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【クリストフ】(王妃ルート)

17 演奏披露

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それから、私は毎日のようにその曲を弾き込んだ。

ヴァイオリンに限らず、楽器というのは本当に不思議だ。
紙に書かれた記号通りに楽器を弾くと、音楽が生まれるのだ。

楽譜通りに演奏するだけで、見たことも話をしたこともない人物の考えた音楽が再現できる。
しかも楽譜さえあれば、時空さえも超えその曲を聞くことができるのだ。

こんなにも素晴らしい音楽が自分の手から生み出される感動は、何度味わっても飽きることはない。
この曲も奏でれば奏でるほど、愛しさが増し、弾いてる演者を幸福に誘う。



ーーこれほど奇跡のような体験があるのだろうか?



もしかして私がこの世界に来て出会った一番の奇跡は・・・。
こんなにもヴァイオリンという楽器を愛せたことなのかもしれない。

心からそう思った。






何度も3人で音を合わせ、ようやく曲が完成したと思えた頃。
劇場の建設発表の夜会の日が来た。

私が念入りにドレスアップを終え、最後の調整をしていると、クリス様が迎えに来てくれた。


「本当に綺麗になりましたね。ベル」

クリス様が昔を懐かしむように目を細めた。

「どうされたのですか?突然」

するとクリス様が私の手をとって、私のおでこにキスをした。

「いえ。ベルと最初に出会った頃を思い出していました。
あの時から変わらず、私の隣に立っていてくれるあなたが愛しくてたまりません」

私もクリス様の正面を向いて微笑んだ。

「私もです。クリス様のお傍にいられて嬉しいです」
「では、行きましょうか」
「はい!!」

私はクリス様の手を取って、王宮内の会場に向かった。






会場には多くの貴族が集まっていた。
私も夜会にはよく出席するようになったが、やはり国王陛下主催といのは規模が違っていた。
どの貴族も正装での出席だった。ドレスも格式高い色と生地のドレスばかりだ。
男女が交流することを目的とした夜会とは全く空気が違った。



そんな厳かの雰囲気で私たち出席していた貴族は、クリス様のお父上でもある国王陛下からの訓辞を賜った。
その後、国王陛下が、高らかに宣言された。

「此度の事業で民に希望が生まれることを願っている!!
我が王国に幸あれ!!」

「「「「「「王国に幸あれ!!!」」」」」」」

国王陛下の号令で、等々、劇場の建設が宣言された。





そしてその後、私たちは舞台に向かった。





いつからだろうか。



ステージに向かう時はとても心が凪いでいた。
すでに出来ることは全て尽くした後なので、今更どうしようもないというのもあるのだろう。



ーー目の前の人に、曲を届ける


ただそれだけを思っていた。

ステージに立つとそこはまるで亜空間のように感じた。
観客の視線。息遣い。全てを感じるように思えた。


そして私たちの演奏が始まった。



耳から聞こえてくるクリス様のピアノは甘く囁くようで。
ルーカス様のフルートは切々と愛を歌い上げる。

そして私はすべての想いをヴァイオリンに込めた。

・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。


私たちは最後の一音を弾くとスッと楽器を降ろした。



ーー・・・・・・。



一瞬の静寂。


そして次の瞬間。


割れんばかりの拍手の波と、歓声。



ずっと凪いでいた心が興奮と高揚感に入れ替わる。
私は、クリス様とルーカス様を見た。

2人も私を見て美しく笑ってくれた。
その顔を見た瞬間。

次に訪れるのは、演奏を終えたことの安堵と達成感。



ここで私はしみじみと思った。

(やっぱり、私ヴァイオリンを演奏するのが好きだわ)

その後の夜会では、クリス様と私とルーカス様は貴族の方とのあいさつなどで、息をつく暇もなかった。







夜会が終わった後、私たち3人は会場の王族専用の控えの間と向かった。


「お2人共、本当に素敵でしたわ!!」

私は控えの間に入った途端、クリス様とルーカス様に向かって言った言葉は自分が思う以上に大きな声で自分でも驚いてしまった。

「ベルナデット様のヴァイオリンは本当に素晴らしい!!
私は何度も幸福感を味わいました」

ルーカス様が珍しく興奮したように言った。

「ああ。ベルのヴァイオリンは本当に美しい」

クリス様も思い出すように目を細めた後、困ったように笑った。

「皆も満足していたようだった。
私は多くの貴族にまたベルの演奏の機会を作ってほしいと頼まれたよ。
(今なら、あの時真剣に怒っていたルーカスの気持ちがわかるな・・)」
「クリス様・・・」

私がクリス様を見ていると、クリス様が優しく微笑んでくれた。

「今後は陛下とも話をして、ベルに演奏してもらう機会も増やそうと思っている」
「それは素晴らしい!!!」

声を上げたのは、私ではなくルーカス様でした。

「それは私たちの至福です。今後もあなたの演奏が聴けるだなんて!!」

私は恥ずかしくて、有難くて居たたまれない思いだった。
ふと、私は気になっていたことを聞いてみた。

「ルーカス様。この曲を作曲された方をよろしければ教えて頂けますでしょうか?」

するとクリス様もルーカス様を見た。

「ああ。そうだな。作者不明と書いてあるが知っているのだろう?
私も知りたいと思っていた。
高潔で、美しく、それでいてあどけない。
この曲はまるで、ベルのようだ」
「え?」

私は思わずクリス様を見た。
ルーカス様が困ったように笑った。

「ええ。知っています。なんと言ってもご本人にこの曲を頂きましたので」

そして、ルーカス様は姿勢を正すと、私を真っすぐに見つめた。

「この曲は、隣国の女王陛下が作曲された曲です。
実はこの曲には副題があります。『娘の幸せを願い』です」

私はまじまじと楽譜を見た。

「娘さんの幸せを願っていたからこそ、これほど愛に溢れた曲になったのですね。
本当に素晴らしい曲ですわ。
私まで幸せになれましたもの」

するとルーカス様が驚いた後、破顔した。
これほどの彼の笑顔を見たのは初めてだった。

「それは・・・きっと曲を作られた王女様もお喜びになられると思います」

そして私たちは3人でグラスを合わせた。

その日のことを私は生涯忘れられないだろうと思えた。





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クリス編、次週最終話です。




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