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第2章 東京編
告白
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リビングではベラがお茶を淹れて私を待っていた。
私はベラに全てを打ち明けるつもりで、
彼女の向かい側へ座った。
昨夜、久しぶりに聞いた匡煌さんの言葉が頭の中を
グルグル巡る ――
『―― お前が望んだんだろ』
そう。
私が言ったから、望んだ事だから、
匡煌さんは結婚する事を選んだ。
私が匡煌さんを裏切った。
私が彼を、捨てた……。
昨夜は久しぶりに声が聞けて本当に
嬉しかったのに……!
余計な言葉で彼を傷つけてしまった。
彼の為だと思った行動が、逆に彼を ――
自分自身をも苦しめている。
何と、滑稽な事だろう……。
「―― 少しは落ち着いたみたいね。でもカズハってば
目ぇ真っ赤」
ベラは、私を見て小さく笑う。
「……ディーノとジュニは?」
「買い物してから帰るって」
「そっかぁ……」
せっかく一緒に行ったのに……
「悪いこと、しちゃったなぁ」
べらは余計な事は何も語らず、
私が話すのを待ってくれてる。
何故泣いていたのか?
理由も聞かずに、ただ黙って傍にいてくれる。
このまま何も話さずにいようかとも思ったけど、
あんな姿を見られてしまい、
話さない訳にはいかない。
ベラどう思われるか不安だったけど、
私は重い口を開いた。
「……私の事、愛してるって言ってくれた人を、
私は捨てて上京したの」
「……そう」
「全てを捨てて、一生傍にいるって言ってくれたのに、
私は彼に結婚を選ばせた。それが彼の為だと思った。
私と逃げるより、普通の家庭を築けと言って私が
東京へ逃げて来た」
「そう……」
「それなりに覚悟を決めて来たハズなのに、
昨夜、久しぶりに電話で声聞いたら……逢いたい、
とか、触って欲しい、とか……ホント情けないくらい
未練たらたらで……ホントに私、これから
どうしよ……」
また泣き出した私の隣へ席を移して、
私を抱きしめた。
「我慢しないで泣いていいよ?
気が済むまで泣けばいい」
「べらぁ……ヒック、あんたっていい奴な」
「ハハハ、今頃分かったのー、おっせーよ」
と、笑っているベラの腕の中で私は声を上げ
思いっきり泣いた。
ひとしきり泣いて、
洗面所で顔を洗ってLDKへ戻るとベラは ――
「思いっきり泣いたらお腹も空いたでしょ」
キッチンに立って夕食の調理をしている。
「……私も手伝う」
*** ***
「―― じゃ、将来的にはフード関係に進むの?」
「うん、出来たらね」
2人で夕食兼晩酌の用意をしながらお喋り。
「今兼業してるモデルの仕事も何とか続けられそう
だし、もう、香港へは帰る気もないし」
ベラの実家は香港。
日系人社会ではかなりの権力者で。
お父さんは日系人会の会長も務めているという。
お母さんはバレエ学校の校長で、数え切れない程の
人気ダンサーを世に輩出してきた。
「そうなんだぁ」
「……帰れ、ないんだ」
そう言ったベラの目がいつもと違って暗かったから、
は思わず私「えっ?」と、聞き返していた。
「……帰らないって決めてるんだ。
カズハが東京へ逃げて来たように、私も逃げてる」
ベラは遠い昔を思い起こすように話し始める……。
「もう、どれ位会ってないの? 相手と」
「私は小6の時こっちに来たから……そろそろ5年」
「えっ ―― って、じゃあ、12才の時?
早熟だったんだねぇ」
「ん、まぁ、これはほとんど親からの遺伝かな。
母さんが姉ちゃんを身籠ったのは14の時
だってから」
「へぇ~」
「しかも相手の男、つまり私らの親父はふた回り以上も
年の離れたヒヒ爺だよ。信じらんない」
「……好きに、なっちゃったんだろうね」
「ん、まぁね。でなきゃ、それから6年も経って
私は生まれなかっただろうし」
「……彼から連絡は?」
「時々、忘れた頃に手紙が届いたり、
電話がかかってきたり……でも、全部シカトしてる。
私、あいつの足枷にはなりたくないんだ」
足枷?! ―― 私と、同じだ。
「カズハだってそうでしょ? 一番好きな男が、
自分の為に苦しんでるのは何より辛い」
「うん、そうだよね……」
それにしても、
この日のベラのカミングアウトには
かなり驚かされた。
色々な意味で今日はエキサイティングな1日だった。
私はベラに全てを打ち明けるつもりで、
彼女の向かい側へ座った。
昨夜、久しぶりに聞いた匡煌さんの言葉が頭の中を
グルグル巡る ――
『―― お前が望んだんだろ』
そう。
私が言ったから、望んだ事だから、
匡煌さんは結婚する事を選んだ。
私が匡煌さんを裏切った。
私が彼を、捨てた……。
昨夜は久しぶりに声が聞けて本当に
嬉しかったのに……!
余計な言葉で彼を傷つけてしまった。
彼の為だと思った行動が、逆に彼を ――
自分自身をも苦しめている。
何と、滑稽な事だろう……。
「―― 少しは落ち着いたみたいね。でもカズハってば
目ぇ真っ赤」
ベラは、私を見て小さく笑う。
「……ディーノとジュニは?」
「買い物してから帰るって」
「そっかぁ……」
せっかく一緒に行ったのに……
「悪いこと、しちゃったなぁ」
べらは余計な事は何も語らず、
私が話すのを待ってくれてる。
何故泣いていたのか?
理由も聞かずに、ただ黙って傍にいてくれる。
このまま何も話さずにいようかとも思ったけど、
あんな姿を見られてしまい、
話さない訳にはいかない。
ベラどう思われるか不安だったけど、
私は重い口を開いた。
「……私の事、愛してるって言ってくれた人を、
私は捨てて上京したの」
「……そう」
「全てを捨てて、一生傍にいるって言ってくれたのに、
私は彼に結婚を選ばせた。それが彼の為だと思った。
私と逃げるより、普通の家庭を築けと言って私が
東京へ逃げて来た」
「そう……」
「それなりに覚悟を決めて来たハズなのに、
昨夜、久しぶりに電話で声聞いたら……逢いたい、
とか、触って欲しい、とか……ホント情けないくらい
未練たらたらで……ホントに私、これから
どうしよ……」
また泣き出した私の隣へ席を移して、
私を抱きしめた。
「我慢しないで泣いていいよ?
気が済むまで泣けばいい」
「べらぁ……ヒック、あんたっていい奴な」
「ハハハ、今頃分かったのー、おっせーよ」
と、笑っているベラの腕の中で私は声を上げ
思いっきり泣いた。
ひとしきり泣いて、
洗面所で顔を洗ってLDKへ戻るとベラは ――
「思いっきり泣いたらお腹も空いたでしょ」
キッチンに立って夕食の調理をしている。
「……私も手伝う」
*** ***
「―― じゃ、将来的にはフード関係に進むの?」
「うん、出来たらね」
2人で夕食兼晩酌の用意をしながらお喋り。
「今兼業してるモデルの仕事も何とか続けられそう
だし、もう、香港へは帰る気もないし」
ベラの実家は香港。
日系人社会ではかなりの権力者で。
お父さんは日系人会の会長も務めているという。
お母さんはバレエ学校の校長で、数え切れない程の
人気ダンサーを世に輩出してきた。
「そうなんだぁ」
「……帰れ、ないんだ」
そう言ったベラの目がいつもと違って暗かったから、
は思わず私「えっ?」と、聞き返していた。
「……帰らないって決めてるんだ。
カズハが東京へ逃げて来たように、私も逃げてる」
ベラは遠い昔を思い起こすように話し始める……。
「もう、どれ位会ってないの? 相手と」
「私は小6の時こっちに来たから……そろそろ5年」
「えっ ―― って、じゃあ、12才の時?
早熟だったんだねぇ」
「ん、まぁ、これはほとんど親からの遺伝かな。
母さんが姉ちゃんを身籠ったのは14の時
だってから」
「へぇ~」
「しかも相手の男、つまり私らの親父はふた回り以上も
年の離れたヒヒ爺だよ。信じらんない」
「……好きに、なっちゃったんだろうね」
「ん、まぁね。でなきゃ、それから6年も経って
私は生まれなかっただろうし」
「……彼から連絡は?」
「時々、忘れた頃に手紙が届いたり、
電話がかかってきたり……でも、全部シカトしてる。
私、あいつの足枷にはなりたくないんだ」
足枷?! ―― 私と、同じだ。
「カズハだってそうでしょ? 一番好きな男が、
自分の為に苦しんでるのは何より辛い」
「うん、そうだよね……」
それにしても、
この日のベラのカミングアウトには
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