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千里の道も一歩から
しおりを挟むだけど、慎之介との蜜月はあっという間に
終わりを告げた……と、言っても慎之介と俺が
仲違いをしたとかではなく。
慎之介は早ければ来春にも仕事の本拠を
日本に移す計画で、新たな事務所探しや
クライアントの開拓など仕事が山積みで
猫の手も借りたい位の忙しさなのだ。
けど、慎之介の計画が順調にいけば、
俺が大学へ進学した頃にはきっと慎之介の仕事も
ある程度は落ち着いているワケで。
そしたら、もう、うんざりするくらい慎之介と
一緒にいられる!
”冬来たりなば春遠からじ” の言葉もある通り、
寂しい時期はほんの一時でしかないのだ。
*** *** ***
『―― すいませ~ん。追加注文、いいですかぁ』
「はい。ただいま ―― お待たせ致しました。
ご注文どうぞ」
俺がそう言ってもお客さんは何か意味あり気な
表情で黙っているから、さり気なく注文を促す。
「あの、何か?」
「いいや……あの、さ ―― キミ、男?」
ムカッ!
そりゃ、女顔は自分でも自覚してる ―― へ?
こ、こいつ、何処触ってんだよっ?!
それとも俺の気のせい? じゃない、よな……。
ゾワワ……気色わるぅ ―― っ。
「そう、ですけど……それが何ですか」
あまりの無礼さにキレかけ、思わず語尾を荒げて
答えてしまった。
「あ、っそ。もういいや。アイスコーヒー追加」
「は ―― はい、畏まりました」
「左門さん、追加入りました。7番テーブルさん、
アイスコーヒーです」
「了解 ―― あぁ、ジェイク、休憩入っていいよ。
お昼まだでしょ?」
「はい」
京都を代表する観光名所・嵐山渡月橋にある
『フードエキスプレス』はウッドデッキ風の
オープンテラスと大正チックな内装と
多国籍な料理が売りのレストラン・バーだ。
ほとんど年中色んな人種の老若男女で賑わっている
けど、1年前中・高一貫教育の私立校が新設された
おかげか?
若年層のお客様も増えた。
こちらの学校はもうすぐ冬休み。
受験生にとっては受験勉強の最終追い込みシーズン
なんだけど、俺は千束商業の系列大学へ内部進学
する予定なので、バイト探しを優先した。
「―― ジェイぃー、フロア交代するよ。伝票見せて」
彼女は先輩店員・五十嵐 夏鈴
(いがらし かりん)
年は俺よか2つも下だけど、
兄弟がたくさんだから、少しでも家計の足しに
なるようにと、定時制高校に通いながらこの店で
働いているんだそう。
全てに於いて俺よりしっかりしている。
「あ、オッケー」
俺は夏鈴に交代して貰い、厨房へ入って
賄いを食べ始める。
「いただきます」
「あいよ」
気のいい返事をしてくれたのはコック長の
鮫島 皇紀(さめじま こうき)さん。
炊事場で午後の仕込みをしながら、
話しかけてきた ――
「……あのさぁジェイク、さっきのアレ ――」
「は、い?」
「あんな風に素っ気ない返事しちゃマズいよ。失礼な
質問だったかも知れないけど、客商売なんだから」
「あ ―― は、ぁ……」
でも、変なとこ触られてたのに……。
しょうがないや、皇紀さんは見えてないから。
「あと、返事の前に ”あ――”って、付けるのも
直した方がいい」
「は、い……今度から気を付けます。すみません
でした」
「い、いや ―― 別に俺は怒ってるんやないから」
皇紀さんは『フードエキスプレス』の厨房チーフで
店長の左門さんがオーナーから管理を任されている
店舗ビルのシェアハウスに居候中だ。
何をやっても要領の悪い俺は皇紀さんに注意されて
ばかりだけど、大柄で気のいい彼の事は、ほんとは
嫌いじゃなかった。
だけど……何故かどうしても、身構えてしまう……。
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