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【クリストフ】(王妃ルート)

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私はクリスの婚約者だ。
ずっと婚約者として支えてくれたのに今更裏切ることは出来ない。

「お父様、父上。私、クリストフ殿下と結婚します。」

すると、実父が泣き出した。

「ベル~~。嫌だ~~。
嫁に行くなんて嫌だ~~。」

すると、父が、困ったように実父を宥めた。

「仕方ないだろ?私たちにできることは、ベルナデットの選択を応援して、祝福することだけだよ。」









それから、卒業公演当日。





私たちの卒業公演は大成功に終わった。

そして卒業公演の後。
私はクリスに馬車で公爵邸に送って貰っていた。

「ふふふ。大成功だったね。」
「はい。みんなも素敵でした。」
「そうだね。いい時間を過ごせたな。」
「ええ。」

クリスと今日の卒業公演の感想を言い合っていると、クリスが急に黙り込んだ。

「どうしたのですか?」

私が尋ねると、クリスが緊張した顔で、こちらを見てきた。

「ねぇ。アトルワ公爵にはもう許可は取ってあるんだけどさ、少し付き合ってくれないかな?」
「え?許可ですか?」
「うん。どうかな?」
「許可を取って頂いているのならいいですよ。」
「じゃあさ、ついてきてくれる?」
「はい。」

クリスは御者に行先を伝えた。
すると、馬車はアトルワ公爵邸ではなく違う場所に向かった。
着いたのは王宮だった。

王宮には王妃教育でよく来ている。
昔は王宮ではよく迷っていたが、今ではもう迷わずにどこでも行けるようになった。

王妃教育が遅くなった時は、王宮の私の部屋に泊まって、次の日直接学院に行くこともあった。
そんな大変だった日々も今では懐かしい。



クリスは王宮の端の見張り棟の上に連れてきてくれた。
ここは、今では見張り棟としては使われていないそうだ。

私は棟を見上げた。

(ここには初めて来るわ・・。)

長い階段をクリスに手を引かれて歩いた。

「ベル。気をつけてね。」
「ありがとうございます。」

クリスはランタンを持って、私の手を引きながら歩いてくれた。
まるで魔法使いの秘密の塔のようでわくわくした。

見張り棟の上に着くと、私は思わず歓声を上げた。

「わ~~。」

そこからはまるで城下の灯りが宝石のように輝いていた。

「綺麗。」
「ふふふ。だろ?」
「うん。本当に素敵・・。」

私が呟くと、クリスが嬉しそうに目を細めた。
棟の上は少し風があって、風がクリスの髪を揺らしていた。

「あの光の一つ一つに私たちが守るべき民が暮らしているんだ。」

クリスの言葉に私は、はっとした。

(そうか・・。だからクリスは私をここに連れてきてくれたんだ。)

「そうですね・・。」

私がこの光景に見とれていると、クリスが私の腰を引き寄せた。

(え?)

そして、ランタンの灯りを消した。

「ベル・・。上見て。」
「・・・?」

クリスに言われて空を見上げると、頭上には満天の星空が見えた。

「わ~~。」

地上の灯りと、空の灯りに照らされて、輝く景色に私はただただ圧倒された。

「綺麗。」
「本当に綺麗だね・・。」

他に言葉が浮かばなかったが、その光に私は魅入ってしまった。

「ねぇ、ベル?」
「はい。」

私はクリスの方を向いた。

すると、クリスに真剣な眼差しで見つめられた。
私はその瞳に吸い込まれそうになった。

「ベルナデット。私と結婚してもらえませんか?」

(!!!プロポーズ!!!)

以前も馬車の中で言われたが、今回はそれとは全く雰囲気が違っていた。
クリスの顔はいつものような余裕は全然無くて、不安そうで泣きそうな顔だった。
それなのに、瞳からは熱を感じた。
私はそんなクリスのことが愛しくて、自然に笑っていた。

「はい。よろしくお願い致します。」
「ベル。ありがとう!!大切にする!!」

そう言ってクリスに抱きしめられた。

「よかった~~。あ~死ぬほど緊張した。」

クリスの心臓の音を聞くと確かに早くなっていた。
でも私の心臓の音も早くなっていたのでお相子だ。

「ふふふ。」

クリスが小さく笑った。

「必死だった。この場所は私の切り札なんだ。
この場所の力を借りれば、上手くいく気がしたんだ。」
「ふふふ。そうなのですか?
確かにとても素敵な場所だわ。」

私はクリスの腕の中から顔を上げて、クリスを見た。

「ではクリス様。もう少しこの素敵な景色を見てもいいですか?」

するとクリスは困った顔をして、私をぎゅっと抱きしめた。

「そんな可愛い顔でお願いされたら叶えてあげたいけど・・。
まだダメ。もう少し腕の中にいてよ。
やっと捕まえたんだからさ。」
「ふふふ。じゃあ、あと少しだけ。」


その日、私は街の灯りと、星空の下で、クリスのプロポーズを受け入れた。
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