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本章
始動
しおりを挟む私の実家 ”宇佐見家”は
世が世なら華族の家柄で。
代々法曹界や政界へ多くの人材を輩出して来たそう
*年前、不慮の事故で若くしてこの世を去った
両親に代わり家督は広嗣兄さんが継ぎ。
私は高校へ入った頃から将来を見据えた勉強が
本格化してきて ――
親戚一同に右倣(なら)えで大学卒業後、
東京都の警察官採用試験を受け、
警視庁が管轄する警察学校へ入校した。
2021年9月末・第16*期生として警察学校の
初任科過程を無事卒業。
警視庁第6方面本部・蔵前警察署に赴任。
地域課へ配属され菊屋橋交番勤務を経て、
この春、上野警察署・捜査部刑事課勤務となった。
***** ***** *****
これは配属初日のひとコマ ――
霞が関の官庁街にある警視庁の上層階のオフィスを、
警察学校で同期だった手嶌 幸作は
慣れたようにずんずんと歩いて行く。
まるで映画の世界のように、たくさんの人がいる。
和巴には馴染みの少ない”警察組織”という世界。
先輩警察官や事務職員達が、
パソコンに向かって忙しくしてる。
兄達が今まで生きてきた世界を、
和巴はほんの少し垣間見た。
大きなガラス張りの扉を開けると、
そこに警視監の姿は無かった。
「あー。会議、まだ終わってねぇわ」
幸作がソファーに座って横をポンポンと叩いた。
隣に座れってこと ―― ね。
「おぼろ気に想像はしてたけど、こんなオフィスが
あるなんて、本当に凄いわ」
和巴がオフィスを見まわしながら、
幸作の隣に座る。
その時ドアが開いて、スーツ姿の男性が入って来た。
この男こそ、警視庁で警視総監の次に偉い役職にいる
警視監、クリストファー・手嶌。
名前からも分かる通り日系人で幸作の従兄だ。
「やぁ、お待たせして悪かった。初めまして。
私がクリストファー・手嶌です」
そう言って握手の手を差し出された。
「初めまして、宇佐見 和巴です」
和巴も立ちあがって、
差し出された手を握って握手を交わした。
「いやぁ……ホント、実物は可愛いね」
そう言って、顔をジッと見られる。
その手が、中々離れずに「?」と思ってると、
手ごと引き寄せられてハグされる。
ギューっと抱き締められるように強くハグされて、
和巴は驚きでされるがままだ。
「ちょっ ―― クリスっ!!」
幸作が立ち上がって引きはがそうとする。
「しつこいって!!」
幸作が大きな声を出すとやっと体を離した。
「実物は違うな」
ニヤニヤと笑いながら、ソファーに腰を下ろす。
「何やってんだよっ。握手だけでいいだろ?
何で、触んだよっ」
本気で怒ってる幸作に、クリスが目を丸くする。
「ほぉ……こりゃ、凄いわ。大変だね、和巴くんも
こんなののお守り(シッター)は」
和巴に向かって、眉を顰める。
それが可笑しくて 緊張感が解けて行った。
「だから、予定変更。和巴くんには上野警察で働いて
貰おうと思ってたけど……」
”けど”の後の言葉が怖い。
あんまりクリスが気を持たせるような思わせぶりを
するもんだから、幸作はイライラし始める。
「な ―― 何なんだよっ! 何かあるならハッキリ
言えよ」
「和巴には俺の下に就いて貰う」
『それは却下させて頂きます』と言いながら
入って来たのは、笙野 蓮司。
ともすれば暴走しがちな手嶌警視監を止められる
唯一の人物。
階級は警視長で、上野警察署の署長だ。
「蓮司、またお前か……」
『ったく……あなたという人は。
ちょっと目を離すとすぐ突拍子もない事を言い出す。
後で帳尻合わせするこっちの身にもなって下さい』
和巴は小声で幸作に尋ねた、
「なんか、口論になってるみたいだけど、
大丈夫なのかな」
すると、幸作はあっけらかんとして、
「あぁ、こうゆう場合100%クリスが折れるしか
ないから大丈夫」
『んなこと言って、可愛い和巴を独り占めする気だろ』
『あぁ、もうっ ! アホらしくて付き合い切れん』
『じょ、上司に向かって何たる口の利き方……』
「あぁ、宇佐見くん。もう挨拶は終わったんだね?」
「は、はぁ」
「じゃ、行くよ。署でメンバー達がお待ちかねだ」
「で、でも、手嶌警視監は ――」
「あ、コレなら気にする事はない。
ささ、急いだ急いだ」
笙野に急かされ執務室を後にする和巴だった。
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