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【エリック】(真相ルート)

7 エリックside1

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 私が幼い頃、我が家で新しい命が誕生した。
 母親や、現王妃様が数日間付きっきりでお産に立ち会い、かなり厳戒体勢だったらしいがまだ幼かった私はその時の様子はほとんど覚えていない。
 
+++++

ーー……エリック2歳。ベルナデット0歳。


「わぁ~、可愛いね~」

 エリックが手を出すとまだ赤ちゃんのベルナデットに指を握られエリックは嬉しそうな笑顔を見せた。

「仲良くしてあげてるのよ? エリック」

 エリックは母親に言われ満面の笑みで答えた。

「うん!!」

 するとベルナデッドの母親であるブリジット王女(その頃はまだ王女だった)がエリックの頭を撫でながら言った。

「ふふふ。ありがとう!! この子が大きくなるまで、私の代わりにこの子を守ってくれる?」

「うん!! 僕、この子を守るよ」

 すると隣でセドリックも叫んでいた。

「僕だって守るよ!!」

「頼もしいナイトだわ。どうか、この子をお願いね」

 ブリジット王女が笑いながら涙を流すのを、エリックの母も涙を流しながら見ていたのだった。

 それからベルが1歳になるとベルナデットの母親は国へ帰ることになった。


+++++

エリック4歳。ベルナデット2歳。


「ベル~こっちだよ、おいで~」

「えーく」

 ベルが少し大きくなると、私はベルに夢中になった。
 たどたどしく自分の名前を呼ぶベルが可愛くてたまらなかった。

(ベルのためだったらなんでもしてあげよう)

 私はベルが幸せになるためならどんなことでもしようと思えた。
 だが、ベルに夢中になり、『ベルのためならんでもする』と誓っていたのは私だけではなかった。

「ベルナデット~こっちだよ~」

「ちぇ~ど」

 私とセドリックが同時にベルを呼ぶと、ベルは必ずセドリックの方を選んだ。

「ちぇ~ど、だいちゅき」

「僕もベルナデットが大好きだよ」

 ベルが懐くのはいつもセドリックだった。
 
(セドリックの方がいいのか……)

 私が落ち込んでいると、ベルが声を上げた。

「え~く、えんえんなの?」

 ベルの方を見るとベルが悲しそうな顔をしていた。

「大丈夫。泣いてないよ。ありがとう」

 ベルに向かって微笑むとベルも嬉しそうに笑った。
 その時の私はそれで充分だった。


+++++

エリック5歳。ベルナデット3歳。
その穏やかな日常に終わりを告げたのは、私が5歳になった頃だった。
私が5歳になるとすぐに元々身体の弱かった母が酷い風邪にかかり、肺炎となりそのまま亡くなった。
 
母のお葬式も済んで、私とセドリックは勉強をしながら2人で話をしていた。

「あ~~。形だけとはいえ、やっぱりベルナデットが他の人の婚約者になるのは切ないものだな……」

「え? 婚約? ベルはまだ3歳だぞ? 早いだろ?」

 私は顔をしかめるとセドリックを見た。

「なんでも、婚約者という形を取って、イリュジオン王家でベルを守るって話だ」

「守るって、どうして?」

 私は話の意図がわからずに眉を寄せた。

「暗殺って知ってるか?」

「知ってるけど……」

「今、隣国のレアリテ国は王位継承問題で揉めてる。
 だからベルナデットを表向きには、将来はこの国の王子の妃にするから、女王の座には付かないと思わせるんだそうだ」

「でも、それじゃあ……ベルが王妃にならなかった時はどうするんだ? 我が国と争いなどということにはならないのか?」

 私はつい最悪の状況を想像して、その渦中にいるのが私の最愛の相手だと思うと居ても立っても居られない気持ちになった。
 するとセドリックが目を細めて落ち着いた様子で言った。

「レアリテ国王女の娘をこの国の王族に迎えるというだけで、イリュジオン王家には対外的に充分な利がある。例え婚約が成立しなくても数年そう思わせて外交を行えるだけでもいいという判断なのだろうなぁ~。ベルとまだ幼い王子には気の毒だがな……」

 この時の私はベルが隣国の王女様の娘であることは知っていた。
 だが、このことは絶対に他の誰にも、もちろんベルにも言ってはいけないときつく言われていた。

「いつまで?」

 いつまで私はベルの婚約に耐えればいいのだろうか?
 そう思うとこんな質問なんて意味がないとはわかってはいたが聞かずにはいられなかった。

「さぁ? 解決するまで」

 私の頭に、先日側近候補としてお会いした幼い王子の姿が浮かんだ。
 彼はまだ幼いが聡明で、見目も麗しい。ベルが彼を好きになる可能性は十分にあった。
 しかも相手は婚約者だ。恋心を持っても誰も止めるものはいない。

「じゃあ、ベルが王子の妃になりたいって言ったらどうするんだ?」

 その問いかけにセドリックが視線を落ちしながら言った。

「その時はそれを受け入れるって言ってた」

「……」

 可愛いベルを誰かの婚約者になどしたくはなかった。だが、暗殺なんて絶対にイヤだ。
 私は複雑な思いでセドリックの話を聞いていた。


ーー……その日私は初めて『絶望』という感情を知った。




+++++


 それからすぐに、クリストフ王子とベルの顔合わせが行われた。
 心配した通り、ベルはすぐにクリストフ殿下を気に入り、かなりの熱の入れようだった。
 王子もそんなベルが可愛かったようで、ベルを溺愛していた。

(……くっ!!)

 自分以外を好きだというベルを見ていられなくて、私は自然とベルと話さなくなっていった。
 だが、セドリックは相変わらずベルと仲良く過ごしているようだった。
 それが益々面白くなかった。



+++++



エリック8歳 ベルナデット6歳

 それからさらに2年の月日が流れた。
 ベルは益々クリストフ殿下に好意を寄せるようになっていた。
 だが、それはあくまで親愛という意味で彼女の心にはいつも別の誰かがいた。

「セドリック~~!!」

 ベルはお城から戻るとすぐにセドリックの元に急いだ。

「ふふふ。おかえりなさい。今日はクリス様と何をしたの?」

 セドリックも笑顔で彼女を迎えた。

「今日はバラの名前を教えてもらったの~~。ねぇセドリック。私、今度のお誕生日に赤いバラを3本欲しいんだけど……」

 私は2人の会話を聞きながら、なぜそんなものを欲しがるのかがわからず疑問に思っていた。
 だがセドリックは困った顔をして、ベルに笑いかけた。

「ベルナデット。学園を卒業した時にもう一度お願いしてくれないかな? その時にベルナデットが望んでくれるなら赤いバラを贈るよ。その時は3本と言わずに108本のバラをね♪」

「108本……え、本当に?! 約束よ?」

 ベルは顔を真っ赤にするととても嬉しそうな顔でセドリックに抱きついた。

「うん。約束」

 セドリックは優しくベルの頭を撫でていた。


ーー……その時の私はこの会話の意味がわからなかったが、数年後に知ることになる。


+++++

 
 そんなある日。
 我が公爵領に学校を作る話が本格的に動き出すことになった。何年も準備している大がかりな事業だ。これはベルの父親のトリスタン様と父の願いでもあった。

 そこで、セドリックがこの件を引き受けることになった。セドリックはまだ幼かったが非常に聡明で、自身も新しくできた学校に通いながら学校を軌道に乗せたいと言い出したのだ。

 父も私もそんなセドリックを誇らしく思い全面的に支援することになった。
  

  だが、ベルだけはセドリックが領地に戻ることを反対したのだった。

「イヤ!! 行かないで!! セドリック!!」

「わかってくれ。それにベルナデットには、エリックやクリストフ殿下がいるだろう?」

 するとベルがセドリックに抱きつき泣きながら言った。

「そんなこと……私を愛してくれているのはセドリックだけだよ!!」

 私はまるで何かに頭を殴られているような衝撃を受けた。
 私だって、ずっとベルを愛していた。
 それがちっとも伝わっていなかったのだ。

「くっ!!」

 つらくなった私はその場を離れてローズガーデンで1人佇んでいた。
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