7年目の本気

川上風花

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第2章 東京編

嫉妬

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 翌日も終日、営業会議の延長戦でいつも賑やかな
 10階フロアはシ~ンと静まり返っていた。
  

「ノン」


 ちょうどノンが前方に歩いていたので声をかけた。  
  

「この前は付き合えんでごめんね」

「ううん、課長のお伴やったんやもん、仕事じゃ
 仕方ない。けど、次は一緒しようね? 和巴の為に
 よりすぐったイケメン集めるさかい」
 
「うん。その時は宜しゅう」


 部署へ戻ると、笠井さんに声をかけられた。
  
  
「小鳥遊さん ―― 昨日の帰りは何時だったの?」

「えっと、夕方の5時くらいだったと思います」


 実は昨日も課長の外回りに付き合わされた。
  
  
「で、お昼とか、お食事はどうしたの?」

「笙野課長にご馳走して頂きました」

「あ、そう……なら、いいんだけど……」


 しばしの、沈黙……。
  
 たとえどんな種類の会話でも、沈黙は苦手だ。
  
 相手が、自分に対してどんな感情を
 持っているのか?
 とか、沈黙の間に妙な勘ぐりをしてしまうから。     

 重い口を渋々開くように、笠井さんは言った。
  
  
「―― あのね、小鳥遊さん。笙野課長って、
 手当たり次第に女性スタッフへ手を出すって
 噂があって……あなたも気を付けた方が
 いいわよ」
 
「えっ?! あ、はい。わざわざ教えて下さって
 ありがとうございました。気を付けます」
 
 
 ”あの笙野課長が手当たり次第に??”
  
 お伴したのはたったの数回だけど、
 その時感じた彼の印象とはかなり大きく
 食い違う。
  
 だって、彼がホントに噂通りの男なら、
 あんな絶好のチャンス
 みすみす逃す手はないだろう。
  
 私は速攻でラブホ辺りへ連れ込まれていたハズ。
  
 笠井さんから言われた忠告に、
 かなりの違和感を感じつつも、
 何かが可怪しい……ただ、それくらいしか
 分からなかった。
  
  
 そして、お昼 ――。
  
 屋上で手作り弁当を食べてから*階フロアに
 帰ってくると、
 下の階の先輩女子社員に、
 会議室へ呼びつけられた。
  
  
「あなたが、小鳥遊さん?」

「はい、そうです」

「昨日、笙野課長と食事したんですって? 
 あんまりイイ気にならないことね」
 

 うわっ ―― ド直球! この人、何者?
  
  
「出先、でしたので……」

「あなたがお強請りしたんとちゃう? 
 近頃の若い子は節度も謙虚さも皆無なのね」


 ムカッ。
 
 
「とにかく、笙野課長には今後一切近付かないでっ」


 あんたらにそこまで言われる筋合いはない。
  
 コン コン ――
  
 小さなノックの後、開いたドアからはるかさんが
 顔をだし。
  
  
「あぁ、小鳥遊さん、こんな所にいたの? 
 随分探したわ。会議、休憩に入ったから皆さんの
 お茶淹れ手伝ってくれる?」
 
「はいっ。喜んで」


 未だ私を睨むようにキツネ目で見ている
 女子先輩社員の方々へ、
 ペコリと会釈し、はるかさんについて会議室を
 出た。
  

 ***  ***  ***
 
 
 そのままはるかさんと一緒に向かった給湯室で。
  
  
「―― あぁ、だから言わんこっちゃない! 
 笙野課長の取り巻きは特に目ざといし
 しつこいんだからっ」
 
 
 この時になって ”お茶淹れ”は、
 私をあの場から出す為の口実だったと気が付いた。
  
  
「ありがとうございました、うち、あのままいたら、
 いらん事あの人らに言うてたかも知れません」
 
「笙野課長って、今までは女子社員に見向きも
 しないで来たから、まして、ツーショットでの食事
 なんて今まであり得なかったからね~」
 
「あの ―― その、食事の話し、誰に聞きました?」

「誰に話した?」

「あっ……!」


 私は思わず口元を手で押さえた。
  
  
「そ。彼女が取り巻きのボス。
 ずぅーっと、あなた達が帰ってくるのイライラ
 しながら待ってたのよー」
 
「そう、だったんですかぁ……」


 げに、恐ろしきは、女の嫉妬と歪んだ羨望心。
  
  
「これまでは、さっきみたいに呼び出して
 釘を刺すなんて、しなかったんやけどね~。
 和ちゃんはよほど脅威らしいわ」
 
「私が脅威ですか? そんな事あり得ませんよ
 絶対」

「ううん、そんな事ない。あなたは充分魅力的だし。
 多分、課長もあなたのそんなとこに惹かれてるんじゃ
 ないかな」
 
「もうっ、はるかさんってば……」
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