7年目の本気

川上風花

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vs 広嗣 会社にて

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 今日は3時に広嗣さんとの約束がある。
 大学での講義は5時限目まで。

 ゼミから出て、昇降口へ向かっている途中
 利沙が追いついてきた。


「部屋の事だけど、西院にあるシェアハウスでも
 良かったら今すぐ手配出来るってよ」


 西院かぁ……今まで住んでた撮影所前からは
 かなり近くて、ちょっと不安だけど……。
 

「雨風しのげれば十分。そこでお願いします」

「OK、じゃ、おとんの方からハウスへ連絡しといて
 もらうよ。現地へはそうだなぁ……*時頃に行くって
 事でいい?」

「うん。……利沙? ホントに色々ありがとう」

「いいってことよ~、困った時は助け合い~。あ、
 そうそう、新聞まだ見てないでしょ」


 と、利沙が差し出してきた、新聞の小さな記事を
 見て、私は思わず固まった。


「!そんな……」


 株式会社・各務

 本日付けをもって下記の者を懲戒解雇処分とする。

 役員・各務 匡煌

 
 同族の人間をただのクビ(解雇)じゃなくて
 懲戒解雇にするなんて……

 これは明らかに匡煌さんのカミングアウトに対する
 広嗣さんの制裁だと思った。


「大丈夫。宇佐見さんはこの程度でメゲる男じゃない」

「だといいけど……とにかく、これから広嗣さんに
 会ってくる」

「うん、気を付けてね。報告待ってるよ」
 
 
 
*****  *****  *****



 ㈱各務は四条河原町に建つ瀟洒な20階建てビル。

 その威風堂々とした風格のある外観に圧倒されつつ
 私は玄関ホールへと足を踏み入れた。

 1階の総合受付で自分の名前を告げ、
 3時から専務の各務さんと約束がある旨を告げると
 エレベーターで最上階までどうぞと指示され、
 向かった**階で待つこと数分……

 昨日電話で話した秘書の高田さんがやって来た。


「お待たせ致しました、高田と申します」

「小鳥遊です」

「専務がお待ちです、こちらへどうぞ」


 フロアー最奥の部屋のドアを高田さんが
 ノックした。
              

「小鳥遊様をお連れ致しました」

『どうぞ』


 目線の先、
 各務広嗣が重厚な執務机に座っていた。


「やぁ、久しぶりだね、どうぞ」

「失礼致します」


 2人で応接セットのソファーへ移動。

 向かい合わせに座ると高田さんがお茶を
 出してから、出て行った。



「驚いたよ。キミから連絡が来るなんてね」

「部屋のカギをお返しに参りました」


 私はテーブルへマンションのカードキーを置いた。


「出て行くのか?」

「はい」

「そうか」

「……新聞を見ました、人事異動の」

「あぁ、あのバカが両親へ藍子さん以外の女性と
 結婚したい、だなんていきなりカミングアウト
 したもんだから、お袋はショックのあまり卒倒して。
 親父は怒り狂って匡煌を殴りつけ、臨時役員会の
 満場一致で懲戒解雇処分になった。その後
 すぐあいつは実家に軟禁されたよ」

「そう、ですか……」


 私はひざ上に置いた手を握り直し、
 ゆっくり息をついて切り出した。


「お願いがあります」

「何かな?」

「まさ ―― 宇佐見さんの処分を取り消して下さい」

「キミにも分かるだろうが、既に決定し
 公表してしまった処分を覆すにはそれなりの理由が
 必要だ。会社の信用問題にも関わるからな」

「分かります」

「……仮にだ、私がキミの願いを聞き入れるとしたら、
 キミは私に何を差し出す?」


 それなりの見返りが必要ってこと?
 

「今後一切、宇佐見さんには会いません。
 マンションを出るのもその為です。携帯電話も
 番号を変え、彼からの連絡にも一切応じません」

「それをどう、私に信じろと?」

「来月末には京都を離れます。少なくとも3年は
 帰省もしない予定です」

「……分かった、社長にも相談して、
 前向きに検討してみよう」

「ありがとうございます。では、これで失礼します」


 立ち上がり、一礼して戸口へ向かうと、
 先に外からドアが開いて、静流先輩が現れた。


「かずは……今、利沙から連絡もらったの」


 彼女の顔は心なしか青ざめて見えた。
 利沙から大方の事情を聞いたのだろう。


「そう……って事ですから、日本を発つ前に
 1度集まって食事したいな。また、電話しますから、
 じゃ」


 先輩にも一礼して廊下へ出た。


『かずっ!』

「追うな」

「どうして?! 
 あなた一体あの子に何を言ったの??」

「他愛無い世間話しさ」

「ふざけないでっ」


 広嗣は廊下に控える高田に言いつける、


「高田」

「はい」

「彼女が来た事は匡煌には一切言うな。
 役員達に招集をかけてくれ。
 集まり次第、役員会を開く」

「畏まりました」


 何時になく厳しい面持ちの婚約者を見て不安になり、
 静流は恐る恐る訊ねる。


「……何をする気?」

「予定通り匡煌は藍子さんと結婚させる、それだけだ」

「きっと匡煌は最後の最後まで足掻くわ」

「それでも動き出してしまった歯車は、もう誰にも
 止められないんだ」

「……」  

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