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第2章 東京編
もうひとつの再会
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酒屋でたんまり買い物をしたあと、
匡煌さんに連れて行かれたのは半島酒店。
あぁ……やっぱりね、と思った。
てっきり静流さんは各務社長のお伴で来ていると
思っていたが、匡煌さんだったのだ。
「こ、ここって ……」
こんな事になるなら分相応なホテルにしておけば
よかった……
「どうした?」
「私も……ここに泊まってる」
匡煌さんが笑い出した。
「兄貴が会せまいとしても、結局会ってたのかもな」
「……」
フロントで自分達の部屋の鍵を受け取ると
ホテルのフロント係に『お客様があちらで
お待ちです』とロビーの一隅を示された。
『ありがとう』
一応、匡煌さんへ断りを入れる。
「お客さんだって。ちょっと行ってくる」
「逃げるなよ」
「こんな土壇場で逃げないよ」
さて、さっきフロント係の人が示したソファーでは
1人の青年が私を待っていた。
「?!……(もしかしてあの人)……」
彼は私が立ち止まったと同時にサングラスを外した。
!やっぱり ―― 柊 孝文(ひいらぎ たかふみ)
4年前パリオペラ座バレエ団の最年少エトワールに
昇進し、日本でもちょっとしたクラシックバレエ
ブームを巻き起こした張本人。
で、でもそんな超一流のバレエダンサーが私なんかに
一体何の用?
「小鳥遊 和巴さんですね」
「はい」
「はじめまして、冬木孝文です」
「は、ぁ……冬木さん。で、その冬木さ……は?
ふゆき ――! もしかしてベラの?」
冬木さんはにっこり微笑み、
「お手紙どうもありがとう。キミのおかげで
やっとベラに会える」
ベラ宛てで頻繁に東京のマンションに送られてくる
手紙(恋文)の送り主がこの冬木さんだと知り。
ベラが必死に忘れようとしている人物もこの冬木さん
だとわかって、ベラには申し訳なかったけど、
”9月に香港へ帰るからその時会えないか?”
と、メールを送った。
ロビーで手短に話せる内容ではなかったので、
彼をホテルのティールームへ誘う。
「僕の事はベラに?」
「いえ、彼女は何も言いません」
「なら、どうして……」
冬木さんは私を見つめた。
「ほとんど毎日寝言を言うんです。『タカ』って」
「……」
「お互いのぶっちゃけ話しが発展して、私は5年間
飽きもせず手紙を送ってくる奴がいるけど全部
そのまま捨ててるって」
「そう ―― なんですか……」
冬木さんは下を向いた。
読まれていなかった事がショックだったんだろう。
「で、この旅行が本決まりになってから、
彼女が捨てた封筒を勝手に開けました。
バレエ公演のチケットと香港までの航空券が
入ってました」
「……来るわけがないと、思いながら、もしかしたら
来てくれるかもって……送りました」
冬木さんが呟いた。
「ベラは今さらあなたに会わせる顔なんかない。
会うのが怖いって言ってました。でも、
私は会った方が良いと思って。話した方が良いと
思って。ちょうど私達の香港旅行の日程と公演の
日時が重なってたので何とか出来ないかと思って」
「本当にありがとうございます」
冬木さんはもう1度私に頭を下げ、
「でも……ベラを裏切ったのは僕の方なんです」
苦々しくコーヒーを飲んだ。
そんな彼を見ながら、同じような気持ちで
コーヒーを飲んでいた私に、
「あの……ひとつ、聞いてもいいですか?」
「はい。何でしょう」
「えっと、あの……あ、やっぱり、いいです。
すみません」
「何なんですか? 途中で止められたら余計
気になります。遠慮なく何でも聞いて下さい」
「はぁ……」
冬木さんは、カップに残ったコーヒーを
一気に飲み干して。
今までより緊張した面持ちで話し始めた。
「あ、あの……彼女 ―― ベラとはどういった関係
なんでしょうか?」
ベラはバイセクシュアルなんだ。
「はぁ?? 関係?……身体の、という事ですか?」
笑いながら冬木さんを見た。
「いえ……あの ―― ほんとにすみません。
も、忘れて下さい」
顔を耳まで真っ赤にして照れまくる冬木さんは
年上だけど ”可愛い”と思った。
「ご安心下さい。私はノーマルです」
冬木さんは俯いていた、顔を上げて私を見た。
「寝言……って言われたから。てっきり一緒に
寝ているのかと……」
”一緒に寝る” = ”体の関係あり”
あぁ、そうか。普通そう思うよね。
『添い寝』なんて、あの匡煌さんが知ったら
たとえその相手が女性だとしても激怒し思い切り嫉妬
するだろう。
私は笑ってコーヒーを飲んだ。
「きっと人肌恋しいんでしょうね。いつの間にか
私のベッドに潜り込んで寝てます。ただ寝ているだけ
です。何もないし、あっても困ります」
笑んだ私に、冬木さんが頭を下げた。
「すみません。お恥ずかしい……」
「普通は誤解しますよね。でも、何もないので
心配しないで下さい」
「はい……」
「で、ベラとはすぐ話しますか?」
「……」
私はカードキーをテーブルに置く。
「コレお貸しします。私は適当に時間潰してますから」
「良いんですか?」
「今、ひとつだけ言える事は、このままじゃいけない
って事でしょ」
冬木さんはカードキーを手に取ると、
「ありがとうございます」
立ち上がって私に深々と頭を下げ、
ティールームを出てエレベーターに向かった。
と、いつの間にか近くのテーブルにいた
匡煌さんがこちらのテーブルへ移ってきた。
「あの男が言ってた ”添い寝”たぁ、どうゆう事だ?
和巴」
ほ~らね。
「ほんとに何にもなかったんだろうな」
「盗み聞きなんて趣味悪すぎですよ。匡煌さん」
「聞かれて都合の悪い内容だったのか」
「もーうっ!」
私は先に席を立って、出入り口へ向かった。
匡煌さんに連れて行かれたのは半島酒店。
あぁ……やっぱりね、と思った。
てっきり静流さんは各務社長のお伴で来ていると
思っていたが、匡煌さんだったのだ。
「こ、ここって ……」
こんな事になるなら分相応なホテルにしておけば
よかった……
「どうした?」
「私も……ここに泊まってる」
匡煌さんが笑い出した。
「兄貴が会せまいとしても、結局会ってたのかもな」
「……」
フロントで自分達の部屋の鍵を受け取ると
ホテルのフロント係に『お客様があちらで
お待ちです』とロビーの一隅を示された。
『ありがとう』
一応、匡煌さんへ断りを入れる。
「お客さんだって。ちょっと行ってくる」
「逃げるなよ」
「こんな土壇場で逃げないよ」
さて、さっきフロント係の人が示したソファーでは
1人の青年が私を待っていた。
「?!……(もしかしてあの人)……」
彼は私が立ち止まったと同時にサングラスを外した。
!やっぱり ―― 柊 孝文(ひいらぎ たかふみ)
4年前パリオペラ座バレエ団の最年少エトワールに
昇進し、日本でもちょっとしたクラシックバレエ
ブームを巻き起こした張本人。
で、でもそんな超一流のバレエダンサーが私なんかに
一体何の用?
「小鳥遊 和巴さんですね」
「はい」
「はじめまして、冬木孝文です」
「は、ぁ……冬木さん。で、その冬木さ……は?
ふゆき ――! もしかしてベラの?」
冬木さんはにっこり微笑み、
「お手紙どうもありがとう。キミのおかげで
やっとベラに会える」
ベラ宛てで頻繁に東京のマンションに送られてくる
手紙(恋文)の送り主がこの冬木さんだと知り。
ベラが必死に忘れようとしている人物もこの冬木さん
だとわかって、ベラには申し訳なかったけど、
”9月に香港へ帰るからその時会えないか?”
と、メールを送った。
ロビーで手短に話せる内容ではなかったので、
彼をホテルのティールームへ誘う。
「僕の事はベラに?」
「いえ、彼女は何も言いません」
「なら、どうして……」
冬木さんは私を見つめた。
「ほとんど毎日寝言を言うんです。『タカ』って」
「……」
「お互いのぶっちゃけ話しが発展して、私は5年間
飽きもせず手紙を送ってくる奴がいるけど全部
そのまま捨ててるって」
「そう ―― なんですか……」
冬木さんは下を向いた。
読まれていなかった事がショックだったんだろう。
「で、この旅行が本決まりになってから、
彼女が捨てた封筒を勝手に開けました。
バレエ公演のチケットと香港までの航空券が
入ってました」
「……来るわけがないと、思いながら、もしかしたら
来てくれるかもって……送りました」
冬木さんが呟いた。
「ベラは今さらあなたに会わせる顔なんかない。
会うのが怖いって言ってました。でも、
私は会った方が良いと思って。話した方が良いと
思って。ちょうど私達の香港旅行の日程と公演の
日時が重なってたので何とか出来ないかと思って」
「本当にありがとうございます」
冬木さんはもう1度私に頭を下げ、
「でも……ベラを裏切ったのは僕の方なんです」
苦々しくコーヒーを飲んだ。
そんな彼を見ながら、同じような気持ちで
コーヒーを飲んでいた私に、
「あの……ひとつ、聞いてもいいですか?」
「はい。何でしょう」
「えっと、あの……あ、やっぱり、いいです。
すみません」
「何なんですか? 途中で止められたら余計
気になります。遠慮なく何でも聞いて下さい」
「はぁ……」
冬木さんは、カップに残ったコーヒーを
一気に飲み干して。
今までより緊張した面持ちで話し始めた。
「あ、あの……彼女 ―― ベラとはどういった関係
なんでしょうか?」
ベラはバイセクシュアルなんだ。
「はぁ?? 関係?……身体の、という事ですか?」
笑いながら冬木さんを見た。
「いえ……あの ―― ほんとにすみません。
も、忘れて下さい」
顔を耳まで真っ赤にして照れまくる冬木さんは
年上だけど ”可愛い”と思った。
「ご安心下さい。私はノーマルです」
冬木さんは俯いていた、顔を上げて私を見た。
「寝言……って言われたから。てっきり一緒に
寝ているのかと……」
”一緒に寝る” = ”体の関係あり”
あぁ、そうか。普通そう思うよね。
『添い寝』なんて、あの匡煌さんが知ったら
たとえその相手が女性だとしても激怒し思い切り嫉妬
するだろう。
私は笑ってコーヒーを飲んだ。
「きっと人肌恋しいんでしょうね。いつの間にか
私のベッドに潜り込んで寝てます。ただ寝ているだけ
です。何もないし、あっても困ります」
笑んだ私に、冬木さんが頭を下げた。
「すみません。お恥ずかしい……」
「普通は誤解しますよね。でも、何もないので
心配しないで下さい」
「はい……」
「で、ベラとはすぐ話しますか?」
「……」
私はカードキーをテーブルに置く。
「コレお貸しします。私は適当に時間潰してますから」
「良いんですか?」
「今、ひとつだけ言える事は、このままじゃいけない
って事でしょ」
冬木さんはカードキーを手に取ると、
「ありがとうございます」
立ち上がって私に深々と頭を下げ、
ティールームを出てエレベーターに向かった。
と、いつの間にか近くのテーブルにいた
匡煌さんがこちらのテーブルへ移ってきた。
「あの男が言ってた ”添い寝”たぁ、どうゆう事だ?
和巴」
ほ~らね。
「ほんとに何にもなかったんだろうな」
「盗み聞きなんて趣味悪すぎですよ。匡煌さん」
「聞かれて都合の悪い内容だったのか」
「もーうっ!」
私は先に席を立って、出入り口へ向かった。
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