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18 不可解な事故

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 まずみんなが疑問に思ったこと……。

 ――なぜ、奥野は、こんなところに倒れているのか?

 ちなみに駐車場には、ロープウェイから直接乗りつけることができる。
 ここに行くには、わざわざ外に出るというボタンを押す必要がある。
 
 さらに美香はどうやって、奥野を見つけたのか?
 美香だって、奥野と同様に駐車場に直接乗りつけることができるのに、なぜ、美香がロープウェイから死角になっているな場所で倒れている奥野を発見することができたのか?
 奥野の倒れている場所は、ロープウェイからは見えない場所にあった。

 ふと、伊月が、奥野の近くを見ると、手でも持てそうな大きさの鋭利な石に血痕があった。
 だが、血痕とは別に薄い赤色の花びらが石の下に挟まっているように見えた。
 ふと上を見ると、淡い桃色の椿の花が咲いていた。

(血に染まってしまったのだろうか?)

 伊月がそう思っていると、京介が、はっとしたように声を上げた。
 
「この石で頭を打ったのでしょうか……」

 京介が触ろうとしたので、巧が声を上げた。

「触らない方がいい」
「は、はい」

 京介は石に触れる前に手を引っ込めた。
 伊月が心配になり、隣に立つ奥野夫人を見ると奥野夫人は、無表情に奥野を見ていた。
 悲しむわけでもなく、混乱するわけでも、ただ無表情に佇んでいた。

 しばらくすると、警察と救急車がやってきた。
 
 やはり警察も、直接駐車場に行けるのに、なぜこんなところに、奥野が倒れているのかを不審に思い、事故と事件と二つの側面から捜査された。

 事件の可能性を考えると、美香が真っ先に疑われた。なぜなら、奥野が頭をぶつけた石は、一度地面を離れた形跡があった。奥野が頭を打った拍子に石が浮き上がった可能性もあるが、その石は、女性でも手に持つことが可能だし、ロープウェイからは、奥野が倒れている場所は見えないため、美香が、発見したことが不審に思われたのだ。

 だが、防犯用ロボットに、美香が迷わず外に向かい、角に着いた瞬間に、すぐに悲鳴を上げて、ロボットの緊急用の電話を使って、救急車を呼び、旅館に電話する様子が移されていた。その間、美香は一度も、ロボットの映像から姿を消していない。
 その後、美香はずっとロボットと行動を共にしていたので、美香の無実は証明されたのだった。
 
「なぜ、石川さんは、あの場所に向かったのですか?」

 警察の取り調べに、美香は「トオルさんと待ち合わせをしていたからです。私たち愛し合っていので」と堂々と答えた。
 その後、ロボットの防犯記録から、旅館の至るところで、美香と奥野の愛し合う姿が確認されたのだった。
 
 そして、今回の件は、――事故ということになったのだった。


☆==☆==

 
 奥野の亡骸はすぐに奥野の実家に連れて行かれることになった。
 だが、奥野夫人は、奥野の両親から『本家には足を踏み入れず、数日後の告別式だけに参列するように』と言われ、この旅館に留まるようにと言われたようだ。
 喪主は、元大臣を務めた奥野代議士の父親が務めるらしい。

 その日の夕食は、翡翠館の館主が病院から戻り、食事を作ってくれた。京介は、相変わらず忙しそうに、館主の隣で食事の補助をしていた。
 食卓に、美香の姿は見えなかった。
 今は、京香と巧と伊月、そして奥野夫人が席についていた。

「こんなことになってしまって……大変申し訳ございませんでした」

 翡翠館の主人が頭を下げてくれたが、もし、奥野が美香と愛し合うためにあえて、あの場所にいて、足を滑らせたのなら、旅館側には落ち度はないように思う。
 警察も、旅館側に問題はないとして、事故になったのだ。

 そもそも、旅館を巡回していたロボットの防犯カメラには、至るところで、奥野と美香の愛し合う姿がたくさん記録されていたのだ。
 ちなみに、個人の部屋の中は記録されず、庭やラウンジ、散策路などだけが記録される。つまり、奥野と美香は、野外で愛し合っていたということになる。
 なのできっと今回だって、野外で愛し合うために待ち合わせをしていたと考えると、辻褄が合う。

「ご主人に謝罪は必要ありませんわ。そもそも、外で……いえ、これ以上は止めておきます」

 京香が、伊月が内心思っていたことを、眉を寄せて言った。
 ここには奥野夫人もいるのだ。なんとも言えない空気が流れて、皆が気まずい思いをしていると、巧が声を上げた。

「とりあえず、食事にしませんか? さっきからいい匂いがしてますし」
「そうですね。では、まずこちらをどうぞ」

 そして、ようやく、食事が始まったのだった。
  

☆==☆==


 もうすぐ、食事が終わると言う頃、京介が庭を見ながら声を上げた。

「あの人影は?!」
「もしかして、石川様?!」

 京介と同じように庭園を見ていた館主が声を上げた。

「え?」

 伊月たちもその瞬間、外を見た。すると、林の向こうに確かに何かの陰が見えたが、すでにほとんど影は見えなくなっていた。

「もしかして!!」

 伊月はそう言うと、急いで席を立った。すると巧も席を立った。そして、伊月と巧は席を立って、外に向かった。

「私も行きます」

 京介も後をついて来た。
 外に出ると、モーター音が聞こえた。
 もしかしたら、今は、水をくみ上げる時間なのかもしれない。

 ぼんやりとそんなことを思いながら、伊月と巧と京介は、人影の後を追ったのだった。

 

 

 
 
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