7年目の本気

川上風花

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第2章 東京編

嬉しい贈り物

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「あ、すみません。ごめんなさい、ちょっと
 通し……」
 

 ジゼルでの第二幕の衣装は死装束なので
 和巴は割と身軽だが階段を塞いでいる女性ダンサーの多くが
 横に広がった特有のかさばる衣装を着ている。

 彼女達も和巴に気が付けば道を開けてくれるものの、
 それでも張ったスカートが進路を邪魔した。

 やはり楽屋に戻るのは一波去ってからが賢いと
 改めて痛感する。

 それでもなんとか楽屋のあるフロアに到着すると、
 歩みを止めないまま和巴はひとつため息が漏れた。

 階段を下りても楽屋まではもうひと息だ。

 出演者が一斉に戻ったせいで込み合ったフロアは、
 更に開演前には無かった折りたたみタイプの
 会議机が廊下に並べられ道幅を狭くしている。

 楽屋の前に置かれたその机には
 それぞれその部屋の出演者宛の花や贈り物が
 並べられている。

 小振りな花は親戚や友人からの物で、
 一回り大きな花は他のバレエ団や関係施設からの物
 だろうか。

 女性は舞台に上がる回数が少ないので
 ここぞとばかりに花や贈り物が集まるようだ。

 男性は男性で、舞台に出演する機会が多いからこその
 関係からの贈り物が届けられる。

 もっとも、どちらにせよ盛況なのは役付きクラスだ。

 代役の自分には関係ないな、と和巴が楽屋に入ろう
 とした時、その隣に置かれた机の上にひと際大きな
 フラワーアレンジメントの花篭を置いたばかりの
 女性が和巴を見て笑みを向けた。


「お疲れさまです、小鳥遊さん」

「ありがとうございます」

 
 フォーマルなスーツを着ているのは
 WDCの団員だが今日は受付をしている女性だ。

 しかし今は立ち話をしていたい気分ではない。

 挨拶もそこそこに和巴は中へ入ろうと
 ドアノブに手を伸ばした。

 だが、その和巴の様子に気づかなかったのか、
 その女性は置いたばかりの花を見て声を弾ませた。


「凄いですね。こんな大きなお花、
 色んな公演を見に行っても滅多に贈られている方
 なんていませんよ」

「……は?」

「それも企業とか団体じゃなくて個人からなんて、
 どういうご関係なんです?」

「―― え!? ソレ、私ですか?」

「え? はい、小鳥遊さん宛ですよ」


 呆けた表情を浮かべる彼女に、和巴は呆然とする。

 ハッとして慌てて花籠の中を見ると、
 そこにははっきりとした書体で『祝・小鳥遊和巴様』
 と書かれた手書きの札が刺さっていた。

 しかしそこには、
 その下に本来書かれているべき送り主の名は
 記載されていない。 

 でも、和巴にはその文字に見覚えがあった。
 
 (送り主を伏せておきたいなら、
  手書きのカードなんて添えたら意味ないじゃない。
  ねーぇ、匡煌さん)


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