本日も満員御礼

川上風花

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喜びは春風と共に

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 小さな通りにひっそり建つうらぶれた感じの
 アパートから綱吉が出てきた。
 
 その表情は何時になく明るくて、
 足取りも弾んでるようだ。
 
 この界隈の目抜き通り”吉原大通り”では
 久方ぶりの花魁道中が行なわれ。
 
 大観衆が集まり固唾を呑んで見守る中、
 老舗遊郭”富藤館”の太夫(たゆう)華富士が
 多くの従者を従えしゃなりしゃなりと揚屋へ向かって
 歩いて行く。
 
 ちょうどその途中に当たった綱吉も道中を見ようと
 するけど、背丈が足らず群衆が邪魔で見られない。
 
 と ―― 横から現れた自分と同い年位の少年が
 綱吉の手を取り、邪魔な人々の間を縫うようにして
 進み、最前列に出る事が出来た。
 
 そうやって初めて見た、
 花魁道中は綱吉にとって夢の世界そのものだった……
 何て事はない、単にお客様に呼ばれて遊女が揚屋入り
 する、というだけの事なのだ。
 
 まぁ、太夫自身と所属する遊郭の宣伝にはなるが、
 道中の必要経費は当然の如く全て太夫の負担になる。
 
 ただでも借金まみれの花魁(遊女)が莫大な借金を
 負う事になるので、こんな散財は間違ってもしない。
 
 
「はぁ~~、綺麗だったね。華富士太夫」

「うん……」


 道中が通り過ぎてしまったあとでも、
 2人は夢見心地だ。
 
 
「あ ―― さっきはどうもありがとう」

「って、なにが?」

「手ぇひっぱってくれたじゃん」

「あぁ ―― あれね。あ、オレ、揚羽(あげは)
 華藤館で働いてる」
 
「揚羽か……源氏名貰えてるって事は、営業許可は
 もう下りだんだ」
 
「うん ―― って言ってもほんの1週間前だった
 けどね。キミは?」
 
「俺は綱吉。実はたった今さっき診療所で許可
 貰ってきたとこなんだ ―― あっ! 早く戻って
 旦那さんに知らせなきゃ。じゃ、揚羽、今度は
 お茶でもしようね」
 
 
 「気をつけて」という揚羽の声に手を振り
 綱吉は翡翠楼に向かって走り出した。
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