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SIDE エピソード

エピソード1 在りし日の母たちの想い (前編)

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☆登場人物紹介

エリザべス……エリックの母。現国王の妹。アトルワ公爵家嫡男に嫁入り

ブリジット……ベルナデットの母。現レアリテ国女王。アトルワ公爵次男を王配にする。

クリスティーヌ……クリストフの母。現イリュジオン国王妃。エリザベスの兄と結婚。

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 私はお母様と実父と兄と一緒にヴァイオリンの練習をしていた。
 きりのいいところまで練習したので、私たちはお茶休憩をとることになった。

「お兄様、聞こうと思っていたのですが、どうして先程の曲をあのように表現をされるのですか?」

 私は兄の曲に関する解釈に疑問を持ち尋ねた。

「どうして……? 何度も言うが、楽譜を見ると音楽が聞こえるんだ……その音に近づけてるだけだから説明するのは難しいな……」

「ふふふ。そのセリフを聞いたのは何年ぶりかしら!! 懐かしいわ~」

 兄の言葉に、お母様が声を上げて笑った。

「お母様、懐かしいとは他にもどなたかが、おしゃっていたのですか?」

「ふふふ。ええ。エリックの母のエリザベスがね……私、その言葉を聞いてヴァイオリンを真剣に弾きだしたのかもしれないわ」

 お母様が目を細めると、実父が楽しそうに笑った。

「あはは。確かにあの頃から君はヴァイオリンに対して随分と真剣になったよね」

「ふふ。懐かしいわ」


+++

19年前。

 ブリジットは16歳になり王位継承の動乱に巻き込まれるのを恐れ、身を守るために隣国イリュジオン国に留学することになった。
 元々レアリテ国の王女として高い音楽教育や帝王学を受けていた彼女にとって、音楽の後進国であるイリュジオン国への留学は退屈なものだった。

 そんな退屈な日を過ごす中、ブリジットは中庭でヴァイオリンを奏でていた。
 いつもはお世話になっている公爵家で練習をしているが、今日はなんとなくヴァイオリンを学園に持って来ていたので、中庭で弾いていたのだ。

~~~~♪~~~~♪


(はぁ~。今日の練習はここまでにしましょうか)

パチパチパチパチ。

「誰?」

 拍手の音がして振り向くと、この国の王女であるエリザベス(エリックの母親)が立っていた。
 
「さすがね。倍音が本当に綺麗だわ。あなたが演奏するとまるで周りの空気まで一緒に震えているみたいね」

 思いがけない感想にブリジットは驚いてしまった。

「そんなこと初めて言われたわ」

 お互い女王として顔は知っていたが、話をしたのは初めてだったのだ。

「話をするのは初めてよね? 私はエリザベスよ。気軽にエリザベスって呼んでくれない? この国に私のことを呼び捨てで呼んでくれる人ってなかなかいないのよ」

 エリザベスはこの国の王女だ。
 そんな彼女のことを呼び捨てにする人は確かに少ないだろう。
 そうなると、一応国は違うがブリジットも王女なので立場は同じなのかもしれない。

「私はブリジット。じゃあ、遠慮なく名前で呼ばせてもらうわ。私のこともブリジットと呼んで」

「ありがとう」

 エリザベスが嬉しそうに笑うと、ブリジットが先程疑問に思ったことを聞いてみた。

「もしかして、エリザベスも楽器を弾くの?」

「ふふふ? どうして?」

 エリザベスは楽しそうに目を細めた。

「楽器も弾かない人がそうそう『倍音』なんて褒めないでしょ?」

「ああ~。なるほど? そうなの? でも当たりよ。
 私はチェロが大好きなの。もし、王女なんて堅苦しい立場じゃなければ、あなたの国に音楽留学してチェリストになりたかったの」

「そうなの?」

 ブリジットはそれを聞いて心が踊った。

(この国にも楽器を演奏する人がいたのね!!)

「よかったら一緒に演奏しない?」

「ええ!! ぜひ」

 それから、2人は一緒に演奏するようになったのだった。
 
+++

 2人の練習は主に公爵家で行われた。
 その日も公爵家での練習をしていた。

~~~♪~~~♪

 2人が練習していると、いつもは使われていない公爵家のダンスホールからピアノの音が聞こえてきた。

「ブリジット、ピアノの音が聞こえない?」

「そうね……トリスタンかしら? それにしては少し……」

「行ってみましょうか」

「ええ」

 2人はダンスホールへと向かった。

~~~~♪~~~♪

すると、1人の男性と、ブリジットたちと同じ歳くらいの女性がいて女性がピアノを弾いていた。

「大丈夫だと思います」

「ありがとう。公爵様からのご依頼だったからな、クリスティーヌお嬢様に確認してもらえれば安心だ」

「ふふふ。お役に立てたならよかったですわ」


 ブリジットとエリザベスは顔を見合わせると2人の元に向かった。

「こんにちは」

「これはこれは、無事に終わりました」

 ブリジットが声をかけると、男性がにっこりと笑った。
 だが女性は驚いた後、急いで頭を下げた。

「エリザベス様とブリジット様!! ダニエル。この方々は、王女殿下であらせられます」

「え?! それは大変失礼を」

 ダニエルと言われた男性も急いで頭を下げた。

「ああ、私たちをご存知なのですね」

「はい。申し遅れました。私はオレオル学園に在籍しております。テナー伯爵家のクリスティーヌ(クリストフの母。後の王妃)と申します」

 クリスティーヌが深々と頭を下げた。

「ああ、私たちと同じ学園なのですね。ところで、クリスティーヌさん。先程のピアノを弾いておられましたでしょ?」

「はい。本日はこちらのピアノの調律を頼まれましたので調律師の方に同行しておりました」

 エリザベスとブリジットが首を傾げた。

「調律師に同行?」

 するとダニエルが口を開いた。

「こちらのクリスティーヌお嬢様は、どんな音でもドレミで聞こえる体質らしく、今回のように王家のピアノや公爵家のピアノや迎賓館のピアノなどの調律の際は同行をお願いしております。このことはもちろん公爵様にも了解を得ております!!」

 エリザベスが不思議そうに言った。

「へぇ~。音がドレミで聞こえる……初めて聞いたわ」

 すると隣でブリジットが息を飲んだ。

「絶対音感……こんなところで出会えるなんて……」



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