溺愛! ダーリン

川上風花

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そうして物語は動き出す

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 明かりもまともに差し込まぬ、
 裸電球の四畳半ひと間に力なく横たわるだけの俺。
 
 こんな閉鎖されてる空間に長いこといると、
 時間の感覚も曜日の感覚もだんだん薄れ
 なくなってくる……あぁ……ほんと俺、何の為に
 生きてるんやろ……ってか、何の為に生まれて
 きたんやろ。
 
 
 外の廊下をドタドタと、こちらへ向かってくる
 数人の足音 ――
 
 ”うっさいなぁ、寝られへんやん”と愚痴っていたら
 
 やおらこの部屋の襖がガラリと開いて、
 見た事ない男(30代)と俺をこんな状況にした
 張本人のヤクザ男が入ってきた。
 
 
「ったく ―― いつまで寝てやがんだ。起きろ!」


 ヤクザ男が俺の脇腹の辺りへ蹴りを入れた。
 するともう1人の男が何故か慌てたよう、
 
 
「おい、あまり手荒な真似はするな」

「まだ取引は成立しちゃいねぇ」


 ヤクザ男は俺の傍らへしゃがんで俺の顎へ手をかけ、
 俺の顔を上げさせた。
 もう1人の男も見れるように。
 
 
「で、どうだい? なりはちっせーがちゃんと面倒
 見りゃあかなりの稼ぎ手になるぜ」
 
 
 ”なぁんだ”と思った。
 結局この男も連中と同類だ。
 女子供を金の種くらいにしか見ていない……
 最低の人種。
 
 
 もう1人の男の方も俺の横にしゃがみ込んだ。
 
 んで、俺に自分が着てるコートを上から掛けてくれた
 
 
「金は今日中に半額指定口座へ振り込む。残りは
 契約書を確認してからだ。彼は先渡しでいいな」
 
「ん~……あんたのとことは今後も宜しく願いたい
 からな。特別だぜ。連れてきな」
 
 
 と、言ってそのヤクザ男が出て行くと。
 
 入れ違いにこの場には場違いとも思える
 フツメンの男が2人、入ってきた。
 
 俺にコートを掛けてくれた男がそのフツメンに言う
 

「取引は成立だ。金の振込と事務的な手続きは
 早急に頼む」
 
 
 「はっ」と短く答えて、フツメンが1人出て行った。
 
 
 男は俺を見てフッと微笑んだ。
 
 
「詳しい話は家でする。俺と一緒に来るか?」


 可笑しな事を聞く奴だ……この状況で”来るか?”  
 なんて普通聞いてこねぇだろ。
 おそらく俺はあんたに買われた身分なんだし。
 
 
「来るか?」


 少し間をおいてもう1度聞いてきた。
 
 俺はさすがに戸惑ったけど、何にしても
 ここより酷い状況にはならないだろうと、
 妙な確信があって ――
 コクンと頷いた。  
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