本日も満員御礼

序章

「今日も寒いねぇ、辰ちゃん」

「おぉ！　綱吉かぁ、相変わらず元気だねぇ」

「ハハハ　――　俺ってばそれだけが取り柄だし」


　ここはその昔　”吉原遊郭”があった所。
　今の住所で言うと台東区千束４丁目の辺り。

　先月公布された”一部改正・売春防止法”が
　施行され、大小取り混ぜ様々な娼館が新たに出来て、
　この界隈も昔の賑わいを取り戻しつつある。
　
　
「――　あぁ、ツナ。水打ちが済んだら、ちょいと
　勝手口の木戸も直してくれないかい？」
　

　店主に命じられ、表玄関の前で水打ちをしていた
　少年・綱吉（つなよし）は「分かりました」と
　返事をした。


　綱吉の主な仕事は娼婦館”翡翠楼”での雑用だ。

　汚れた部屋の片付けから、使いっ走り、
　店の補修や薪割りといった力仕事で。
　この店の用心棒・甚八とウマが合い、ぽっかり空いた
　時間などに彼から護衛術を教えて貰ったりしてる


　綱吉がこの店に来たのは１０才の時。
　
　小学校へ新入学する時の検診で第二の性がアルファ
　ではなくオメガだったと判明。
　４年にも及ぶ幽閉生活を経て、女衒・手嶌の仲介で
　翡翠楼へ売られて来た。

　普通、陰間（かげま）は数え年で１４を迎える頃、
　陰間として客を取る　――つまり、水揚げされるが。
　綱吉の場合あまりにも体格が華奢で、水揚げ前の
　営業許可が下りず。
　こうして下働きをしながら次の検診日を待っている
　のだ。
　

　けど、綱吉にとって女衒・手嶌と翡翠楼店主・藤岡は
　命の恩人であり、この遊郭で働く人々は家族も同然
　なのだ。
　命尽きるまでこの店の為に身を粉にして働くと
　心に決めていた。