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第2章 東京編
初めての夢美乃詣(もう)で
しおりを挟む席に戻るなり、主任の谷田部さんにちょっと
厄介そうな頼まれ事をされてしまった。
「えっ ―― 私が、原稿取り、ですか?」
「あぁ、担当の神谷が急性胃炎で入院しちゃってね
……和ちゃん、ちょうど暇そうだし、ちょこっと
頼むよ」
「ちょこっとって ―― 主任、私まだこちらの支社に
来て1ヶ月足らずの新米ですし、第一まだ編集者
としての研修中なんですよ。それに、神谷さんが
担当でこの時期にまだ原稿が上がっていない
作家さんて、まさか……」
「そう。そのまさか、さ」
今、人気急上昇中のBL作家 ――
夢美乃 碧羽
先生ぃぃぃ?!
「あー、主任。表紙の差し替え、明日の9時でギリ
っすよー? 宜しく」
「へーい」
「大野さん……あぁ! そうだ。夢美乃先生って、確か
大野さんの大学時代の後輩でしたよね。だったら」
「俺は出禁なの」
「でいりきんしぃ ―― そんなぁ……」
「デビュー前から面倒見てやったのに、ちょっと
ベストセラー連発して・ちょっと映画化ドラマ化
されて・ちょ~っと高額納税者の仲間入りした
ぐれぇで、いい気になって ”お前の顔じゃちっとも
萌えないし・勃たない”なんてヌカしやがって!」
「は、ぁ……」
「って事で、和ちゃ~ん、ご両親から授かった
その美貌を武器に、原稿奪っていらっしゃいっ」
「は、はい」
『嵯峨野書房』東京支社編集部、異動1ヶ月目。
編集力は顔と知る ――。
***** ***** *****
わあぁぁ……パシフィックオーシャンビュー東京
って、ビリオネア御用達の5つ星ホテルやん。
私なんか、ここに立っとるだけで場違いな感じが
するんやけど……こんな高級ホテルで缶詰なんて
さすが、ベストセラー作家様やわ……。
自動ドアからフロント・ロビーに入った所で、
ホテルマンさんに声をかけられた。
「小鳥遊様、でいらっしゃいますね。こちらへ
どうぞ、羽柴様がお待ちです」
えっ ―― 羽柴?
あ、そっか。
ホテルには本名で宿泊なさってるんや。
そりゃそうやな、素姓が容易に知れてしもたら、
原稿なんてゆっくり書けへんもん。
「は、はい……」
そのホテルマンさんと2人でエレベーターに
乗ったんだけどそのエレベーター、
なんか……何処がどうとは上手く説明出来んのや
けど違和感があって、思いっきし落ち着かなくて、
”チーン”と小さい音がして、エレベーターの
ボックスが止まり、扉が開いた頃やっと、
違和感に気付いた。
このエレベーター、普通ならあるハズの
回数表示板に数字が書いてなかった。
「如何なさいましたか? 小鳥遊様」
「あ ―― すみません、ぼうっとしてました」
「こちらへどうぞ」
「はい」
こんなだだっ広いフロアーに客室は2戸のみ。
国賓クラスの賓客や世界の名だたる大富豪が
その顧客リストに名を連ねる……
お金持ちの ――
それも、半端じゃないお金持ちの為の
スーパーエグゼクティブフロアー。
2戸ある客室は双方とも、
庶民なら目の玉が飛び出しちゃう位の金額だけど、
どちらの客室からもオーシャンフロントで一望
出来る東京湾に向かって右側の客室の方が
ややお値段が張る……一説には、一泊200万円
だとか。
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