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会員制高級旅館殺人事件
12 訳アリの人間関係(1)
しおりを挟む「伊月さん、伊月さん」
「ん?」
伊月が目を開けると、商品開発部の巧の顔が見えた。
「は? 巧さん?! 今日の納品は……」
伊月が思わず、声を上げると、巧が困ったように言った。
「寝ぼけてる? ごめん、もう少し寝かせてあげたいんだけど、ここでは夕食は、宿泊者が全員参加する決まりだから……化粧をするね」
伊月は、ぼんやりとした頭で、自分が今、どこにいるのかを思い出した。
「あ、すみません。お願いします!!」
伊月は、男性サイズの女性物のような下着を付けて、服を着ると、顔をじゃぶじゃぶと洗って、メイクルームの鏡台の前に座った。
「お願いします」
「了解」
巧は、笑顔で化粧品を手に取ったのだった。
伊月は、されるがまま巧に顔を預けたのだった。
巧は、次から次へと道具を手に取って伊月の顔を変えていく。
(化粧って凄いな……)
伊月が化粧の威力に感心していると、しばらくして、巧がにこやかに言った。
「はい。終わり」
「巧さん……慣れてるんですか?」
化粧が終わり、伊月は、女性の顔になった自分をしげしげと見つめた。
「慣れてるって言えば、慣れてるかな……。このシリーズも一応開発に関わっているから。まぁ、メイク関係は、宮野さんが責任者だけどね」
よく考えてると、自社製品で巧が関わっていない商品なんて存在しないのだ。
「ああ、そうですよね。すみません」
伊月は、自分が斜め上なことを言ってしまったことを自覚して、巧に詫びた。
「いや、あやまらなくていいからね。でも……凄いね。お茶を飲んで、ご飯を食べて、温泉入ったら、伊月さんの肌……かなり、すべすべになった。やっぱり凄まじい効果だな」
巧が真面目な顔で伊月を見ながら言った。
実は伊月も、着替えをするときに、自分の身体が滑らかな肌ざわりになったことに驚いていた。
「ここの温泉には、ピーリング効果でもあるんですかね」
伊月が尋ねると、巧が笑顔で言った。
「そう、正解!! 今日のお湯はピーリング効果のあるお湯だったみたいだね」
「今日の?」
伊月は、思わず、巧を見つめた。
「そうそう、ここの温泉の泉質は、日替わりで変わるんだ。3種類の温泉が楽しめるよ」
「なるほど……それは確かに、贅沢ですね」
温泉の泉質が3種類、しかも日替わりとはどういう原理なのだろうか?
伊月が考えていると、巧が、声を上げた。
「あ、そろそろ行こう」
「はい」
こうして、巧と伊月は、食事に向かったのだった。
どうやら、テーブルは部屋事に別れているようだが、大理石を使った豪華なカウンター席になっていて、皆が同じテーブルに座るというスタイルだった。
ふと、テーブルに視線を向けると、テーブルに信じられないほど美しい人が座っていた。
化粧品会社で働いていると、透明な肌という肌は、弾力があり張りがあり、滑やかな肌だと思い知る。広告撮影現場などに行くと、ライティングにはかなり気を使っている。
だが、これほど淡い光の中で、輝く肌。そして、スラリと通った鼻筋、長いまつ毛に、少し垂れた大きな瞳。圧倒的な美しさを持つ女性の存在に、伊月は思わず立ち尽くしてしまった。
(キレイな人だな……)
「これは、巧さんではないですか、先日の会長主催のパーティー以来ですね」
伊月が、美しい女性に見とれていると、先ほど庭で見かけた代議士の奥野に声をかけられた。
奥野は席を立ち、巧の前に歩いて来て、片手を出した。
「お久しぶりです」
巧は、奥野の手を握りながら、にこやかに返事をしてた。どうやら、巧と奥野は知り合いだったようだ。すると、奥野が今度は、伊月に手を差し出した。
「さすが、巧さんのパートナー。美しい方ですね」
奥野の目の奥が怪しく光った気がして、伊月は、なぜだが、背中がゾクゾクとしたが、手を差し出されてしまえば、握手に応じなければならない。
「はじめまして」
奥野に手を差し出すと、奥野が手の甲を撫でるような握手をした。
驚いた伊月が顔を上げて、奥野を見ると、奥野が怪しく微笑んだ。
(う……なんだ、こいつ……全然、爽やかじゃない?)
伊月はやんわりと、手を離すと、奥野が笑顔で言った。
「今日は、お互い楽しみましょうね」
その言葉には、巧が答えた。
「ええ、そうですね」
奥野が席に着いたのを確認して、ようやく伊月たちもテーブルに着こうとして、その時ようやく気が付いた。奥野の隣に座っていたのは、先ほど、伊月が目を奪われた美しい女性だった。散策途中で見た、奥野とキスをしていた女性ではない。
(あれ? どいうことだ?)
伊月が混乱しながら席に座っていると、他の部屋へ通じる通路から、奥野と庭でキスをしていた女性がやって来た。女性は、チラリと奥野に視線を向けると、奥野は、瞳で合図をするかのように目を細めた。女性は、伊月の隣にスタスタと歩いて来た。
「こんばんは、隣失礼しますね」
女性は席に座ると、巧に視線を向けた。
「あら? 巧さんじゃない?」
巧は、伊月に少し隠れるようにしながら言った。
「お久しぶりです……美香さん」
どうやら、この人も巧の知り合いのようだった。
(巧さん、本当に知り合い多いな……)
伊月が驚いていると、今度は、京香さんがやって来た。京香さんは、入ってく来るなり、奥野に視線を向けると、またしても奥野は、先ほど、巧が『美香さん』と呼んだ女性と同じような反応をした。
(あれ……これって……)
伊月は、イヤな予感がして、急いで二人から顔を背けた。
京香は、美香の隣に座った。
「こんばんは」
「こんばんは」
京香と美香は和やかに話をしているが、伊月はなんとなく、この空間はかなりマズイ空間なのではないかとハラハラしてしまったのだった。
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