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【エリック】(真相ルート)
8 エリックside2
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ベルに私の愛が全く伝わっていないと言われて、つらくなった私はその場を離れてローズガーデンで1人佇んでいるとガサガサという音がした。
(誰だ?)
振り向くとセドリックが立っていた。
私はセドリックにぶっきらぼうに尋ねた。
「ベルはどうした?」
セドリックは私に近づくと隣のベンチに座った。
「泣き疲れて寝ちゃった」
「あそこまでベルに求められて、ベルを置いていくのか? 成人するまで父上が通うと言っているじゃないか」
「この前会談に同行して思ったけど、いくら兄上といえど、こちらの職務と兼任できる内容じゃない。信じられないほどやることが多いんだ」
セドリックがおどけた様子で言ったが瞳には熱い炎が宿っていた。
「ベルを悲しませてまで行く必要があるのか?」
私はあんなにもベルに求められながらも彼女を置いていくセドリックに憤りを感じていた。
「エリック。僕はもちろんベルナデットのことは愛しているけど、この事業も同じくらい大切なんだ。我が領が今後発展するためにも民への教育は必要不可欠なんだ。我が国は2つの大国と湖でつながるこの国の玄関口だ。教育なくしては民は大国に利用され、最悪の場合……我が国は滅びてしまうかもしれない。学校設立は国防という意味でも重要なんだ」
エリックは自分の拳を握りしめた。
「じゃあ、私が行く」
「エリックはすでにクリストフ王子殿下の側近として兄さんの職務を手伝っているのだろう? それに私は幼い頃からこの事業について学んできたんだ。何も知らない君が代われるほど単純なものではないよ」
エリックは、セドリックの真剣な瞳につい怯んでしまった。
私が俯いていると、セドリックが優しく声をかけてきた。
「エリックがベルナデットのことを本気で好きなのは知っている」
私は驚いてセドリックを見た。
「クリストフ殿下に夢中になるベルを見ていられなくなるぐらいベルナデットのことが好きなんだろう?」
本当はクリストフ王子殿下にというより、目の前のセドリックに嫉妬していたがそんなことは言えなかった。
「……そんなこと……」
『そんなことない』と言い切ることはできなかった。
でも『好きだ』とも言えなかった。
私の言葉を聞いたセドリックが真剣な顔を向けてきた。
「エリック……そんな中途半端な気持ちなら彼女を絶対に惑わせるな。
彼女に選ばせるんだ。
彼女の背負った運命はきっとお前が想像する以上に過酷だ。
もし、暗殺を逃れて王女になったとしても、全く地盤のないところからのスタートだ。
彼女が心から愛して、信頼できる相手がそばにいないと、彼女は潰れてしまう。
エリックはまだ信じられないと思うが、愛という原動力は人が生きていく上で存外バカにできないものなんだよ。
ブリジット様はトリスタン兄上と共にいるからこそ、あのように健勝でいられるんだ。」
私は拳を握った。
「わかっている」
セドリックが隣で、息を吐いた。
「なぁ、エリック。私はいっそのことベルはクリストフ殿下の伴侶になってこの国の王妃になるのが彼女の幸せなのではないかと思っている」
「え?」
意外な言葉に私はセドリックを見つめた。
この婚約はベルを守るためのものだ。
ベルは将来隣国の女王になる存在だ。
だから……。
ーー……クリストフ殿下のものにはならない。
それだけが、私の生きる支えだった。
「この前、学園の打合せに隣国に行き、ブリジット様とトリスタン兄上とお話した時、お2人もクリストフ殿下の妃になるのがいいかもしれないとおっしゃっていた」
「そんな……」
目の前が真っ暗になった。
ベルとクリストフ殿下が結婚されないということが唯一の希望だった。
「くれぐれも、ベルナデッドに未来を選ばせろ!!
いいか、ブリジット様を見ると痛感するが、国のトップになるのは並大抵のことじゃない。心に支えがなければ簡単に潰れてしまうんだ。
お前がベルナデットのことを想うには勝手だ。止めもしない。だが、このことは忘れるな」
ーー……心に支えがなければ簡単に潰れてしまう。
「わかって……いる」
私は呟くように言った。
するとセドリックがベンチから立ち上がると、私を見た。
「ああ、そうだ。私はもし、彼女が学園を卒業した時にまだ私が必要だと言ってくれるのなら、彼女を王配として支える覚悟がある」
「な、何を言って……」
私は驚き過ぎて目を見開いた。
ベルが愛しているのは間違いなくセドリックだ。
そのセドリックが『王配』になると言っている。
再び絶望が私を襲った。
「ではな。エリック……ベルナデットを頼む」
「ああ」
それからセドリックはすぐに領地に向かった。
そしてセドリックが居なくなり心の支えを失ったベルは荒れに荒れた。
クリストフ殿下に執拗に執着したり、我儘を言って気を引こうとしたり、これまでの彼女ではありえないような我儘な行動をとるようになった。
その時私は皮肉にもセドリックの言葉の意味を実感したのだ。
『彼女が心から愛して、信頼できる相手がそばにいないと、彼女は潰れてしまう。
エリックはまだ信じられないと思うが、愛という原動力は人が生きていく上で存外バカにできないものなんだよ』
セドリックはずっと孤独な彼女の心の支えだったのだ。
私が支えになりたいと思いベルに歩み寄ろうとした時にはすでに彼女には手の施しようがないほどになっていた。
どうしようもなくなり、困ったクリストフ殿下に頼まれたこともあり、ベルを屋敷に閉じ込めることになった。
『ベルのそばで彼女を支える』
そう思った矢先に……。
ーー……ベルは階段から落ちて記憶をなくした。
あれは、事故だったのか、それとも意図的だったのか。
ベルが記憶をなくしてしまった今となってはもう確かめるこはできないが、私はもう絶対に彼女から目を逸らさないと決めた。
+++++
記憶をなくしたベルは可愛いの一言だった。
以前のように誰かの気を引くために無茶なことをしたり、酷い我儘を一切言わなくなった。
そして、素直に私に甘えてくれるようになった。
私の顔を見れば笑い、可愛い声で私を呼んでくれた。
しかも、あれほど執着していたクリストフ殿下にも全く興味を示さず、まさかのヴァイオリンに夢中になった。
毎日毎日、ベルを過ごす度に『好きだ』『愛している』という思いが募っていった。
『いっそのことこの想いを告げてしまいたい』
何度もそう思っては、セドリックと交わした最後の言葉を思い出した。
『くれぐれも、ベルナデッドに未来を選ばせろ!!
心に支えがなければ簡単に潰れてしまうんだ。』
ーー……心の支え
(私でベルの心の支えになれるのか?)
そう思って、思い留まった。すでに一度、ベルはセドリックという心の支えを失って記憶をなくすほどまでになっている。もし、女王ということになればその比ではないほどに荒み、最悪命を絶ってしまうかもしれない。
(そうだ。ベルが選ばなければ……ベルが潰れるところなど絶対に見たくはない)
いくら助けたいと思っても、ベルに心から必要とされなければ意味がない。
「弱気になるなど……」
ベルはまるで運命に立ち向かうための武器を手にしたように一心不乱にヴァイオリンを演奏していた。きっと彼女は気づいているのかもしれない。
ヴァイオリンが彼女を助けてくれることを……。
サミュエルと共に真剣にヴァイオリンを演奏するベルの姿を見ていると父に声をかけられた。
「記憶をなくして、全てを失って手にしたのがヴァイオリンか……これはもう運命なのかもしれないね」
私が父の方を見ると父は眩しそうに目を細めていた。
「そうかもしれません」
私が答えると父が真剣な顔をして私の顔をじっと見つめた。
「エリック、ベルナデットが好きなのか?」
「はい」
間髪入れずに答えると父が困った顔をした。
「彼女の背負った運命は過酷だぞ?」
「覚悟しています」
「そうか……ベルナデットが選ぶまで待てるか?」
「はい」
すると父が困ったような顔のまま静かに笑った。
「そうか。私はきっと助けることはできない。ベルナデットは女王陛下のご息女だ。それでもいいかい?」
「わかっております」
「そうか、すまないな、エリック」
父はそう言うとその場を離れた。
ヴァイオリンを弾くベルは美しく気高くとても愛おしい。
(大丈夫だ。もう二度とベルを絶望の淵に落とすようなことはしない)
例えベルナデットが誰を選び、どんな道を選んだとしても……。
例え、笑っている彼女の隣で支えているのが自分でもなくても、それでも。
「ベル……私は君の幸せに全てを捧げよう」
そして、私はその場を離れた。
サミュエルの優しさの中にも譲れない信念を持った所や、あの自分の使命を自覚して突き進もうとする澄み切った瞳はとてもセドリックに似ていた。
私は言いようない不安に潰されそうになりながら2人の練習が終わるのをサロンで待つことにしたのだった。
(誰だ?)
振り向くとセドリックが立っていた。
私はセドリックにぶっきらぼうに尋ねた。
「ベルはどうした?」
セドリックは私に近づくと隣のベンチに座った。
「泣き疲れて寝ちゃった」
「あそこまでベルに求められて、ベルを置いていくのか? 成人するまで父上が通うと言っているじゃないか」
「この前会談に同行して思ったけど、いくら兄上といえど、こちらの職務と兼任できる内容じゃない。信じられないほどやることが多いんだ」
セドリックがおどけた様子で言ったが瞳には熱い炎が宿っていた。
「ベルを悲しませてまで行く必要があるのか?」
私はあんなにもベルに求められながらも彼女を置いていくセドリックに憤りを感じていた。
「エリック。僕はもちろんベルナデットのことは愛しているけど、この事業も同じくらい大切なんだ。我が領が今後発展するためにも民への教育は必要不可欠なんだ。我が国は2つの大国と湖でつながるこの国の玄関口だ。教育なくしては民は大国に利用され、最悪の場合……我が国は滅びてしまうかもしれない。学校設立は国防という意味でも重要なんだ」
エリックは自分の拳を握りしめた。
「じゃあ、私が行く」
「エリックはすでにクリストフ王子殿下の側近として兄さんの職務を手伝っているのだろう? それに私は幼い頃からこの事業について学んできたんだ。何も知らない君が代われるほど単純なものではないよ」
エリックは、セドリックの真剣な瞳につい怯んでしまった。
私が俯いていると、セドリックが優しく声をかけてきた。
「エリックがベルナデットのことを本気で好きなのは知っている」
私は驚いてセドリックを見た。
「クリストフ殿下に夢中になるベルを見ていられなくなるぐらいベルナデットのことが好きなんだろう?」
本当はクリストフ王子殿下にというより、目の前のセドリックに嫉妬していたがそんなことは言えなかった。
「……そんなこと……」
『そんなことない』と言い切ることはできなかった。
でも『好きだ』とも言えなかった。
私の言葉を聞いたセドリックが真剣な顔を向けてきた。
「エリック……そんな中途半端な気持ちなら彼女を絶対に惑わせるな。
彼女に選ばせるんだ。
彼女の背負った運命はきっとお前が想像する以上に過酷だ。
もし、暗殺を逃れて王女になったとしても、全く地盤のないところからのスタートだ。
彼女が心から愛して、信頼できる相手がそばにいないと、彼女は潰れてしまう。
エリックはまだ信じられないと思うが、愛という原動力は人が生きていく上で存外バカにできないものなんだよ。
ブリジット様はトリスタン兄上と共にいるからこそ、あのように健勝でいられるんだ。」
私は拳を握った。
「わかっている」
セドリックが隣で、息を吐いた。
「なぁ、エリック。私はいっそのことベルはクリストフ殿下の伴侶になってこの国の王妃になるのが彼女の幸せなのではないかと思っている」
「え?」
意外な言葉に私はセドリックを見つめた。
この婚約はベルを守るためのものだ。
ベルは将来隣国の女王になる存在だ。
だから……。
ーー……クリストフ殿下のものにはならない。
それだけが、私の生きる支えだった。
「この前、学園の打合せに隣国に行き、ブリジット様とトリスタン兄上とお話した時、お2人もクリストフ殿下の妃になるのがいいかもしれないとおっしゃっていた」
「そんな……」
目の前が真っ暗になった。
ベルとクリストフ殿下が結婚されないということが唯一の希望だった。
「くれぐれも、ベルナデッドに未来を選ばせろ!!
いいか、ブリジット様を見ると痛感するが、国のトップになるのは並大抵のことじゃない。心に支えがなければ簡単に潰れてしまうんだ。
お前がベルナデットのことを想うには勝手だ。止めもしない。だが、このことは忘れるな」
ーー……心に支えがなければ簡単に潰れてしまう。
「わかって……いる」
私は呟くように言った。
するとセドリックがベンチから立ち上がると、私を見た。
「ああ、そうだ。私はもし、彼女が学園を卒業した時にまだ私が必要だと言ってくれるのなら、彼女を王配として支える覚悟がある」
「な、何を言って……」
私は驚き過ぎて目を見開いた。
ベルが愛しているのは間違いなくセドリックだ。
そのセドリックが『王配』になると言っている。
再び絶望が私を襲った。
「ではな。エリック……ベルナデットを頼む」
「ああ」
それからセドリックはすぐに領地に向かった。
そしてセドリックが居なくなり心の支えを失ったベルは荒れに荒れた。
クリストフ殿下に執拗に執着したり、我儘を言って気を引こうとしたり、これまでの彼女ではありえないような我儘な行動をとるようになった。
その時私は皮肉にもセドリックの言葉の意味を実感したのだ。
『彼女が心から愛して、信頼できる相手がそばにいないと、彼女は潰れてしまう。
エリックはまだ信じられないと思うが、愛という原動力は人が生きていく上で存外バカにできないものなんだよ』
セドリックはずっと孤独な彼女の心の支えだったのだ。
私が支えになりたいと思いベルに歩み寄ろうとした時にはすでに彼女には手の施しようがないほどになっていた。
どうしようもなくなり、困ったクリストフ殿下に頼まれたこともあり、ベルを屋敷に閉じ込めることになった。
『ベルのそばで彼女を支える』
そう思った矢先に……。
ーー……ベルは階段から落ちて記憶をなくした。
あれは、事故だったのか、それとも意図的だったのか。
ベルが記憶をなくしてしまった今となってはもう確かめるこはできないが、私はもう絶対に彼女から目を逸らさないと決めた。
+++++
記憶をなくしたベルは可愛いの一言だった。
以前のように誰かの気を引くために無茶なことをしたり、酷い我儘を一切言わなくなった。
そして、素直に私に甘えてくれるようになった。
私の顔を見れば笑い、可愛い声で私を呼んでくれた。
しかも、あれほど執着していたクリストフ殿下にも全く興味を示さず、まさかのヴァイオリンに夢中になった。
毎日毎日、ベルを過ごす度に『好きだ』『愛している』という思いが募っていった。
『いっそのことこの想いを告げてしまいたい』
何度もそう思っては、セドリックと交わした最後の言葉を思い出した。
『くれぐれも、ベルナデッドに未来を選ばせろ!!
心に支えがなければ簡単に潰れてしまうんだ。』
ーー……心の支え
(私でベルの心の支えになれるのか?)
そう思って、思い留まった。すでに一度、ベルはセドリックという心の支えを失って記憶をなくすほどまでになっている。もし、女王ということになればその比ではないほどに荒み、最悪命を絶ってしまうかもしれない。
(そうだ。ベルが選ばなければ……ベルが潰れるところなど絶対に見たくはない)
いくら助けたいと思っても、ベルに心から必要とされなければ意味がない。
「弱気になるなど……」
ベルはまるで運命に立ち向かうための武器を手にしたように一心不乱にヴァイオリンを演奏していた。きっと彼女は気づいているのかもしれない。
ヴァイオリンが彼女を助けてくれることを……。
サミュエルと共に真剣にヴァイオリンを演奏するベルの姿を見ていると父に声をかけられた。
「記憶をなくして、全てを失って手にしたのがヴァイオリンか……これはもう運命なのかもしれないね」
私が父の方を見ると父は眩しそうに目を細めていた。
「そうかもしれません」
私が答えると父が真剣な顔をして私の顔をじっと見つめた。
「エリック、ベルナデットが好きなのか?」
「はい」
間髪入れずに答えると父が困った顔をした。
「彼女の背負った運命は過酷だぞ?」
「覚悟しています」
「そうか……ベルナデットが選ぶまで待てるか?」
「はい」
すると父が困ったような顔のまま静かに笑った。
「そうか。私はきっと助けることはできない。ベルナデットは女王陛下のご息女だ。それでもいいかい?」
「わかっております」
「そうか、すまないな、エリック」
父はそう言うとその場を離れた。
ヴァイオリンを弾くベルは美しく気高くとても愛おしい。
(大丈夫だ。もう二度とベルを絶望の淵に落とすようなことはしない)
例えベルナデットが誰を選び、どんな道を選んだとしても……。
例え、笑っている彼女の隣で支えているのが自分でもなくても、それでも。
「ベル……私は君の幸せに全てを捧げよう」
そして、私はその場を離れた。
サミュエルの優しさの中にも譲れない信念を持った所や、あの自分の使命を自覚して突き進もうとする澄み切った瞳はとてもセドリックに似ていた。
私は言いようない不安に潰されそうになりながら2人の練習が終わるのをサロンで待つことにしたのだった。
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