21 / 26
風雲、急を告げる ②
しおりを挟む窓辺の分厚い遮光カーテンに外光を遮られている
治療室内は時間の経過を忘れさせる。
時計を見ると、もう明け方と言える頃だった。
めぐみが倉本の身代わりで刺され。
緊急事態だとはいっても、
とりあえず無事が確認出来た今。
仕事を滞らせる訳にはいかない。
和巴はガラス越しにめぐみの寝顔を見つめ、
彼女の傍らに寄り添っている叔母と真緒に
後は任せて。
出勤し普段通りの日常業務をこなして、
定時終業後この集中治療室へ戻った。
「心拍もしっかりしていますから、
きっと大丈夫ですよ」
軽く礼をして担当看護士が去って行くのを
見送って、その方向から旧友で弁護士の
速水が黒いスーツ姿の初老の男を伴って
やって来るのに気が付いた。
速水とは ”そのうち飲もうね”って話はしたが、
まさかこんな形で再会する事になるとは……。
「―― 色々大変だったな」
「まぁね」
短く言葉を交わしたあとは、自然に視線は速水の
隣に立つ初老の男にいく。
「あ、こちらは警視庁の円谷警視」
「宜しく」
「はぁ ――」
(警視?! 普通、初動捜査には
出張って来ないレベルのキャリアじゃない。
でもどうしてそんなお偉いさんがここに?)
「円谷警視は暴力団対策課の所属でね」
「ぼうりょくだん、たいさくか……?」
あまり聞き慣れない部署名に小首を傾げた和巴に、
円谷は言った。
「マル暴、と言ったらおわかりになるかな」
「?! あ、あの ―― た、確かにめぐみが
傷を負った原因はあのやくざ者だと思いますけど、
この事件はただの傷害なんじゃ ――」
「それがですね。**めぐみさんの血液から
薬物反応が検出されたんです」
「薬物?」
「覚醒剤です」
「! そんな……」
「で、今回の事件は私共本庁と事件現場がある所轄の
新宿署との共同捜査になった次第で」
治療室の中から真緒が出てきた。
「真緒……」
「ちょっとの間、めぐみと母さんの事頼める?」
どうゆう経緯でそうなったのか? は、
分からないが、真緒もめぐみが刺された現場に
偶然居合わせたらしく、これから円谷警視の
事情聴取に応じるという。
「分かった」
真緒は円谷に促されエレベーターの方へ向かった。
「……だから、速水くんも一緒だったのね」
「池谷先輩から連絡貰ったんだ。キミの従姉妹が
刺されて重症だって。それに、本庁の円谷警視が
動き出したって聞いて。居ても立ってもいられなく
なってね」
「……もし、少年審判になったらめぐみは
どうなるの?」
「覚醒剤の所持・使用の罪はあるけど、彼女は被害者
でもある。その点は情状酌量されると思うが……
なんせヤクザ絡みの事件だし、持っていた量と
使ってた量が半端ないから一概には言えない。
最悪の場合、検察官に逆送されて通常の公判になる」
「……」
「公判でどんな結果が出たにせよ。これからは家族の
支えが肝心になってくる。和巴」
「……ん?」
「しっかりしろ。僕で出来る事なら何でも協力する」
「ふふ……ったく、ナマ言っちゃってぇ。……でも、
ありがとね。頼りにしてます」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 他
rpmカンパニー
恋愛
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件
新しい派遣先の上司は、いつも私の面倒を見てくれる。でも他の人に言われて挙動の一つ一つを見てみると私のこと好きだよね。というか好きすぎるよね!?そんな状態でお別れになったらどうなるの?(食べられます)(ムーンライトノベルズに投稿したものから一部文言を修正しています)
人には人の考え方がある
みんなに怒鳴られて上手くいかない。
仕事が嫌になり始めた時に助けてくれたのは彼だった。
彼と一緒に仕事をこなすうちに大事なことに気づいていく。
受け取り方の違い
奈美は部下に熱心に教育をしていたが、
当の部下から教育内容を全否定される。
ショックを受けてやけ酒を煽っていた時、
昔教えていた後輩がやってきた。
「先輩は愛が重すぎるんですよ」
「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」
そう言って唇を奪うと……。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる