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【サミュエル】(学院発展ルート)
9 旅のしおり~アトルワ公爵領にて~
しおりを挟む今日はいよいよ隣国に行く日が来た。
隣国に行くには、我がアトルワ公爵領の首都から出ている蒸気船に乗って移動する必要がある。
つまり私たちが最初に向かう場所はお兄様のいるアトルワ公爵領邸なのだ。
私たちはまず、公爵領の首都で一泊する。
それから蒸気船に乗って丸一日。
そこから馬車に乗って半日。
そうしてようやく隣国レアリテ国の首都に到着するのだ。
「お父様、行って参ります!!」
「ベルナデット!!気を付けてな」
私たちはお父様に見送られて公爵家を後にした。
馬車の中でも曲の話をしていると、サミュエル先生がふと呟いた。
「そういえば、首都にはエリックがいるのでしたよね?」
「はい。
歓迎するとの連絡を頂いたので、きっと喜んで迎えて下さると思います」
笑顔で答えると、サミュエル先生が顔を赤くして困ったように言った。
「あの・・今更ですが・・・。
今回、馬車も船も、その・・。
私と2人ですが・・・。
ベルナデット様はその・・不安ではありませんでしょうか?」
「え?ええ。もちろんです。
先生と2人で演奏旅行が出来て嬉しいです」
まさかサミュエル先生がそんなことを考えているとは思わずに私は驚いてしまった。
だが私に気を遣ってくれている先生に安心してもらうために、私は明るく言った。
「(ベルナデット様はいつもと変わらない。私は彼女に男として見られていないのか・・・)」
するとサミュエル先生が少し落ち込んだように笑った。
「そうですか・・それはよかったです」
それからまた2人で曲について話をしているうちにアトルワ公爵領にある公爵邸に到着した。
ここの屋敷もかなり大きなお屋敷だった。
(ここも大きいわ~)
公爵邸に着くと、お兄様の姿はなく、変わりに若い男性が出向かえてくれた。
「いらっしゃい!! 長旅ご苦労様。
ベル~~!!噂通り、かっわいくなったな~~」
そして、いきなり抱きつかれた。
(何?何?なんなの???)
「セドリック殿。
ベルナデット様が、驚いていますよ・・」
「ああ。そうかごめん!つい!可愛くて」
サミュエル先生が私と男性の間に入ってくれた。
私がびくびくとながら「どちら様でしょうか?」と尋ねると、男性が困った顔をした。
「(記憶なくしたっていうのは本当だったんだ……)もしかして、兄さんたちから聞いてないのかな?」
「兄さん?」
私が首を傾げると、男性がにっこりと笑った。
「私の名前は、セドリック。
君のお父さんたちの弟だよ」
「お父様たちの弟?!そんな!!無知で申し訳ございません!!」
するとセドリック様が困ったように笑った。
「はは、本当にあの人たちは・・・。
兄さんは中央の仕事が忙しいし、もう一人は向こうの国を離れられないだろ?
だから私がこの領を任されてるんだ」
私の父たちの弟いうことは私の叔父ということになるのだろうか?
だが年齢が離れているせいなのか、髪の色が2人と違うせいなのかあまり父たちを似ているとは思わなかった。
(お父様の弟なのにお若いのね・・・。
どうみても20代・・いえ、10代にも見えるわ。
兄より年下・・ではないわよね?
でも兄の方が上に見えるわ・・・)
私の視線を感じたのかセドリック様が「ふふふ」と笑った。
「ちなみに私は兄さんたちとは母親が違うよ。
年もかなり離れてる。
私は今年22歳だよ。
他に聞きたいことは?」
私は驚いてサミュエル先生を見た。
「え?ではサミュエル先生と同じなのですか?」
するとサミュエル先生が優しく微笑んでくれた。
「そうだね。セドリック殿には、学園を作る際にかなりお世話になったんだ。
その節はありがとうございました。」
「いい学園になってよかったね!!
私も卒業演奏会行きたかったな~~」
サミュエル先生とセドリック様は仲がいいようで楽しそうに話をしていた。
「ところでセドリック様、お兄様はどこですの?」
するとセドリック様が困ったように笑った。
「エリックは数日前からお使いに行ってもらってるんだ。
だから、今回は間に合わなそうだから知らせなかった。
あいつにうっかり『ベルナデットが来るよ~』なんて言おうものなら、不眠不休で馬を飛ばして帰ってきそうだし。
付き合わされる部下が可愛そうだしね~~」
(確かに・・・)
「確かに・・・」
私の心の声とサミュエル先生の声が完全に一致した。
「だろ?だから、私だけだけどごめんね~。
歓迎するからね~~」
セドリック様はお父様たちとは、また違ったタイプの方だった。
「「ありがとうございます」」
思いがけず、私とサミュエル先生の声が重なった。
「っぷ。仲いいな~。部屋に案内させるよ~」
セドリック様は笑うと、私たちを見て首を傾げた。
「あれ?部屋2つ用意したんだけど・・・。
もしかしてベットの大きい部屋1つ用意した方がよかったのかな?」
私たちはその瞬間、顔真っ赤になった。
「そ、そんなことと、とんでもない!!」
「そうです!!セドリック様!!そんな・・」
私とサミュエル先生はあたふたしながら、なにを言っているのかわからない言葉を発していた。
「はは。冗談だよ~。
もし私のせいで一線超えてしまったら、エリックがすっごく怒りそうだしね~。
エリック怖いからさ~。
もっと愛想よくすれば大切な物を取られなかったかもしれないのにね?
ふふふ。」
セドリック様が私に意味深な視線を私に向けた。
(???)
私がセドリック様の視線に困惑しているとセドリック様が美しく笑った。
「ふふふ。可愛いな~。
なんでもないよ。
今日はとことん私に甘えてね、ベル!!」
「・・はい」
それから私たちはセドリック様に多大な歓迎を受けて眠りについたのだった。
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