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【クリストフ】(王妃ルート)

15 城下デート

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もうすぐ城門というところで、窓の外を見ると、空が綺麗なオレンジ色に輝いていた。

「綺麗・・」

窓の外を見ながら呟くと、クリス様の優し気な声が聞こえた。

「ああ、本当に綺麗だ」

ふとクリス様を見ると、クリス様と目が合った。

(ずっと私を見ていた?)

なんとなくくすぐったくて私は視線を窓の外に向けた。
相変わらず綺麗なオレンジ色だった。
また視線をクリス様に移すと、また目が合って微笑まれた。

(また目が合った!!)

私がまた視線を逸らすとクリス様が「くすくす」と笑った。
そして、穏やかな顔をして言った。

「ベル・・散策はまた今度にして、今日は少し私に付き合ってもらえないか?」
「はい」

私は、頷くと今度こそ滅多にのんびりと見れない窓の外の夕日を堪能した。





しばらくすると馬車が停まった。

「ベル。手を」
「はい」

私はクリス様と共に馬車を降りた。

(あ!!ここは!!)

ここはいつか兄と一緒に来た宝石店だった。

「ここです。どうぞ」
「はい」

私は手をひかれるまま、中に入った。

「お待ちしておりました。殿下」

中に入るとこの店の責任者と思われる方があいさつをしてくれた。

「ああ、よろしく頼む」

お店と方との話が終わるとクリス様がにっこりと笑った。

「じゃあ、ベル。結婚指輪を選ぼうか?
さぁ、ベル。どれがいい?ベルが好きなのを選ぼう!」

「え?」

私はあまりに意外な提案に驚いてしまった。
なぜなら王族の結婚指輪のデザインは事細かく決まっていて、自由にできるところなど指輪のサイズくらいだ。

「そ、そんなことが許されるのですか?」

するとクリス様が困ったように笑った。フ

「これから選ぶのはね、王族としての結婚指輪ではなく、クリストフとベルナデットとしての結婚指輪なんだ」
「クリス様と私の個人的な結婚指輪?」
「うん、そう。どうかな?」

私は思わず、クリス様に抱きついていた。

「わっ!!」

クリス様はまさか私に抱きつかれるとは思わなかったのか、驚いていたが、ぎゅっと抱きしめ返してくれた。

「嬉しいです。選びたいです!!結婚指輪!!」
「うん、選ぼう。2人で!!」

それから私たちは結婚指輪を選んだ。

(ん~~クリス様の瞳の色もいいけど・・・お揃いも捨てがたいし・・・。
派手なものはクリス様の公務の邪魔になるだろうし・・)

悩んでいるとクリス様が「くすくす」と笑った。

「何を悩んでいるの?ちゃんと教えてベル。
2人で考えよう?」

穏やかな顔で笑うクリス様を見て私は思わずクリス様の腕に腕を絡めた。

「え?!ベル?!突然どうしたの?!」

クリス様が驚いていたが私は話を始めた。

「クリス様と私のそれぞれの瞳の色にするのもいいのですが・・。
クリス様とお揃いにするのも捨てがたいです。
派手な物はご公務の邪魔になるでしょうからシンプルなものにしたいです」

私は思っていたことをそのまま伝えた。

「なるほど・・確かにお揃いもいいな~。
でもこのピアスとお揃いにして、ベルとはそれぞれの瞳の色で、色違いのデザインが同じというのもいいよね」

私はクリス様と腕を組んだままクリス様を見上げた。

「色違いのデザインが同じ?!それは素敵です!!」
「ふふふ。じゃあ、そうしようか?」
「はい!!では私もこのネックレスと合う物にします」

私はクリス様にもらったネックレスを手に持った。

「ふふふ。うん」

こうして、私たちだけの結婚指輪を作ることになったのだった。






指輪の注文が終わるとすっかり日が暮れていた。

「ベル。食事に行こう。こっちだよ」
「はい」

私はクリス様の案内で町の少し外れの小高い丘にある洋館のような所に着いた。

「わ~~!!」

そこからは、街の明かりだけではなく城の明かりも見えた。
いつも生活している場所だが、遠くから見るとまた印象が違ってとても綺麗だった。

(お城って眺めるのもいいのね・・・しかも夜景が綺麗だわ・・。
あら?夜景?)

私は、はっとしてクリス様を見た。

「もしかして、この時間になるようにして下さったのですか?」
「ふふふ。さぁ?ベル乾杯しようか」

私はグラスを軽く持ち上げて乾杯をした。

「ふふふ。やっぱりクリス様は素敵ですね。
クリス様はいつも冷静でカッコよくて、相手が私でいいのか不安になります」

私はこの雰囲気に飲まれ、つい本音を口に出してしまった。
するとクリス様が困ったように笑って目を細めた。
夜景とクリス様のそのせつなそうな笑顔はまるで現実感がなくて、私はふわふわした気持ちだった。

「必死だよ。私の方が君に飽きられないか、いつも必死だ。
君は私以外を選べる。
ただ幼い頃からの婚約者という立場だったからこそ、私は君と一緒に居られるんだ。
・・ずるいのはわかっているんだ。
それでも、それに縋ってても君と一緒にいたい」

私は夜景を見ながら呟くように言った。

「どうしたら不安じゃなくなるのでしょうか?」
「え?」

私の言葉にクリス様が顔を上げた。

「どんなに思っていても、愛しても伝えきれずに不安はやってきます。
きっと言葉をかわしても口付けを重ねても伝わらない・・。
どうしたらいいのでしょうね」

クリス様も夜景を見ながら言った。

「ベルもそんな風に思っているのか?」
「はい」
「・・・・私も・・・だ・・」

夜景をぼんやりと眺めているとクリス様が口を開いた。

「きっと近道はないのだろうな。
毎日、おはようと笑い、おやすみと慈しみながら伝えて行くしかないのだろうな」

私はそれを聞いて思わず笑ってしまった。

「ふふふ。それ毎日していますね」
「ああ。毎日しているな」
「では、こんな毎日を続ければいいのでしょうか?」
「ああ、そしてたまに今日のように惚れ直せばいいのでないか?」

クリス様がいたずらっ子のような笑顔を見せた。

「やっぱりクリス様は素敵です」
「ははは。ベルも可愛い・・可愛い過ぎて・・」

するとクリス様が小声で呟いた。

「(そろそろ我慢するのがつらくなってきたから早く結婚して、同じ部屋にしたい!!)」
「どうされました?」
「なんでもない!!」

そうして私はクリス様と夜の城下を楽しんだのだった。




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