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44 クリスの魅力

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「そっか。じゃあ、俺も覚悟を決めようかな・・。」
「え?」


クリスが手を上げると、クリスの従者が楽譜を持ってきた。

「これ弾くんでしょ?」
「え?どうして?」

クリスの手には今、私が勉強している楽譜が握られていた。

「やっぱり・・当たりだ。
本当に音楽に関してあの人は慧眼だよな~。」

クリスは私をじっとみると、「楽譜読み手伝ってあげるよ。」と言った。

「え?」

私はクリスの言葉が理解出来なかった。

「クリス様もヴァイオリンが弾けるのですか?」

尋ねるとクリスは楽譜を持つと、サロンに置いてあるピアノの前に優雅に座った。

(え?何?どういうこと?)

するとクリスは私が今から挑戦しようとしている難曲をピアノで奏でた。

(・・・・凄い。綺麗な音・・。)

私はピアノには詳しくないが、音が綺麗なことだけはわかった。
胸を締め付けるような迫力も、美しすぎる恐怖も、サミュエル先生のヴァイオリンを聴いた時に感じたものに近い感覚だった。

演奏が終ると、私は夢中でクリスに拍手を送った。

「凄い!!クリス様!!凄いわ!!」

私が褒めると、クリスが驚いた顔をした。

「ベルがこんなに喜んでくれるなんて・・・。
もう少し早くに披露すればよかった。」
「クリス様はピアノが弾けたのね!!
しかもまるで宮廷楽団員のようだったわ!!
本当に凄いわ!!
クリス様の先生はどなたですか?」

すると、クリスは困ったように笑った。

「まぁ・・。母上にね・・。」

(母上・・?クリスの母親ってことは、王妃様?!)

「王妃様に?」
「ああ。
あの人、普段は結構のんびりしてるんだけど、ピアノのことになると人が変わっちゃうんだよ。
執務が忙しくなるまでは、ずーと毎日数時間はピアノを弾かされてたからね・・。」

クリスが自分の手をじっと見つめた。

「でも・・指鈍ってるな・・。
音楽芸術学院を受けるなら、また基礎からやり直しかな・・。
練習は欠かしたことないんだけどな・・。」
「え?」

私は今、クリスの口から飛び出してきた言葉に固まってしまった。

(今、クリスはなんて言った?音楽芸術学院を受けるって言った。)

「あの・・もしかして、クリス様も音楽芸術学院を受けるのですか?」
「そうだよ。」

・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・え?

「え?え?クリス様は王族の方で、貴族の社交のためにもオレオル学院に・・。」

私はなんて言ったらいいのかわからず、言葉に詰まってしまった。
すると、クリスが頬を掻いた。

「まぁ、普通ならそうなんだけど・・。
『王立』だからさ、第一期生として入るなら、国の事業の宣伝にもなるしね。
悪くないって言われたんだ。」
「・・・なるほど。宣伝。」

私は呆然と呟いた。

クリスが真剣な表情を作った。
クリスの眼差しは、とても美しくて私は思わず魅入ってしまった。

「だが入学する以上。手は抜けない。
ここで王族という権力によって甘えてしまえば、学院の評判は地に落ちる。
そうなれば、この学院の存在価値が無くなってしまう。
つまり私やベルが学院に入るということは、諸刃の剣になるんだ。」

私は身体の温度が下がって行くのを感じた。

(そうか・・。だから、サミュエル先生も・・。)

今更ながらに事の重大さに身体は震えだした。
クリスが私の手を優しく包んでくれた。

「辞める?辞めるなら今のうちだ・・。」

身体は震えるし、怖くて怖くてたまらないはずなのに私の口出てきた言葉は・・。

「嫌です。辞めません。
やります。」

コツ

クリスのおでこが私のおでこに優しく当てられた。

「うん。ベルならそう言うと思った。」

そしてそのまま、頬にクリスの両手を添えられた。

「君のその決意に満ちた瞳を誰にも見せたくないな。
とても綺麗だ。」

私は小さく呟いた。

「すごく・・怖いですけど・・。」
「ふふふ。そうだね。俺も怖い。」

そして、2人でくすくすと笑った。

それからクリスと一緒に楽譜を読んだ。
クリスはなんでも知っていた。
きっとこれまで努力を重ねてきたのだろう。

(兄といい、クリスといい。
執務で忙しいはずなのに・・。)

私は唇を噛んだ。

(言い訳はできないな・・。)





クリスが王宮に帰る時間が近づいてきた。
私が楽譜を片付けると、クリスが口を開いた。

「ねぇ、ベル。
これから私たちは信じられないくらい忙しくなると思う。」
「・・・。」

覚悟していたが、言葉に出されると泣きそうになった。

「だからさ、明日はどこかに遊びに行かない?」
「え?」

(どこか?遊びに?)

「遊びにとは・・。
その何をして遊ぶのですか?」

以前なら休日は、家のことをしたり、買い物に行ったり・・。
学生の時は、部活に行ったり、友達と話をしたり・・。
私にはあまり人に自慢できるような遊びが思いつかなかった。

「遊びというか・・デートだね。」
「ああ。なるほど。デート・・・・。
・・・・デート?!」

もっと聞き覚えのない単語に目を白黒させた。

「うん。まぁ。定番だけど、明日は湖にいくから。」
「なるほど・・デートの定番は湖なのですね・・。」

クリスがくすくすと笑った。

「そう。ベルの初めては全部俺のものだから、定番から押さえていくよ!!」
「・・・・!!」

私は以前クリスに言われたセリフを思い出して真っ赤になった。
クリスは私の手を取ると、優しく口づけた。

「じゃあ、ベル。
また明日。」
「・・あ。はい。また明日。」

クリスを見送ると、部屋の戻り、先程の楽譜を開いてヴァイオリンを構えた。
音が取れるだけで練習が少しだけはかどった。
私は何も考えずにヴァイオリンを弾くことに集中した。

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