我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

文字の大きさ
上 下
143 / 145
SIDE エピソード

エピソード4 ルーカス

しおりを挟む


【ルーカス エピソード】 

これはクリストフルート 8話『怖がらずに光を放て』の分岐にて、ベルナデットがもしも違う選択肢を選んでいたらのifストーリー。






ーーーーーーーー






私が用事をすべて終わらせて、部屋に戻るとローベルが部屋を尋ねてきた。

「ベルナデット様。殿下がお呼びです。
殿下の私室までおいで下さい。」

「え?私室ですか?」

私はかなり驚いた。
クリスは、結婚するまでお互いの私室の行き来は避けようと言っていたのだ。
どうして急に私室に招かれたのか不思議に思いながら、私はローベルに「わかりました。」と答えた。

そのまま。ローベルに案内されてクリスの私室に向かった。

「でも本当に今回は私もヒヤヒヤしておりましたので、リトア殿には頭が下がります。」
「リトア殿……ルーカス様ですか?」
「ええ。実はルーカス・リトア殿が、殿下にベルナデット様が劇場の事業に必要だと進言して下さったのです。」

私はそれを聞いて嬉しくなった。

(え?私が必要だと言って下さったの??
ルーカス様が?それは嬉しいわ。)

「そうなのですか」
「ええ。おかげで、殿下も納得されて。
私は、このまま殿下がベルナデット様を監禁……」

私は思わず、ローベルの顔を凝視した。
ローベルも、しまったという顔をしていた。

(え?今、不穏な単語が聞こえなかった??監禁??)

私は思わず足を止めた。

「……監禁?」

(え?私、もしかして監禁されるの?
それで、クリスの部屋?!
イヤなんだけど!!イヤなんだけど!!イヤなんだけど~~~!!)

私が青い顔をして歩くのを止めてしまったので、ローベルが慌てて言葉を続けた。

「いえ。申し訳ありません。
もう監禁の心配はありません。」
「もう……?じゃあ、可能性があったの??」

ローベルは目を泳がせながら「いえ。」と言った。

(嘘下手過ぎだから!!!)

「ローベル。私、自分の部屋に戻ってもいいですか?」

私の言葉にローベルが真剣に答えた。
いつも冷静なローベルが影も形もなかった。

「いけません!!ここで殿下のお部屋に行かなかったら、監禁の可能性が高まります。
ぜひそんな悲しい未来にならぬよう、今!!殿下の部屋に行って下さい!!
今です!!今!!!
何卒よろしくお願いします!!」
「え~~~。」


私の頭の中に選択肢が浮かんだ。

▶ クリスの部屋に行く

▶ 自室に戻る 



ーーーーー



▶ 自室に戻る 


 私はじっとローベルを見た。

「申し訳ございません。クリス様にもうしばらく考える時間がほしいと伝えてもらえませんか?」

「え?!」

「クリス様はルーカス様に言われて、私とお話をされようとしたのでしょう?
 私はクリス様の意思で私と話をしたいと思って頂きたいのです。
 そうでなければ今後、同じことが起こった場合、また周囲の力をお借りしなければならなくなります。
 これからもクリス様と過ごすためにも2人で乗り越えたいのです。
 お願い致します」

 私の決意を見て、ローベルが頭を下げた。

「畏まりました。今のベルナデット様のお言葉を正確に殿下にお伝え致します」

「ええ」

 私は、ローベルに背を向けると自室へと向かった。
 ふと足を止めて窓から月を眺めた。

「綺麗……」

 すると窓の外からフルートの音色が聞こえた。
 私は、気が付けばその音色の元に走っていた。


「ふふふ。会えるといいな、と願っておりましたが……本当に会えるとは!」

 月明かりの中、フルートを手に立っていたのはルーカス様だった。
 ルーカス様のどこまでも穏やかな瞳を見ていると私の目から涙が零れてきた。
 
 なぜ泣いているのかは自分でもわからない。
 だが、ずっとクリス様に認めて貰えず、やりがいを奪われたように感じ、やっと見つけた新しいやりがいまで取り上げられた私にとって、ルーカス様のフルートの音色はまるで閉ざした心を溶かすように思えたのだ。

「どうぞお使い下さい。ああ、あのベンチに座りましょう」

 ルーカス様はシルクの肌ざわりの良いハンカチを私に渡すと、私の手を引いて近くにあったベンチにエスコートしてくれた。
 そしてルーカス様は、私が泣き止むまで何も言わずにそばにいてくれた。

+++++

「ごめんなさい、いつもみっともない姿をお見せして」

「いえ……」

 ルーカス様は私の手を取って片目を閉じた。
 
「ベルナデット様。
 悪いことしてみましょうか?」

「え? 悪いこと??」

 私が訪ねるとルーカスはにっこりと美しく微笑んだ。
 
 ルーカスが連れて来てくれたのは、町にある洋服屋だった。
 日が落ちて大抵のお店は締まっているのに、そのお店には明るい光が見えた。

「あら? ルーカスどうしたの? そんな高貴な人連れて」

 妖艶な美女が私たちを迎えてくれた。
 ルーカス様は慣れた様子で女性に話しかけた。

「彼女をこの夜が似合うようにしてくれないか?」

「ふふふ。いいわ。待ってて」

 そして私は、ひざ丈くらいのスカートに動きやすいブラウスを着た。
 ドレスやワンピース以外の服を着るのは久しぶりだった。

「いいですね。似合います!! さぁ、ベルナデット様お手をどうぞ?」

「ええ」

 ルーカスに連れられてやって来たのは、賑やかな男女が集まる活気ある場所だった。
 ステージではアコーディオンやギターの音楽が流れ、みんな楽しそうに踊っていた。

「ふふふ。ベルナデット様!! 踊りましょう」

「え?」

 私はルーカス様に手を引かれるまま周りの人達が踊るのを見よう見まねで踊った。
 こんなの笑ったのは久しぶりだったし、こんなにはしゃいだのも久しぶりだった。

 するとピアノの音色が聞こえて、これまでの雰囲気とは変わって皆が寄り添いながら踊り出した。

「ふふふ。ベルナデット様こうするんですよ」

「ええ」

 私もルーカス様に身体を寄せあって踊った。
 踊っているとルーカス様が口を開いた。
 
「この夜はきっと幻のように儚く消えてしまうと思います。
 でも頑張り屋なあなたには、そんな夜があってもいいのではないかと思います」

 幻、確かにそうかもしれない。
 今後、こんな夜がもう二度とないということはわかっていた。

 でもそれでいい。

「あなたに会えたことに感謝します。ありがとう」

「もったいないお言葉です」

 その後、ルーカス様は私を城に送ってくれた。
 ルーカス様が別れ際に私を見て微笑んだ。

「あなたには笑った顔が良く似合います。
 あなたのためならば、私は何度でもピエロになりましょう」

 そして私の手に口を付けると、穏やかに微笑んだ。

「待っておいでですよ。
 あなたを……」

「え?」

 ルーカス様の視線の先にはクリス様の部屋は見える。
 クリス様の部屋の灯りはまだついているようだった。

「ベルナデット様、誰かに頼ることは決して悪いことではないのですよ。
 困ったら助けを求めればいい。
 何度だってお助けしますよ」

 私はいつも間にか笑顔になっていた。
 
「ありがとうございます!!」

「さぁ、早く行って!!」

 ルーカス様に言われて、私はクリス様の部屋に向かって走っていた。
 

+++++


 去り行くベルナデットの背中を見ながらルーカスが小さく呟いた。
 
「ふっ……例え手に入らなくとも、笑ってくれたら幸せだなんて。
 恋とは厄介なものですね」




【ルーカス エピソード END】 







しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

処理中です...