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序章
とあるパーティーにて
しおりを挟む横浜みなとみらい地区を代表する五ツ星クラスの
インターナショナルホテル。
食事・宿泊・宴会・会議――日本はもとより、
アメリカ・イギリス・フランス・中国、等の
先進諸大国から発展途上の小国に至るまで
世界各国から様々な人々が訪れ、
さながら小さな国際会議場にでも迷い込んで
しまったかのよう。
この最上階の展望ラウンジを貸しきって
とある御仁の古希を祝うパーティーが
華やかに催されている。
さて、その御仁とは?
御年71才にして生涯現役がモットーの、
鮫島組先代組長・鮫島信長、その人だ。
孫程も歳の離れた若い娘を両脇にはべらせ、
終始上機嫌でゲスト達へ挨拶し回っている。
このパーティー、表向きの主催はあくまでも堅気の
一般企業を名乗っているが、
それも実は鮫島組傘下の金融会社で、今宵この場に
招待されているゲスト達からしてどう見ても
一般人には見えないような、ごっつい強面の男達が
ほとんどだった。
私が初めてその男を意識したのは、
場内へ入って大体10分位経った時だった。
おそらく彼は私がこの場内へ入って来た時から、
ずっと私の事を目で追って来たのだ。
……なぁんて言ったら、自意識過剰すぎ?
全てが平均以下の平凡仕様な私なんかに、
どうしてそんな熱い視線を投げかけて来るのか?
しまいに私は何だか自分が小馬鹿にされている
ような気がして、
うんざりとため息をついた。
息苦しい程の視線は無遠慮に私を絡めとってゆく。
壁際の飾り鏡越しにさり気なく見たその男は――
年の頃は大体35~7、
パッと見外国人か?と見間違うほど
彫りの深い、精悍で端正な顔立ち。
日本人離れした長身にまとうスーツは既成品のよう
だが、嫌味なくらい良くキマっている。
”イケメン”って言葉で一括りにしてしまうには、
もったいないくらいのいい男。
どうせ鏡越しだ、気付かれやしない。
つい油断してまじまじとその男を観察していたら
何と!
あの男も同じ鏡越しに私を見つめ返し、ニヤリ、
意味深なほほ笑みまで投げられてしまった。
もちろん私はとっさに目を逸し、
今にも爆発しそうなくらいドキドキと
早鐘を打ち始めた胸の鼓動を鎮めるよう、
手に持ったグラスに半分ほど残ってたジュースを
一気飲みして、傍らへ立っている幼なじみの
鮫島 祐太朗に尋ねた。
「――ね、ねぇ、あっちで連合の人らと一緒におる
モデルみたいな恰好ええ人誰だか知っとる?」
「も~うっ、かずってばイケずぅ」
「はぁっ??」
「オレってイケメンがこんな近くへおるのに
他の男に目ぇつけとるわけぇ?」
「あ、べ、別にそんなんやないけど――ってか、祐っ!
紛らわしい表現せんといて。これだから、私ら
”デキとる”なんて噂たてられるんやわ」
「オレとしちゃあ、それでかずに妙なムシが
付かんようになるさかいごっつ嬉しいけど?」
私は醒めた目で祐太朗を凝視した。
「アハハハ~……冗談やて、そない怒るなや。あぁ、
あのおっさんな、完治の幼なじみらしい。
そんでもって、警察庁のお偉いさんやて」
「へぇ~、そんなお偉いさんが、どうしてまたこんな
パーティーに来たんやろ……」
「けどほんま、憎ったらしいくらいええ男やな。
女も放っておかんやろに」
「同感」
と言っていたその人とこの私が、まさか!
禁じられた恋仲になろうとは、
この時は思ってもみなかった……。
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