上 下
59 / 145
【クリストフ】(王妃ルート)

6 胸躍る計画

しおりを挟む
「なるほど・・。ではこれはどうですか?ベルナデット様?」
「そうですね・・。観客にとって、憧れの役者の方は希望の光です。生き甲斐なのです。
むしろ、生活の全てだといえるかもしれません。
なので、その距離だと、近すぎませんか?」
「希望の光なら近くに居たいのでないですか?」
「いえ!!希望の光はあまり近すぎてもダメなのです。
なんといっても希望の光なのですから。
近すぎては、光に目がくらんだり、光に慣れて光の存在ではなくなる可能性があります。」
「素晴らしい!!ベルナデット様はよく観客のお心を理解しておられますね!!」
「いいえ、ルーカル様のご提案は観客の喜びでもありますのでぜひとも・・・。」


初めて会った日以来、私は度々ルーカス様と劇場について話合うようになった。
あまりにも頻繫なので、心配したクリスが、相談する時は必ず、クリスの執務室で、クリス在室の時間に、身体には決して触れない距離で行うということを義務付けられた。


「さすがベルナデット様だ!!素晴らしい!!」
「ルーカス様こそ!!」

私たちが思わず、手を取ろうとした瞬間。

「あ~~~。悪いけど、そこまでにしてくれないか?ルーカス。」

クリスがこめかみに青筋を立てて、こちらを見ていた。

(わ~。つい熱くなりすぎた。
ああ、これは本当にまずい!!ピンチだわ!!
ああ、今すぐに、今すぐにでも来客だって呼ばれないかしら??)

「ああ。もうこんな時間ですか・・・。いけませんね。
ベルナデット様と話をしていると、つい時間が経ってしまう。
次に会うまで待ち遠しい。」

するとローベルが颯爽とルーカスの前に立った。

「はいはい。お送りしますね~。」
「ああ。」

ルーカスは帰り際に、私の手の甲にキスをした。

「「な!!!」」

クリスの顔には怒りが、ローベルの顔は青くなっている。
だが、初回にされたキスほどではないので、私は全く動揺していなかった。
今のは至って普通のキスだ。問題ない。


「ルーカス様。ごきげんよう。」
「ええ。また。」

すると、ルーカスがクリスの方に視線を向けた。

「クリス様。もう少し信頼してはどうです?
あまりに窮屈なカゴでは逃げられてしまいますよ。」
「なに?」

クリスが鋭い視線を向けた。

「それでは、御機嫌よう。」

するとルーカスが扉に向かった。
私も扉までルーカス様を見送るために立ち上がった。

「っく!!エリックのヤツこうなることがわかってたから、ベルとルーカスを会わせることを、ありとあらゆる手を使って阻止していたのか・・。」

クリスが何かを呟いたが、私はルーカス様の見送りに向かった。



ルーカス様が執務室を出た途端に、ローベルに続き、侍女や護衛の人が一斉に部屋の外に出て行った。

(ああ~~。私も、みんなと外に出たい。
置いて行かないで~~。)

すると、クリスが執務机から立ち上がり、私の手を引くと、ソファーに連れて行き、隙間なくピッタリと座った。

(もう少しパーソナルスペースがあってもいいんじゃないかな?)

そう思って見てみたが、クリスは青筋を立てたままの笑顔でこちらを見ていた。
そしてハンカチを取り出すと、ルーカス様に口を付けられたところをゴシゴシと拭き出した。

(少し痛いです。クリス様・・・。)

しばらくして、落ち着いたクリスが私の腰を引き寄せた。

(う~~~もう逃げられない。)

そして、不機嫌な顔になり、これまた不機嫌な声を上げた。

「ねぇ。ベル。君の婚約者は誰?」
「もちろんクリス様です。」
「ふ~ん。その割には、ルーカスと楽しそうに話をしてるよね?!」

(ああ~なんて答えたらいいの??
誰か正解の選択肢を下さい!!)

心の中で祈ってみたが、誰も答えてくれなかった。
すると、さらにクリスの声が低くなった。

「それに毎回、役者さんへの憧れについて、凄く具体的だし、情緒的な意見を言ってるみたいだけど、ベルには誰か好きな人でもいるのか?」

(ひえ~~~!!どうしよう!!)

困っていると、急にクリスが泣きそうな顔をした。

「私の他に好きな人がいるの?」

私は急いで、頭を振った。

「そんな!!まさか!!好きな人などおりません。
クリス様の婚約者だということはしっかりと自覚しております。ただ・・。」

私はいい加減悲しくなった。
実は毎回、毎回、クリスにルーカス様との話合いが終わると責められるように感じている。
どれほど私は信頼がないのだろうか?

そんな私をみたクリスが心配そうにしていた。

「どうしたの?ベル?」
「いえ・・。私はただ、皆様が喜んで下さるような劇場を作りたいのです。
ルーカス様のお心も同じです。
それを毎回、このようにクリス様に責められるのも、もうそろそろつらいです。
いっそのことそれほど、私のことが信用できないのでしたら、この事業計画から私を外して下さい。
それがお互いのためです。
私は今後もきっと、ルーカス様とこのような話合いをすると思います。
ご決断下さい。クリス様。」

私は真剣な顔でクリスを見据えた。
クリスは目を見開くと、私の腰から手を離して立ち上がった。

「少し席を外す。」

そう言って、執務室から出て行った。
一人残された私は、クリスに痛いくらいに拭かれた手を眺めていた。

(生意気なことを言ってしまったのかしら・・。)

私はどうすればよかったのかわからずに途方にくれてしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

《完》男前な男装皇女は小動物な悪役令息をお望みです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:169

悪役令嬢の幸せは新月の晩に

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,377pt お気に入り:567

一国の姫として第二の生を受けたけど兄王様が暴君で困る

恋愛 / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:2,185

私に必要なのは恋の妙薬

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,037pt お気に入り:1,584

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,193pt お気に入り:16,136

転生前から生粋の悪役令嬢は、百合ヒロインから逃亡したい!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:28

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:420

処理中です...