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17 突然の電話

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「そろそろ、散策に向かいますか?」

 巧と伊月が、ラウンジで2人だけで、話を整理を終えて、次の行動に移ろうとした時。

 リーン。リーン。リーン。

 フロントの電話が鳴った。
 随分とクラシカルな音色に、伊月は思わず聞き入ってしまった。
 しばらくすると、近くにいたのか、京介が走って来て、電話を取った。

「はい」

(相変わらず、京介は忙しそうだな………)

 伊月は、忙しそうな京介に同情した。

「ん~~女将さんと、旦那さんが病院だからな、彼の負担は大きいみたいだな~~」

 すると巧も同じことを考えているようだった。
 巧は、そう言って、「そろそろ行こうか」と、席を立ったので、伊月も席を立った。

「そうですね」

「え? すぐに、救急車を…あ、呼んで下さった。では、とにかく、私も今から向かいます」

 巧と伊月が、散策に向かおうとすると、京介が青い顔で、大きな声を上げた。

「どうしたの?」

 巧が、オロオロしている京介に声をかけた。

「それが、奥野さんが、頭から血を流して倒れているらしく、発見した石川さんが救急車を呼んで下さったらしいです。ロープウェイは、すでに上に戻してくれているらしいので、もうすぐ到着するかと………私もすぐに向かいます」

 石川というのは、どうやら美香の苗字のようだった。
 京介が慌てて、ロープウェイに向かおうとすると、巧が大きな声を上げた。

「待って、それなら、奥野夫人にも声をかけるべきだ! もしかしたら、病院に付き添うことになるかもしれない」

 京介は、ハッとして、急いで内線を手に取った。

「そうですね。ありがとうございます。すぐにお呼び致します」

 京介が電話を鳴らしていたが、夫人は電話には出ないようだった。

「あ!! そういえば、先ほど、庭に向かっていませんでした? 呼んできます!」

 伊月が、大きな声を上げて庭に向かうと、巧も声を上げた。

「そうだった! 俺も行くよ」

 こうして、巧と、伊月は奥野夫人を探すために庭に出たのだった。


 ☆==☆==


「あら? 伊月さんに…鳴滝さん?」

 奥野夫人はすぐに見つかった。
 夫人は、庭の東屋に座っていた。
 少し目が赤かったので泣いたのだろうか?
 すでに、奥野代議士の不貞疑惑で悲しんでいる夫人に、こんなことを伝えるはつらかったが、伝えないわけにもいかない。

「大変です。奥野代議士が、駐車場で頭から血を流して倒れているそうです。すぐに向かって下さい」

 伊月は息を切らしながら言った。

「え? ……わかりました、すぐに向かいます」

 奥野夫人は、すぐに立ち上がると、旅館の方に向かった。
 巧と伊月も、奥野夫人と一緒に旅館の中に戻った。

 ラウンジを通り抜けロビーまで行くと、すでにロープウェイは、戻って来てた。

「奥野夫人、お待ちしておりました」

 京介が、夫人に声をかけると、夫人が小さく頭を下げた。

「お待たせ致しました」

 伊月が、2人と見送ろうとすると、巧は、2人に向かって言った。

「俺たちも行きます。何かできるかもしれないし」
 
 すると、奥野夫人がすぐに頷いた。

「お願いします」

 巧も2人と一緒にロープウェイに乗り込もうとしたので、伊月も急いで、ロープウェイに乗り込んだ。
 ロープウェイの中は、真っ暗だった。
 きっと美香は、外の景色を見るのが好きではないのだろう。

 京介が「上の部分だけ見えるようにしますね」と言って、足元はそのままで、手動で窓だけ見えるようにしてくれた。ロボットは、いないようだったので、下の駐車場にいるのだろう。

「ロボットは下ですか?」

 巧が、伊月がまさに疑問に思っていたことを尋ねた。

「はい。あのロボットには、防犯カメラと、緊急時に外部に連絡できる機能がついています。
 きっと、石川さんはそれをご存知なので、使われたのかもしれません」

「え? あのロボット、防犯カメラになっているのですか?」

 伊月が、驚いて尋ねた。
 てっきりここには、映像を記録するような機能はないと思っていたので、伊月はとても驚いてしまった。
 京介は、緊張した様子で説明してくれた。

「はい。もちろん外に画像を出すことは決してありませんが、防犯上、ロープウェイや、旅館内を巡回させています。映像は、一般の方が決して見れない場所に記録されることになっております。ネットなどには一切繋がっていなくて、アナログ録画機能なので、ハッキングなども不可能のです」

「なるほど………」

 ということは………奥野が、ロボットを連れて行くことを拒んだのは、万が一、美香との密会を撮られないためだったようだ。
 美香は、ロボットを連れて行ったが、ロープウェイの中から外は見えないし、ロープウェイの中に残しておけば、問題ないと思ったのかもしれない。

 ガタン。

 ロープウェイ乗り場に到着したようだった。
 このロープウェイは、ボタンがあり、直接自分の車のある駐車場に乗りつけることが出来る。
 だが、今回は、駐車場の外に通じるボタンを押した。
 
「どこでしょうか?」

 駐車場のすぐ近くには、奥野と美香の姿が見えなかった。
 そこで、4人は、駐車場の側面に移動してみた。
 すると、そこには、奥野が頭から血を流しながら横たわり、その近くに美香が泣きながら佇んでいた。

「トオルさん………すでに………息がないわ」

 医者である美香の言葉は、皆を絶望の淵に叩き落としたのだった。
 

 
 
 
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