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共通ルート
45 デート
しおりを挟む次の日、私とクリスは湖に出掛けた。
そして私は納得した。
(確かに、デートスポットだ・・。)
湖には手漕ぎのボートが用意してあった。
しかも、大きさも大人用の物だけだはなく、こども用のボートも用意してあった。
(スワンボートじゃないんだ・・。)
私は井の頭公園のスワンボートを思い浮かべた。
そういえば、いつか誰かとボートに乗ってみたいと、あの幸運のお団子を食べながら人が乗っているのを羨ましく思っていたが、まさかここで実現するとは思ってもいなかった。
あの幸運のお団子の効果なのだろうか?
「ベル。行こう。」
「はい。」
私はクリスに手をとられて、ボートに向かった。
「気を付けてね。」
クリスが手を出してくれた。
ボート乗り場の男性がうんうん頷きながら、クリスに親指を立てたのが気になった。
こども用のボートには転覆防止のためか小さな飛行機のツバサのようなものがついていた。
そのツバサの穴にオールを通しているので、オールも手を離しても落ちないようになっていた。
「行くよ。」
クリスは慣れた手付きで、ぐんぐんとボートを漕いだ。
「クリス様凄いですね。」
「まぁ。剣で鍛えてるから・・。」
「クリス様は剣の練習もしてるのですね。」
「もう日課になってるから練習って感じはしないけどね。」
それにしても、クリスはボートに慣れていた。
以前ボートを漕ぐ人を見ていた時は、くるくると回ったり、蛇行したりとてもこんなに優雅にボートを操縦している人は少なかった。
「クリス様はもしかして、私以外の誰かと来たことがあるんですか?」
すると慌てて、「女の子と乗ったのはベルが初めてだ!!」と言った。
「女の子と乗ったのは初めてということは、男性とは一緒に乗ったのことがあるのですか?」
その質問にクリスの目が泳いだ。
少し離れた岸をみると、従者をはじめ、ボート関係者が双眼鏡を片手に見守っている。
普通なら王族と公爵令嬢が2人でボートに乗ることを許可して貰えるだろうか?
そう思って周りをみると、飛行機の羽のようなものが付いたボートはこれだけだった。
そして、ボートに乗る前にボート乗り場の男性がクリスに向かって、親指を上げたことを思い出した。
私は恐る恐るクリスを見た。
「まさか・・今日のために練習して下さったのですか?」
クリスは真っ赤な顔で俯いた。
「まぁ・・。ベルとの初めてのデートはここに来たいとずっと思っていたから・・。」
「ふふふ。」
私はとても愛しくなった。
「そんなに笑わなくても・・。」
クリスは拗ねているようだったが、可愛くて愛おしくて仕方なかった。
(まさかわざわざ今日のために練習してくれるなんて!!)
私は心からの笑顔を向けた。
「クリス様。ありがとうございます。
とても嬉しいです。」
すると、クリスが真っ赤な顔で呟いた。
「いつか、あれに乗せるから・・。」
クリスの視線の先には大人用のボートが見えた。
(これで充分嬉しいのにな。)
「はい。いつか、また。」
クリスの気持ちが嬉しいと思った。
きっと、この変わったボートは、ボート乗り場の方と、クリスの試行錯誤の結果なのだろう。
みんなのおかげで、この湖からの景色を堪能することが出来たのだろう。
「クリス様、ありがとうございます。
景色がとても綺麗です。」
水面を撫でる風の動きや、水の音や水の上から眺める岸辺の様子が美しく思えた。
「喜んで貰えてよかった。」
クリスが嬉しそうに笑った。
ボートを降りると、湖畔のレストランで食事をした。
湖を見ながら自然の中で食べる食事はいつもより美味しく感じた。
食事を終えてお茶を飲んでいると、クリスが湖を眺めながら呟いた。
「大人になってあのボートに乗れるようになったら、また今日のようにベルと一緒にボートに乗れるのかな?」
クリスも王になるプレシャーを感じているのだろうか?
なんとなくそう思えた。
私は兄の言葉を思い出した。
「ふふふ。決まった未来などないそうですよ?クリス様。
クリス様の望む未来を選ばれたらいいのではないですか?」
私は兄の言葉をそのままクリスに伝えた。
すると、クリスが苦しそうな顔をした。
「その言葉の意味がわかって言ってるのだとしたら君は残酷だね。」
そして、クリスが私の頬に両手を添えた。
「でもきっと何もわかってないんだろうな・・。」
クリスが泣きそうな顔をしていたので思わず、クリスの頭を撫でた。
「え?」
私の行動にクリスが驚いた。
「あ、すいません。つい。」
(泣き出しそうな顔だったので・・・。)
私は手をひっこめた。
すると、クリスが私の手を取って自分の頭に乗せた。
「いいよ。」
乗せられたら撫でるしかないので、私はクリスの頭を撫でた。
柔らかそうな髪だと思ったが、意外と堅い髪でギャップに驚いた。
「はは。ベルには、かっこいいところを見せたいけど、甘えるのもいいね。
くせになりそう。」
私は気持ちよさそうに目を細めたクリスを見ながら少し笑った。
「クリス様はいつだってかっこいいですよ。」
すると、クリスが私の両手を自分の手で包み込んだ。
「それなら・・俺から離れないで。」
(どうしてそんなにつらそうに私を見るの・・?)
そして手を離すと、首を振った。
「こんな言い方ズルいな。」
そして、いつものように自信たっぷりの余裕のあるクリスの顔になった。
「まぁ、これからドンドンかっこよくなる予定だから。
ベルはもう俺から離れられないよ。覚悟して?」
笑っているのに泣いてるようで、私はクリス様から目が離せなかった。
そろそろ帰るというタイミングで、私はマリーを呼んだ。
マリーは私に小さな箱を渡してくれた。
私はその箱をクリスに差し出した。
「クリス様、遅くなって申し訳ありません。
こちら約束の物です。」
クリスは受け取ると、中身を見て嬉しそうに笑った。
「ピアス・・。ベルの瞳の色だ。ありがとう。大切にする。」
その日から、クリス様の耳にはそのピアスが光っていた。
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