7年目の本気

川上風花

文字の大きさ
上 下
5 / 124

大学にて  

しおりを挟む

「―― で、その後、どうしたん?」


 手元にあるA定食には目もくれず、
 話しの続きに目を輝かせる親友・国枝 利沙。
  
  
「どうしたって……速攻、家に帰っただけよ」


 利沙の隣にいる男子・国枝 あつしが
 嘆くように呟いた。
  
  
「あぁ ―― おらぁ、その見合い相手につくづく
 同情するよー。キン蹴りの痛みは男じゃねぇと
 分からん」
 
 
 あつしは、利沙の双子の弟だが、二卵性なので
 ちっとも似ていない。
  
  
「んなの、分かんなくて結構だけど ―― 
 にしたって和巴ぁー、あんた何考えてんのー」
 
「え?」

「バツもあっておまけにコブ付きだけど、純総資産
 3980億円。こんな男の何処が不満なの? 
 いい? あんたには左うちわのバラ色な
 結婚生活が確約されたようなもんなのよ!」
 
「左うちわのバラ色な、ねぇ……」


 ため息をつき、伏せかけた視界の隅であるモノを
 捉え、ゆっくりそちらへ目を向けた。
  
 1枚板の大きなガラス張りの窓の向こうは、
 正面玄関に隣設された駐車場。


 今、そこへ4000ccクラスの
 大型スポーツクーペが1台停まった。                              
      
 和巴と同じくそれに気が付いた数人の男子が
 ざわつき始める。
  
 あつしも気が付いた。
  
  
「うわっ、すっげぇー …… 本物、
 初めて見た……」

「なに、アレ、そんなに凄い車なの?」


 とは、車(メカ)音痴の利沙。
  
  
「たった500万台しか生産されなかった限定販売車。
 おそらく中古でもうン千万は下らないだろうな」    
  

 車好きな男子達はその車の優美なフォルムに
 目が釘付けで。
  
 女子達は、その車から颯爽と降り立った男に
 目を奪われ、ギャーギャー騒ぎ出す。
  
  
『チョーかっこいいんだけどー』

『モデルか俳優さんかなー』

『誰の父兄やろ』

『何の用事で来はったんかなー』


 何の用事だろうと、
 和巴にとっては迷惑この上ない訪だった。
  
 女子達の注目の的は宇佐見 匡煌。
  
 見合いの締めくくりに(?!)、
 和巴から股間を蹴り上げられた男だ。 



 私立祠堂学院大学しりつしどうがくいんだいがく

 この京都府内では”中の上ランク”の
 私立大学だが、歴史はそれなりに古く、
 卒業生も在校生も資産家出身の学生が多い。


 ―― 関わり合いにはなりたくない!
  
 とはいっても、
 天敵は教室の前で待ち伏せていた
  
  
「―― よっ。また、会ったな」


 和巴はガン無視で教室内へ入ろうとする。

 宇佐見はその和巴の腕をすかさず掴んだ。
  
 室内にいるクラスメイトも、お隣のクラスや
 通りすがりの学生達まで、
 和巴と宇佐見の動向に興味津々だ。
  
  
「また、蹴っ飛ばされたいですか?」

「いやぁ~、参った。俺って結構Mっ気あったん
 かなぁ。あれからお前の事思い出して、2回も
 ヌイちゃったよ~」
 
「やっぱ変態っ!」


 宇佐見は”蹴っ飛ばされ防止”の為、
 和巴をぐいっと抱き寄せた。
  
  
「変態な上に無節操な欲情魔」

「ありがと」

「大声出すから」

「あの時みたいに?」


 ―― あの時。
  
 つまり、初対面にもかかわらず、行きつけの店の
 トイレで最後までイタしてしまった、
 あの時を指しているのだろう……。
  
 情事の一部始終をまざまざと思い出し、
 かぁぁぁっと顔を真赤にする和巴。
  
  
「そのカオ、唆るねぇ ―― 付き合え」


 和巴の腕を掴んだまま、階段に向かってズンズン
 歩き出す。
  
  
「って、私はまだ午後の ――」

「講義は欠席すると講師に伝えておいた」

「そんな勝手に ――!」

「四の五の言わずに黙って着いて来いっ。
 絶対悪いようにはしない」
 
 
 いいえ!
 あなたと一緒にいるってこと自体。
 悪い事が起きる前兆としか思えないんですが?         
     
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...