7年目の本気

川上風花

文字の大きさ
上 下
21 / 124

大告白 そのⅡ

しおりを挟む
「祠堂学院の土屋主任教授とは祖父の代から交友が
 あってね」


 宇佐見さんが沈黙を破り、
 私の目をまっすぐ見据えた。


「”TOEICじゃ900ポイント近い成績を残し、
 全国統模試でも学校でも成績上位なのに、
 家業への就職を希望してる学生がいる” 
 と聞いて。是非とも1度会いたいと思った」
 
「……」

「見合いの時、お前”自分の事を調べたのか?”って
 聞いたよな? 答えは、イエスだ。ありとあらゆる
 手段を講じて徹底的に調べた。だけど、ヒデの店で
 鉢合わせたのは全くの偶然だ」 
 
「……」

「おそらく、あの時……ひと目惚れをしたんだ、
 お前に」


 はあ?
 ひ……ひと目惚れ?


「だから……」


 だから? ダカラ? なんなの?


「俺と付き合って欲しい。もちろん結婚を前提
 とした真面目な交際だ」


 周りの喧騒の音が一気に消える。

 てっきり、茶化されてるとばかり思っていた、
 目の前に立ってる男に告白された。  


「悪いけど、当分の間誰とも付き合うつもりは
 ないから」


 宇佐見さんを真っ直ぐ見据える。


「元カレ以外に好きな人でも?」

「おらんけど……」

「じゃあ、俺に惚れさせれば良いんだな?」


 はい?
 前々から思ってたけど、あなたのその揺るぎない
 自信はどこからくるの?

 下手すれば自意識過剰の嫌味な男なだけじゃん。

                          ※
「せやから……」

「人を好きになるのに条件がいるのか?」

「条件……って」

「今まで俺は手当たり次第に女と付き合ってきたが、
 1人の女に固執したのは初めてだ。この責任は
 どう取る?」


 せ ―― 責任??
 私のせいなん? 違うやろ?!

 あぁぁ! なんや、ムカついてきた!


「責任って何よ! うちはアンタに『惚れてくれ』
 なんてひと言も言ってない!」


 あ

 公衆の面前…

 しかも実家のご近所さん……

 通行人が興味心深々に見ながら通り過ぎて行く。
 あぁ、あのおっちゃんなんか立ち止まって
 見てるし。

 あそこにおるんは、乾物屋の富さん。

 もぉぉぉぉ!!

 これ以上こんな所で醜態を晒すわけにはいかなくて
 宇佐見さんの腕を掴んで、人影のない近くの公園に
 入った。


「あんな場所で妙な事言わんでよ!」

「ここなら良かったのか?」


 宇佐見さんが笑う。


「そういう意味じゃなくて!」

「好きな人に好きだと言って何が悪い? 
 場所なんて関係あるか? 
 京都駅前であろうと人混みの中心であろうと
 俺はお前を好きだと声を大にして言える」


 呆れる……


「惚れたんだからしょうがない、だからキスをした。
 何が悪い?」


 自分の気持ちばかり押し付けやがって!


「ほな、私の気持ちは?」

「確かに、お前の気持ちを聞かずにあんな事をして
 反省している」

「それなら……」

「だから、俺に惚れさせれば良いんだろ?」


 もおぉぉ! 何なんだ?


「言ってる意味が分かんないわ!」

「そのままだ、俺に惚れさせる」


 宇佐見さんは話しながら近づいて、
 咄嗟に逃げようとした私の腕を掴む。


「放して!」

「好きになれ、俺に惚れろ」


 私を引き寄せて強く抱きしめた。

 抵抗しようにも、がっちり抱きしめられて身動きが
 取れない!

                       
「放して!」

「俺を好きになれ」

「ならない! 絶対にならない! 
 早く放してっ!」


 私の言葉で宇佐見さんの腕が緩み、安堵したのが
 間違いだった。
 コイツは ―― また私にキスをした!!


「やめ ――!」


 あぁ……
 
 口を開かなければ良かった。
 舌を入れられてしまった……


「ん ―― ふ……」


 私は学習能力ゼロや……
  
  
「っぁ、やだって…っ」
 
 
 逃げる舌を追いかけられ、強く吸われたかと思えば
 唇を舐められたり……

 嫌でも感じてしまう身体に戸惑いながらも必死で
 抵抗した。

 ようやく唇は開放されたけど、抱きしめられて
 身動きは取れない。


「好きだ……かずは……好きだ……」


 宇佐見さんは呪文のように言葉を繰り返す。

 何も言えなかった。
 言いたいのに言葉が出てこなかった……

 ただ、ただ呆れた。


「好きだ……」


 宇佐見さんが更に強く私を抱きしめる。


「あんたなんか大っ嫌い」

「好きになれ」

「ならない」

「好きだ和巴、好きだ」


 私の身体を抱きしめたまま顔を寄せてきた!
 またキス?! 私は歯を食いしばる!


 一瞬、宇佐見さんの笑い声が聞こえたような
 気がする。

 不意打ちか?

 彼は私の頬にキスをして


「おやすみ」


 と、頬を撫でて、笑いながら駅に向かって
 歩いて行った。


 宇佐見さんの姿が見えなくなり、私は一気に脱力して
 その場にしゃがみこんだ。

 何が起きたん?

 うちの身に……何が起きたん??

 それに今日は何て夜よ ――!

 展開があまりに性急すぎてついていけない!
    
 7年も付き合ってた男へ自分から別れを告げ。

 舌の根も乾かぬうち
 別の男から告白されて……キスまでされて。

 きっと厄日やな……

 地面に座り込んでポケットの中から、
 もう必需品と化している飴玉を取り出し、
 口に放り込んで気持ちを落ち着かせる。

 マジ、何なん? あのおっさん……

 呆然と、夜空の星を眺めていた。  
  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...