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SIDE エピソード
エピソード4 ルーカス
しおりを挟む【ルーカス エピソード】
これはクリストフルート 8話『怖がらずに光を放て』の分岐にて、ベルナデットがもしも違う選択肢を選んでいたらのifストーリー。
ーーーーーーーー
私が用事をすべて終わらせて、部屋に戻るとローベルが部屋を尋ねてきた。
「ベルナデット様。殿下がお呼びです。
殿下の私室までおいで下さい。」
「え?私室ですか?」
私はかなり驚いた。
クリスは、結婚するまでお互いの私室の行き来は避けようと言っていたのだ。
どうして急に私室に招かれたのか不思議に思いながら、私はローベルに「わかりました。」と答えた。
そのまま。ローベルに案内されてクリスの私室に向かった。
「でも本当に今回は私もヒヤヒヤしておりましたので、リトア殿には頭が下がります。」
「リトア殿……ルーカス様ですか?」
「ええ。実はルーカス・リトア殿が、殿下にベルナデット様が劇場の事業に必要だと進言して下さったのです。」
私はそれを聞いて嬉しくなった。
(え?私が必要だと言って下さったの??
ルーカス様が?それは嬉しいわ。)
「そうなのですか」
「ええ。おかげで、殿下も納得されて。
私は、このまま殿下がベルナデット様を監禁……」
私は思わず、ローベルの顔を凝視した。
ローベルも、しまったという顔をしていた。
(え?今、不穏な単語が聞こえなかった??監禁??)
私は思わず足を止めた。
「……監禁?」
(え?私、もしかして監禁されるの?
それで、クリスの部屋?!
イヤなんだけど!!イヤなんだけど!!イヤなんだけど~~~!!)
私が青い顔をして歩くのを止めてしまったので、ローベルが慌てて言葉を続けた。
「いえ。申し訳ありません。
もう監禁の心配はありません。」
「もう……?じゃあ、可能性があったの??」
ローベルは目を泳がせながら「いえ。」と言った。
(嘘下手過ぎだから!!!)
「ローベル。私、自分の部屋に戻ってもいいですか?」
私の言葉にローベルが真剣に答えた。
いつも冷静なローベルが影も形もなかった。
「いけません!!ここで殿下のお部屋に行かなかったら、監禁の可能性が高まります。
ぜひそんな悲しい未来にならぬよう、今!!殿下の部屋に行って下さい!!
今です!!今!!!
何卒よろしくお願いします!!」
「え~~~。」
私の頭の中に選択肢が浮かんだ。
▶ クリスの部屋に行く
▶ 自室に戻る
ーーーーー
▶ 自室に戻る
私はじっとローベルを見た。
「申し訳ございません。クリス様にもうしばらく考える時間がほしいと伝えてもらえませんか?」
「え?!」
「クリス様はルーカス様に言われて、私とお話をされようとしたのでしょう?
私はクリス様の意思で私と話をしたいと思って頂きたいのです。
そうでなければ今後、同じことが起こった場合、また周囲の力をお借りしなければならなくなります。
これからもクリス様と過ごすためにも2人で乗り越えたいのです。
お願い致します」
私の決意を見て、ローベルが頭を下げた。
「畏まりました。今のベルナデット様のお言葉を正確に殿下にお伝え致します」
「ええ」
私は、ローベルに背を向けると自室へと向かった。
ふと足を止めて窓から月を眺めた。
「綺麗……」
すると窓の外からフルートの音色が聞こえた。
私は、気が付けばその音色の元に走っていた。
「ふふふ。会えるといいな、と願っておりましたが……本当に会えるとは!」
月明かりの中、フルートを手に立っていたのはルーカス様だった。
ルーカス様のどこまでも穏やかな瞳を見ていると私の目から涙が零れてきた。
なぜ泣いているのかは自分でもわからない。
だが、ずっとクリス様に認めて貰えず、やりがいを奪われたように感じ、やっと見つけた新しいやりがいまで取り上げられた私にとって、ルーカス様のフルートの音色はまるで閉ざした心を溶かすように思えたのだ。
「どうぞお使い下さい。ああ、あのベンチに座りましょう」
ルーカス様はシルクの肌ざわりの良いハンカチを私に渡すと、私の手を引いて近くにあったベンチにエスコートしてくれた。
そしてルーカス様は、私が泣き止むまで何も言わずにそばにいてくれた。
+++++
「ごめんなさい、いつもみっともない姿をお見せして」
「いえ……」
ルーカス様は私の手を取って片目を閉じた。
「ベルナデット様。
悪いことしてみましょうか?」
「え? 悪いこと??」
私が訪ねるとルーカスはにっこりと美しく微笑んだ。
ルーカスが連れて来てくれたのは、町にある洋服屋だった。
日が落ちて大抵のお店は締まっているのに、そのお店には明るい光が見えた。
「あら? ルーカスどうしたの? そんな高貴な人連れて」
妖艶な美女が私たちを迎えてくれた。
ルーカス様は慣れた様子で女性に話しかけた。
「彼女をこの夜が似合うようにしてくれないか?」
「ふふふ。いいわ。待ってて」
そして私は、ひざ丈くらいのスカートに動きやすいブラウスを着た。
ドレスやワンピース以外の服を着るのは久しぶりだった。
「いいですね。似合います!! さぁ、ベルナデット様お手をどうぞ?」
「ええ」
ルーカスに連れられてやって来たのは、賑やかな男女が集まる活気ある場所だった。
ステージではアコーディオンやギターの音楽が流れ、みんな楽しそうに踊っていた。
「ふふふ。ベルナデット様!! 踊りましょう」
「え?」
私はルーカス様に手を引かれるまま周りの人達が踊るのを見よう見まねで踊った。
こんなの笑ったのは久しぶりだったし、こんなにはしゃいだのも久しぶりだった。
するとピアノの音色が聞こえて、これまでの雰囲気とは変わって皆が寄り添いながら踊り出した。
「ふふふ。ベルナデット様こうするんですよ」
「ええ」
私もルーカス様に身体を寄せあって踊った。
踊っているとルーカス様が口を開いた。
「この夜はきっと幻のように儚く消えてしまうと思います。
でも頑張り屋なあなたには、そんな夜があってもいいのではないかと思います」
幻、確かにそうかもしれない。
今後、こんな夜がもう二度とないということはわかっていた。
でもそれでいい。
「あなたに会えたことに感謝します。ありがとう」
「もったいないお言葉です」
その後、ルーカス様は私を城に送ってくれた。
ルーカス様が別れ際に私を見て微笑んだ。
「あなたには笑った顔が良く似合います。
あなたのためならば、私は何度でもピエロになりましょう」
そして私の手に口を付けると、穏やかに微笑んだ。
「待っておいでですよ。
あなたを……」
「え?」
ルーカス様の視線の先にはクリス様の部屋は見える。
クリス様の部屋の灯りはまだついているようだった。
「ベルナデット様、誰かに頼ることは決して悪いことではないのですよ。
困ったら助けを求めればいい。
何度だってお助けしますよ」
私はいつも間にか笑顔になっていた。
「ありがとうございます!!」
「さぁ、早く行って!!」
ルーカス様に言われて、私はクリス様の部屋に向かって走っていた。
+++++
去り行くベルナデットの背中を見ながらルーカスが小さく呟いた。
「ふっ……例え手に入らなくとも、笑ってくれたら幸せだなんて。
恋とは厄介なものですね」
【ルーカス エピソード END】
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