7年目の本気

川上風花

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第2章 東京編

憤りを行動力にかえて

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 走り出したタクシーのシートへ身を委ね、
 さっきの言動は我ながらちょっと大人気なかった
 かな? とも思ったが。

 和巴は楓の”SOS”に気付いてあげられなかった
 自分に腹を立て。

 それ以上に容疑者家族へ何の保護策も講じなかった
 警察と検察へ思いっきりムカついていた。

 マスコミに追い回されるような事をしたのだから
 自業自得、だとでも言うのか?!

 少しでもあの人達がマスコミ報道に規制をかけて
 くれたら、楓もあんなには傷つかなくて済んだかも
 知れないんだ。


 ぐちゃぐちゃな頭の中を何とか整理して、
 気持ちを鎮め、スマホを取り出してコール。
 
 
 R R R R R R R ――――

 呼び出し音が途切れたと同時に受話器の向こうから
 響き渡る寺嶌の悲痛な叫び ――


『か~ずぅ~はぁ~、っ。何とかしてくれぇぇ~!!』

「ど、どうしたのよ」


 寺嶌幸作は”遅筆”で名高い(??)推理小説作家・
 今井 紅葉先生の原稿を手に入れるべく、
 先生やアシ(アシスタント)の皆さんと、先生の
 定宿、ホテル椿山荘に缶詰めだと言う。


「あぁ、そうなんだぁ ―― ご愁傷さま」


 こんな時に私情で頼み事をするのはとても
 気が引けたけど、背に腹は代えられない。

 大切な友達を助ける為だ。


「あ、あのさ、こんな時に不躾なんだけど ――」

『世良の事だろ』

「幸作……」

『爺ちゃんに頼んでおいた。今頃奴の接見に行ってる
 ハズだ。検事に邪魔されないうち聞きたい事が
 山程あるってさ』


 元、法務部所属の寺嶌なら ――と、
 当たりをつけ正解だった。

 この仕事に就いてから人脈はそれなりに広がったと
 思うけど、流石にまだ弁護士の知り合いはいない
 から。


「ありがと」

『何言ってんだ。忍は俺にとっても大事なマブダチ
 なんだぜ』
  



「―― 大(おお)先生、
 小鳥遊さんをお連れしました」

「あぁ、ありがと野上さん ―― やぁ、和ちゃん、
 久しぶりだね」


 マホガニー製の重厚な執務机から立ち上がったのは
 幸作の祖父、弁護士・手嶌 茂三。


 あっけらかんと笑う手嶌は人当たりの良い好々爺という
 感じだったがひと度、世良関連の話題になると、
 その表情を険しくした。

  
「……起訴されたら、裁判で無実を勝ち取るのは
 ほとんど不可能。検察にもメンツがあるからね」

「ええっ!! そんな……で、先生はどう考えているん
 ですか? 本当に世良くんが犯人だと……」

「わしゃ自慢じゃないけど今のところ勝率8割りだから、
 勝ち目のない弁護は最初から引き受けんよ」

「お爺ちゃん……」

「でも、世良くんを助け出すには、何としても不起訴に
 持ち込む他ない。従って、勾留期間の23日間が
 勝負になる。忙しいとこ悪いけど和ちゃん、キミにも
 ちょっとした手伝いを頼む事あるかも知れないから、
 連絡はいつでも取れるようにしていて欲しい」

「はい。私に出来る事ならなんなりと言って下さい」
  
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