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後日談 クリストフ編 新婚旅行へ行こう!

7  レアリテ国宮殿にて(2)

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 知っていたつもりでした。

 ええ。それはもう……。

 クリス様が優秀な方だとは充分に承知していたはずでした。


 ですが……。


 クリス様は、私が思う以上に優秀な方でした。


「全ての主要街道の整備だなんて思い切った政策でしたね」

「ええ。今回、新しく開墾したおかげで王都が潤いました。
 不測の事態に備えて蓄えも確保できた今こそ街道整備をすれば、さらに発展すると見込んだのです」

 現在、私は母(女王陛下)、父(王配)、夫(王太子)に囲まれ、夕食を共にしています。
 いきなり隣国の女王陛下を母だと言われても、恐れ多い気持ちは変わらず、私は張り付いた笑顔を浮かべてしまっています。

 ですが……。
 
 そんな私の隣でクリス様は、私の両親と、とても打ち解けていました。
 正直、私はクリス様のお話は難しくてついていけません……。

 食事が終わる頃には母はクリス様をすっかり気に入りご機嫌でした。

「ベルナデットは本当に素敵な男性と結婚したのね♡」

「それは間違いないね~」

 母と父の会話を聞きながら私は置物のように佇んでいました。

「というわけだから、明日から離宮でのんびりと過ごして。
 最後の日にちょっとした演奏会を予定してるから4人で一緒に弾こうね」

「え?」

 実父の言葉に驚いていると、クリス様が見惚れるほどの美しい笑顔を向けた。

「はい。一度、披露するために練習していますが、楽器が変わると新鮮ですし楽しそうですね」

「ふふふ。ベルナデット。あなたのファーストヴァイオリン楽しみにしておくわ。
 私もセカンドヴァイオリン練習しておくわ」

 母の言葉に私はぎょっとして顔を向けた。

(え? ファースト?! 私が?!)

「クリス様がピアノを担当されるからな~。
 今回はチェロを弾こうかな♪」

「えええ~~~?? 父上はチェロも弾けるのですか?」

「うん」

 さらにピアノ担当だと思っていた実父がまさかのチェリストで私は思わず大きな声が出てしまった。

 ぼんやりしていて、話を全く聞いていなかったが、どうやら私とクリス様は明日から離宮でのんびりと過ごすらしい。
 だが、最終日に母と父とクリス様と私で演奏会をするそうだ。
 しかも、なんの曲だかわからないが、私はファーストヴァイオリンを担当するらしい……。


――……それってのんびりできるのかしら?


 私は首を傾げながら、クリス様と一緒に部屋に戻ったのだった。


+++



「ふぅ~~~~」

 部屋に戻るとクリス様が深い息を吐いた。

「お疲れ様でした。ありがとうございます。
 クリス様のおかげで両親もご機嫌でした」

 私がソファーに座ったクリス様の隣に座ると、クリス様が私を見て顔を寄せたので目をつぶった。

チュッ♡

 軽くキスされて目を開けるとクリス様が甘えたような声を出した。

「じゃあさ……ご褒美に一緒にお風呂入ろう?」

「え゛?!」

 お風呂は恥ずかしい気がする。
 いや!!
 恥ずかしい。

 ちょっと待ってほしい。
 まだ心の準備ができない。

「お風呂は……ちょっと……」

「そっか……残念。じゃあ、こっちにいる間に一度は入ろうね♪」

 そう言うと、クリス様はすんなりと引いてくれた。
 どうやら、本気だったわけではないようだ。
 クリス様の態度にほっとしていると、髪を撫でられた。

「ベルが先に入る?」

「いえ!! どうぞ、クリス様がお先に!!」

 いつも以上に色気のあるクリス様に私は真っ赤になっていただろう。

「そう? じゃあ入るね」

「どうぞ」

 この部屋にはお風呂がついている。
 イリュジオン国ではお風呂には必ず侍女が付き添うことになっている。
 だが、ここでは自由な時間に1人で入ることが許されているのだ。

 クリス様が浴室に入った途端。

「はぁ~~~~~~~~~~~~~~」


 私は長い溜息をついた。

 思い起こせば……。


 大人の階段を上ったと思ったら、隣国の女王陛下の娘だと言われ、さらに食事をして、演奏会の打診もされたのだ。
 これで疲れていない方がおかしい。

 私は、ふかふかのソファーに深く沈み込んだのだった。


「疲れたわ……」

 そう呟いて目を閉じた。
 目を閉じて私の頭の中にいつかクリス様とルーカス様と共に演奏して『我が最愛に捧ぐ』のメロディーが流れてきた。
 どうして突然この曲が浮かんできたのかはわからない。

 
 だが、私の頭の中ではずっとこの曲が流れている。
 しばらくこの曲について考えているとクリス様の声が聞こえた。

「ベル。お風呂入っておいでよ。侍女を呼ばなくてもいい?」

「はい」

「そっか。何を考えていたの?」

「ああ、いつか演奏した『我が最愛に捧ぐ』を思い返していました。

 クリス様は私の隣に座ると、目を細めた。

「ああ。もう、演奏会の曲のことを考えてたんだ。
 本当にベルはヴァイオリンにことになると夢中になるよね~~~。
 妬けるな~~」

「この曲を弾くのですか?」

「そうだよ? ああ、もしかして聞いてなかったの?」

「……申し訳ございません」

「仕方ないよ。ベル初めの方はかなり緊張してただろ?」

「……はい」

 なぜだろう。
 なんとなく、私はこの曲を弾くことをすんなり受け入れていた。

 私がぼんやりしているといつの間にかクリス様の顔があったと思ったらキスをされた。

「ベルのその決意に満ちた顔……綺麗だけど……どこか不安になる。
 私から離れて行ってしましそうで」

 私はチュッ♡ と音を立ててクリス様の下唇にキスをした。

「どこにも行きませんよ。大好きなクリス様のお傍にいます」

「~~~~~~!!
 やっぱりお風呂一緒に入ればよかった!!!!!!」

「あ、そうでした!!
 では、私も失礼します!!」


 私はそそくさとバスルームに向かった。
 この後のことは、後で考えることにしたのだった。


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