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共通ルート
46 未来の可能性(1)
しおりを挟む練習を終えて、3人で廊下を歩いていると、ヴァイオリン科の先生に呼び止められた。
「ベルナデット様。少しお時間よろしいですか?」
「あ、はい。」
私は2人の方を向くとお辞儀をした。
「今日はお忙しい中ありがとうございました。
先生に呼ばれましたので、失礼します。」
するとクリスが目を細めた。
「例の件?」
「恐らく・・。」
私は答えた。
すると、クリスが優しく微笑んだ。
「今日はこの練習のために予定を入れてないから、ベルを待ってるよ。
アトルワ公爵邸まで送るよ。」
「え?」
驚くと、兄が眉を寄せた。
「エリックはこれから会議だろ?
ほら、早く行かなきゃ遅れるぞ?」
クリスがニヤリと笑った。
「くっ!!
ベル。いいか。殿下の半径3メートル以内に近づくな。」
「ははは。同じ馬車で帰るんだから、それは不可能だよ。
エリック。ほら、早く行きなよ。」
兄はギリッと奥歯を噛むと、私の髪を撫でた。
「では、ベル。また夜に・・。」
それを聞いたクリスが兄を鋭く睨んだ。
兄はそのままエントランスに向かって歩いて言った。
クリスは吹き抜けのある、明るい場所のソファーに座った。
「ここで待ってるよ。」
「すみません。ではいってきます。」
私は先生の後について行った。
先生に案内された場所は、学長室だった。
(え?学長室・・・?じゃあ、中にいるのは・・。もしかして・・。)
私の心臓が大きく脈を打った。
「学長。お連れしました。」
「入って下さい。」
「失礼します。」
私は先生の後に続いて、学長室に入った。
そこにいたのはサミュエル先生だった。
久しぶりに間近で見たサミュエル先生は噂以上に素敵だった。
以前は「かっこいい」という感じだったが、そういう感じではなく、みんなが言うように、大人の色気とはこういうものなのだろうと思った。
(うっ!!サミュエル先生、素敵だわ・・・。)
私は思わず心臓を押さえた。
サミュエル先生は、ヴァイオリン科の先生にお礼を言った。
「ありがとうございました。」
「それでは失礼します。」
そう言って、私を案内してくれた先生は去っていった。
学長室には私とサミュエル先生の2人きりになった。
8年前の2人で練習していた頃でも、常にマリーや他の人がいたので、2人になったことはなかった。
サミュエル先生と2人きりになるのは初めてだった。
「お久しぶりですね。ベルナデット様。」
「サミュエル先生・・。お久しぶりです。」
サミュエル先生は昔と変わらない笑顔を向けてくれた。
「お呼び立てしてしまってすみません。
他に、あなたと2人でゆっくり話せそうな場所がなくて。」
サミュエル先生は少し困った顔をした。
「いいえ。気にしてません。
それより、どうされたのですか?」
私が尋ねると、サミュエル先生がソファーに案内した。
「座っていただけませんか?」
「はい。」
私がソファーに座ると、サミュエル先生が緊張した様子で口を開いた。
「ベルナデット様。王立音楽芸術学院はどうでしたか?」
私は笑顔で答えた。
「素晴らしい学院でした。
多くのかけがえのない同士とも出会えました。
それに音楽がこれほど人を魅了するものだとは知りませんでした。
4年も学ばせて頂いたのに、まだ自分の未熟さを感じてしまいますわ。」
「ふふふ。相変わらず、ベルナデット様は向上心に溢れていますね。
あなたをこの学院に迎えられたことは幸運だったとしか言いようがありません。」
するとサミュエル先生は、自分の前で両手を組んだ。
「実は、主席で卒業されるベルナデット様にお願いがあります。」
(あ・・。噂には聞いていたけど、私やっぱり主席卒業なんだ・・。)
「なんですか?」
サミュエル先生に真剣な眼差しを向けられた。
「私の側で、この学院をもっと良い学びの場にしていくお手伝いをして下さいませんか?」
「え?」
私は思わぬことにとても驚いていた。
「王妃様になられるまででも構いません。
私を支えてもらえませんか?」
(サミュエル先生を支える?どういうこと?)
「あの・・それはこの学院の先生になるということでしょうか?」
それなら以前から先生方に打診されていた。
卒業して数年でいいので、殿下が即位されるまで、学院で臨時講師をして欲しいと言われていた。
そのことはすでに、クリスにも、陛下にも王妃様や、父や実父や兄にも相談している。
「いえ。私の右腕として学院に残って欲しいのです。」
(サミュエル先生の右腕???)
「私は、学院の運営方針や大きな学院の方向性を考えています。
ですから、ベルナデット様には私と共に学院の運営に協力してほしいのです。」
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
(そんな重大なことを私に???)
「ベルナデット様となら私は今以上にこの学院のために尽力できると思います。」
「え?」
サミュエル先生の熱い瞳に見つめられて、戸惑ってしまった。
「ベルナデット様。どうか私の側にいてくれませんか?」
「私もサミュエル先生のためならお手伝いしたいのですが・・。」
(どうしよう。サミュエル先生に頼られるのは、本気で嬉しいわ。
でもこれを引き受けてもいいのかしら?)
・・・・。
サミュエル先生にじっと見つめられた。
「返事は今すぐでなくても構いません。
どうか考えてもらえませんか?」
「わかりました。考えさせて下さい・・。」
私が返事をすると、目の前には美しく笑ったサミュエル先生がいた。
「本当に美しくなられましたね。ベルナデット様。
音はもちろんですが、あなた自身も。」
(え?!美しい??嬉しい・・・。
サミュエル先生に褒められた・・・。)
「ありがとうございます。」
私が嬉しさのあまり笑顔でお礼を言うと、サミュエル先生が影を落とした。
「私は卑怯ですね。」
なんのことだかわからないが、落ち込んでいるようにみえるサミュエル先生の言葉をかけた。
「サミュエル先生は素晴らしい方だと思います。」
すると、サミュエル先生は小さく笑ってくれた。
「ふふふ。ベルナデット様、お引止めしてすみません。」
では、立ち上がった私にサミュエル先生が声をかけた。
「もうすぐ卒業ですね。」
「ええ。」
「おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
サミュエル先生が綺麗に笑った。
私も笑顔であいさつをして、学長室を去った。
去り際にサミュエル先生が何か呟いたが、私には聞こえなかった。
「ようやく先生と生徒という関係から解放されますね。」
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