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しおりを挟む定時になって、誰からともなくリラックスした空気になる部内。
彼が入社した**期の中では一番の出世頭なんだって。
だから、わざわざお見合いしたり合コンに参加したりしなくても、女性なら引く手数多・よりどりみどりだ。
会議が終わって”企画営業課”のオフィスへ戻ってから課内の女子社員さん達の冷たい視線が私に突き刺さる。
で ―― そんな私に急遽設けられた席は、よりによって三上さんの真隣だった。
う”ぅ……感じる視線に全くっていっていいくらい好意的なモノがないよ。
怖いよ……。
執務机の上のノートパソコンに向かう三上さん、べっ甲縁のフレーム眼鏡を掛けている。
やっぱりかっこいい。
その姿もまた、私にとってはどストライクで。
いとも簡単に吸い寄せる。
「―― んじゃ、行くか」
バッグを持った三上さんの後をついて行くと、エレベーターの到着を待つ他の人たち。
互いに挨拶を交わして、仕事の話で盛り上がり始めた。
「ところで……和泉さんってフリー? それとも売約済み?」
「お前、聞き方がストレート過ぎる。セクハラで訴えられても知らんぞ」
会議で倉田さんって紹介された人は、明るくてムードメーカーなんだって分かる。
会議の緊張した雰囲気も倉田さんの冗談で和らいだから。
「倉田、さてはお前、彼女にひと目惚れしたんだろ?」
三上さんが放ったそのひと言で、倉田さんってば固まっちゃって。
「図星、か。分かり易い奴っちゃなお前」
エレベーターが到着して、大きく開けた扉の向こう。
誰よりも早く乗り込んだ三上さん、操作盤の前に立っている。
「ホラみんな、早く乗った 乗った」
固まってたのは、倉田さんと私だけじゃなかったみたいだ。
私なんかにひと目惚れする事なんかあり得ないって思うけど ―― そこまで考えハッとした。
===============
『おそらく、あの時……ひと目惚れをしたんだ、キミに』
===============
不意に思い出してしまった。
元カレからの熱烈な告白を……。
倉田さんは静かに私の隣へ立っている。
いつだったか巽さん(幸作のダーリン)が言ってた。
”女も男もつまるところ、自分を強く想って愛してくれるパートナーといる事が一番の幸せなんだ”
そうだよね……。
なら私は、幸せになれるのかな。
そう思って、三上さんを視線だけでそっと見上げた。
背、高いなぁ……何センチあるのかな。
180は軽く超えてそう。
鼻もスッとしてて、唇は品がいい。
肌がすごく綺麗。
そう長い時間ガン見してるわけにもいかないから、何回かに分けて見上げては三上さんの外見に見入る。
途中階でエレベーターが止まって、他の部署の人も乗り合わせた。
押し込められるままに、周りに気を遣いながら、1歩2歩と下がって、三上さんの背中を眺める位置に立った。
自然と混雑する箱の中。
東京の通勤ラッシュみたいだな……。
仲間同士、小声で話し続ける人、エントランスまで無言を貫く人。
……えっ?!
私の右手をそっと繋ぐ誰かの右手。
限られた空間で起こった突然の出来事に、呼吸を忘れそうになる。
この位置で私の右手を握れるのは、真ん前に立っている彼しかいない。
間もなく、扉が開いて地上階に着くと、順に箱の外へ出ていく。
「じゃあ、三上さん、現地で」
「了解。俺の名前で予約したから先に入ってて」
な、何だか、すっごくフレンドリー。
会社の幹部さんと一緒って感じがあまりしない。
ってか!
皆さんが三上さんと私を置いて先に行ってしまった。
私はともかくプロジェクト責任者を置き去りはマズいんちゃうやろか……?
「あの……」
「ん? どうした?」
「皆さんと一緒には行かないんですか?」
「ん。もう少し絢音と2人きりでいたかった」
まだ掛けたままだった眼鏡を外し胸ポケットへしまって、人気のない角へ私を導き。
私の方へ向き直れば自然と”壁ドン”みたいな格好に。
「と、統括……」
「食事が終わってから俺との時間、作ってくれる?」
「……」
「返事なしは、オッケーってとらえていいのかな」
「あ、あの……どうして、わたしなの?」
「俺ってつくづく厄介な奴でね、惚れた女の身持ちが硬ければ硬いほど追い詰めたくなる性分らしい」
「ほんと厄介ですね」
正面玄関の自動ドアが開いたらしく、微かに外からの冷気が吹き込んできた。
コツ コツ コツ ――――
幾つかの靴音がエレベーターの方へ近づいている。
(マズい。こんな所を見られたら……)
そう。
今はまだ死角になってるが、来訪者達がもっと近づけば視界に入ってしまう。
どきどきしてると、何故か三上さんは私の手を引き、奥の男子トイレへ促し、個室の中へ入った。
これでひと目にはつかなくなったが、違う意味でドキドキが止められない。
「あ、あの ――」
喋りかけた私の唇へ指をあて ”静かに”という無言の指示。
「……」
シーンと静まり返ったフロアーに響く靴音。
やがてそれはエレベーターへ消えると思いきや、手前で二手に分かれ、ひとつの靴音がこのトイレの中へ入って来た。
私のドキドキは今や最高潮に。
(あぁ、神さま、どうか何事もなく……)
三上さんが”大丈夫”というよう、背中にあてた手で何度も何度も撫でてくれた。
(やだ ―― こんな事されたらあなたの事……)
「……メシなんかどうでもよくなりそだ」
「え……っ」
「とりあえず2人きりになれるまでの間に合わせな」
顔を背ける間もなく。
三上さんに口付けられた。
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