、今日のところはこれで。
日光浴の邪魔をしてごめんね」
そう言い残し、桔梗は現れた時と同じく
風のように去って行った。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる