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【クリストフ】(王妃ルート)
12 湖畔デート(前編)
しおりを挟む「クリス様・・」
「なに?ベル?」
「随分と変わりましたね・・。」
「ああ・・。そうだな・・。随分と変わったな・・。」
私とクリス様は以前、2人でボートに乗った湖に来ていた。
以前は、ボート小屋とボート乗り場。
そして、貴族の別荘が一棟あっただけだった。
私たちはその別荘のテラスで食事を取ったのだ。
ところが!!!
湖の周りには大きなホテルのような宿泊施設が立ち、数棟の別荘まであった。
庶民が気軽に食事ができる食事処があったり、雑貨屋のような商業施設も誕生していた。
「へぇ~。そういえば、この辺りはガラス細工が盛んだったね。
こんなに種類があるのか」
クリス様が表からガラス細工のお店を眺めていた。
「後で立ち寄ってもよろしいでしょうか?」
「うん。もちろん!私も見たいしね」
「ありがとうございます」
クリス様が優しく微笑んでくれた。
私は今、クリス様と腕を組んでいる状態なので、クリス様と距離が近い。
いつも室内で見ていた時と、違って、明るい日の光の中で見るクリス様は文字通りキラキラと輝いて見えた。
(クリス様!!カッコ良すぎる!!
こんな素敵な人と腕を組んでデートだなんて!!
もう一生分の男運を使い果たしたはず!!)
ボート乗り場まで歩いてくると、私たちはまた驚いてしまった。
「凄い!!」
「本当に凄いな~」
ボート乗り場は以前の小屋のような外観ではなく、まるで貴族の邸宅にエントランスような豪華な作りになっていた。
中にはいると、『ゴンドラ』『手漕ぎボート大人用』『手漕ぎボート子供用』と分かれていた。
私はクリス様を見上げた。
「クリス様、どうすればいいのでしょうか?」
「以前はこれほどはなかったな…」
私たちが話をしていると向こうから執事のような恰好をした男性が現れた。
「これは、クリス様!!お待ちしておりました。
お久しぶりです。
すっかり立派になられましたな~」
するとクリス様が嬉しそうな顔をした。
「トムなのか?!見違えたな…」
「はい。クリス様たちのおかげです」
「私たちの?」
私とクリスはお互いの顔を見合わせた。
トムさんは嬉しそうに話をしてくれた。
「はい。殿下とお嬢様のために作ったボートにぜひ乗りたいと、貴族の御子息様やご令嬢様が多くいらっしゃるようになりました。
するとそれを見た領主様が『折角だ!ここを収益をあげられるような魅力的な土地にしよう』とおっしゃって、この湖の周りに様々な施設をお作りになりました。
ここは王都からも近いので、貴族の方だけではなく、我々のような庶民や学生さんもよくデートに来ていますよ。
おかげで我々の暮らし向きは大変よくなりました。
ありがとうございました。クリス様」
クリス様が驚いた後、本当に嬉しそうに笑った。
「そうか。トムのためになったというなら、私も嬉しい」
トムさんも嬉しそうに笑った。
「はい。殿下、子供用ボートご覧になりますか?お懐かしいでしょ?
他にもご希望があればご案内致しますよ?」
「ああ、そうだな。頼む」
「ではご案内致します」
私たちはトムさんの案内で、まずは子供用のボート乗り場へ向かった。
「凄い!!あのボートが増えてる!!
他にも色んな形があるわ!!」
私は思わず声を上げた。
目の前には色とりどりに彩られたボートが並んでいた。
しかも、そのすべてがあの時私たちが乗った転覆防止のついたボートだった。
それに湖には策のような物が設けれれており、あまり遠くに行けないようになっていた。
「あの時のボートがこんなに役にたつとは!!」
クリス様もこの光景にかなり驚いていた。
「はい。殿下のお嬢様の愛のおかげです。
あの時、『どうしてもベルと2人でボートに乗りたいんだ』と殿下がおっしゃっらなければ、このボートはこの世にありませんでした」
「え??」
私は思わずクリス様を見上げた。
クリス様は真っ赤な顔で、目を泳がせた後、困ったように頭を掻いた。
「あの頃の私は、ベルの気を引くために必死だったからな…。
その、あの時は私の我儘で、トムには迷惑をかけた……」
「いえ、実は以前からひっくり返らないボートを作りたいとは思っておりました。
ですが、我々には実行に移す情熱が足りませんでした。
クリス様の情熱に引っ張られる形で我々も動けたのです。
クリス様のお嬢様への愛は我々の救世主です!!」
クリス様は真っ赤な顔をさらに赤くして居たたまれない様子だった。
「あ、いや。あ、そうだ!!
ゴンドラとはなんだ?」
クリス様は苦し紛れに会話の流れを変えた。
「ご案内致します。ご覧下さい」
私たちは『ゴンドラ』を見に行くことにした。
(これは、ヴェネツィアとかにあるヤツだわ~~~!!
長崎の某テーマパークや、千葉の某テーマパークで体験できるアレね!!
私は乗ったことないけど~~~!!)
私が興味深そうに眺めていると、クリス様が嬉しそうに目を細めた。
「乗りたいの?」
「え?いいのですか?」
「うん」
私の答えを聞いたクリス様がトムさんに尋ねた。
「これ乗れる?」
「もちろんです!!早速出しましょう」
「え?ですが、これは大勢で乗るのではないですか?」
するとトムさんが笑った。
「ははは。いえ、本来ならボートを漕ぐのが難しい、ご婦人の方々やお子様のために領主様がご用意したのですが、2人でのんびりと過ごしたいという恋仲の方々にも人気ですよ。
私たちが漕ぎますので、お2人寄り添って船を堪能できますから」
トムさんの言葉を聞いたクリス様が妖艶な笑みを浮かべた。
「寄り添って船に乗れるんだって。どうする?」
(クリス様のボートを漕ぐ姿は本当にカッコいいから見たい!!
でもボートを漕いだらクリス様、疲れるだろうしな~。
ゴンドラもな~。
いつも乗りたいとは思ってたけど、結局ゴンドラに乗ってる人を岸から眺めてただけだから1度は乗ってみたい…けど、私たちだけのためにトムさんのお手を煩わせるのもな~。
でもクリス様は王族。他の人と一緒ってわけにはいかないだろうし~。)
私が「ん~」と考え込んでいるとクリス様が困った顔で笑った。
「ふふふ。ベル…また俺に迷惑とか、トムに迷惑とか考えてるんだろ?」
「え?!」
(なんでわかったの?クリス様って心読めるの????)
私が驚いて顔を上げると、クリス様が笑った。
「読めるよ。言っただろ?」
「え、でも読めるのは顔色だって…」
「ふふ、今のベルの考えなら読める」
「……」
クリス様は「クスクス」と笑うと、私の顔を覗き込んだ。
「両方乗ろうよ。ゴンドラと、ボート。
今日は一日お休みなんだ。楽しもう!!」
私は嬉しくて顔を上げて笑った。
「はい!!では両方乗りたいです!!」
それから私たちはトムさんにゴンドラに乗せて貰った。
初めて乗るゴンドラはまるで絵本の中の世界に迷い込んだように日常を忘れさせてくれた。
これまで必死でヴァイオリンを学び王妃教育を受けて、公務をこなし、息をつく暇もない毎日を少しだけ懐かしく思えた。
(こんな非日常に支えられて、私たちは日常を乗り切れるのね…)
日常とは違うことがどれだけ私たちの活力になっているのかを実感した時間だった。
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