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後日談 サミュエル編 奥手な2人の誘惑大作戦!!
3 遠距離恋愛(3)
しおりを挟むカリカリカリカリ。
朝からずっと手を高速で動かしている。
進んでいないわけでない。
それが証拠に終わった書類はすでに山積みだった。
今はコンラッド殿が仕分けしてくれたので山積みの書類が分類されて整理されているが……。
何が言いたいかというと、終わらないということだ。
書いても書いても書いても終わらないのだ。
とにかく処理する書類の量が多くて全く終わらないのだ!!
私が一心不乱にペンを動かしているとコンラッド殿の声が聞こえた。
「サミュエル殿!! 次は大臣のところですよ?」
そう言われてチラリと机の上に置いてある懐中時計で時間を確認した。
(もう、こんな時間か!!)
分刻みのスケジュールの中、よくぞここまで計算して予定を立てられるものかとコンラッド殿のスケジュール管理に感心しながらも、後少しで書き終わる書類から目を離さずに声を上げた。
「ええ。もちろんわかっています。わかっていますよ!! あと数文字で終わります!!」
カリカリカリ。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「終わったぁ~~~!!」
私が立ち上がるとすでに必要な書類をコンラッド殿が用意してくれていた。
「間に合いましたね。カリキュラム変更案の資料はお持ちですか?
大臣と打合せの後、学院の理事の1人のフェル伯爵と昼食ミーティングの後に、ルーカス殿との打合せもありますよ。書類はどれですか?」
私は急いで、先程書いた書類を手に取った。
「これです」
私はたった今できたばかりの書類をコンラッド殿に手渡した。
コンラッド殿の目が高速で移動している。
相変わらず読むのも早い。
「確認します……はい。良さそうですね。
それでは急ぎましょう!!」
(ふぅ……いや、気を抜くのは早いこれから大臣のところだ!!)
私とコンラッド殿は今日も朝からずっと休まず仕事をしていた。
コンラッド殿は本当に優秀過ぎるほど優秀で、もし彼がサポートでなかったら私は今頃、確実に倒れていただろう。
私はもちろんそれを痛感していた。
「コンラッド殿。感謝しています」
「なんです? 突然。そんなお世辞はいいので、目の前のことに集中してください!!」
言い方は酷くぶっきらぼうだったが、耳が赤くなっているのを発見してどこか微笑ましくなった。
同時にコンラッド殿が素直でない性格でよかったと心から安堵していた。
これだけ優秀な男だ。
もしかすると彼にベルナデット様を奪われてしまっていたかもしれない。
だが、彼は愛情表現が苦手らしく人に誤解を与えていた。
きっとベルナデット様にも素直に接してはいなかったのだろう。
だからこそ彼女は自分を選んでくれたのかもしれない。
そう思って首を振った。
(ダメだ!! 弱気になるな!! ベルナデット様は私を選んでくれたのだ。
その心を疑ってはいけない)
そう自分を奮い立たせる。
(はぁ~~~余裕ないな……)
私は己の心の狭さに胸が痛んだのだった。
+++
「今日もお疲れ様でした。
体調を崩すと全てがストップしますからね!!
絶対に寝て下さい」
「はい……必ず寝ます」
今日の予定が全て終わると意識していなかった疲れが一気に襲ってきた。
(疲れたな……)
「お疲れですか?」
「……そうですね」
「では、そんなあなたにこちらを」
「え?」
コンラッド殿が少し口の端を上げて封筒を差し出した。
「ベルナデット殿下からです。先程レアリテ国から届いた書類の中に入っていました」
「え?」
私は封筒を受け取ると、ぼんやりと封筒を眺めた。
(ベルナデット様からの手紙……?! 初めて貰った!!)
「では、私は先に失礼します」
バタンとコンラッド殿が扉を閉めた途端、私はベルナデット様からの手紙を封を切った。
『愛しのサミュエル様。
大好きなサミュエル様にお会い出来ずに大変寂しく思っております。
早くお会いしたい気持ちはありますが、無理をしてほしくはありません。
私はいつまででもサミュエル様を待てるほど愛していますので、どうか焦らず身体には気を付けて下さい。
ベルナデット』
ベルナデット様も普段は照れているのか『大好き』や『愛している』などとは滅多に言ってはくれない。
だが……!!
手紙の中の彼女はいつもとは違って愛の言葉を私に与えてくれた。
文章が短いが、これはきっと疲れていると思って読む私の負担を減らしてくれたのだろう。
それに返事を書くにもこのくらいの長さなら私も書きやすい。
つまり、これは短い手紙の中にベルナデット様なりの愛情表現を精一杯考えてくれた結果なのだ。
「くっ!!!
ベルナデット様!!
私を気遣うだけではなく、これほどまでに甘い言葉をかけて下さり、私の気力と体力まで回復して下さるのか!!
こんな、こんな可愛いことを!!
ああ!! ベルナデット様!!
……私が待てません!!!
早く戻ってぎゅっと抱きしめて、キスをして、ベルナデット様をこの手で存分に甘やかしたい!!」
さっきまでの身体の重さはどこに行ったのか、私はつい緩んでしまう顔のまま呟いた。
「ベルナデット様にお会いしたい……」
そうして愛しのベルナデット様に手紙を書いたのだった。
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