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【クリストフ】(王妃ルート)
9 できること
しおりを挟む「・・・というのはどうでしょうか?」
「!!!ベルナデット様は天才ですな!!
まさかそんな斬新な!!ですが、姿が見えずに演奏者の方はそれでよろしいのですか?」
「ええ。みんなで一つの物を作ら上げていく高揚感に勝るものはそうないですから!!」
「なるほど!!!わかります!!わかりますともええ!!」
私は思わずルーカス様の手を取った。
「え~ゴホン。」
すると部屋の奥の執務机から、咳払いが聞こえた。
クリスがチラリとこちらを見ていた。
すると、ルーカスがニヤリと笑った。
「ベルナデット様!!嫉妬です!嫉妬。
クリス様が嫉妬されておりますよ?」
「な!!!」
クリスが顔を真っ赤にして驚いた。
その様子に私も思わず「くすくす」と笑った。
「ルーカス・・・。」
クリスが咎めるような視線をルーカスに送ったが、ルーカスはサラリとその視線を受け流した。
「そのように気になるのでしたら、クリス様もご一緒に話し合いに参加されればよろしいのでは?」
「出来たらとっくに参加している!!
そんな時間がないから、こうしてここで見ているんだろう?」
するとローベルが困った顔をした。
「申し訳ありません。クリス様。」
「あやまるな!!元々この事業は、私の仕事ではなく、ベルの仕事なんだ。
ベルが助けを求めてているのではないなら、私は最終的な判断だけでよい。」
すると、ローベルが泣きそうな顔をした。
「殿下!殿下の成長を嬉しく思います。」
「邪魔して悪い。続けてくれ。」
すると、ルーカスが私の方を見た。
「今のベルナデット様の意見を早急に他に伝えたい。
今日はこの辺りで退出してもよろしいでしょうか?」
「はい。では、一般エリアまでお送りしますわ。」
「ありがとうございます。」
私とルーカスが立ち上がった。
「私がお送り致しましょうか?」
ローベルが立とうとすると、ルーカスが身振りで制した。
「ベルナデット様、お願いできますか?
よろしいですよね?殿下?」
そして、奥にいるクリスに挑発するような視線を向けた。
「ベルの好きにするといい。」
クリスが仕事をしながら答えた。
「だそうですよ?」
「ふふふ。では、私がお送りします。
それではクリス様、いってまいります。」
すると、クリスが心配そうな顔をした。
「気をつけて!!」
「はい。」
ルーカスがクリスを見た。
「それでは失礼致します。」
「ああ。」
そして、私はルーカスを見送るために執務室を出た。
執務室を出ると、私はルーカスに話しかけた。
「ルーカス様。このたびはありがとうございました。」
すると、ルーカスが柔らかく微笑んだ。
「なんのことでしょうか?」
「ふふふ。ルーカス様のおかげで、また劇場に関われそうです。」
ルーカスが小さな声で呟いた。
「見て・・・いられなかったから・・。」
「え?」
私がルーカスの顔を見ると、ルーカスが泣きそうな顔をした。
「もうあなたのような才能溢れる女性が、才能を奪われ、心が壊れていく姿を見ていたくなかったから・・。」
「もう?」
私の言葉にルーカスが小さく息を吐いた。
そして、中庭に続く渡り廊下で立ち止まった。
ここを過ぎればもう一般エリアだった。
風が2人の間を吹き抜けていった。
「私には姉がおりまして、数年前にエリザベス様と同じ病で他界しました。」
「お母様と同じ病?」
「ええ。」
ルーカスが俯きながら口を開いた。
「姉はフルートを愛していました。
私も姉の奏でるフルートの音色を愛していました。
姉の奏でる音色は、宮廷楽団トップに引けとらないものでした。」
ルーカスがこぶしを握りしめた。
「しかし、病が彼女からフルートを奪いました。
フルートは木管楽器・・。
呼吸が音楽を作ります。
よりにもよって姉は、肺を患ってしまったのです。
フルートとの突然の別れに、姉の精神は耐えられなかったようでした・・。」
「え?」
もし私がヴァイオリンと離れてしまったら・・?
愛する楽器と突然離されてしまったら?
「なぜあなた泣いているのですか?」
ルーカスが泣きそうな顔で笑った。
「え?」
私は思わず涙を流していた。
すると、ルーカスが呟いた。
「私の代わりに泣いてくれるのですか?
本当に・・あなたが殿下の婚約者であることが・・・。」
そこまで言うと、ルーカスが優しく微笑んだ。
「いえ。ありがとうございます。
ベルナデット様のご活躍が私の喜びなのです。
どうか・・。
いつまでも素晴らしい演奏を皆に届けて下さい。」
「ありがとうございます。
必ず・・。」
「ふふふ。あなたと会えてよかった。」
ルーカスは美しく笑うと、そのまま歩いていった。
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