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43 そもそも今回の休暇は・・・
しおりを挟む兄の休みは昨日までだったらしく、今日は父と兄は揃って王宮で出掛けた。
私の休みはまだ、あるので今日は楽譜を読み、それからヴァイオリンの練習をしようと思った。
楽譜を見ていると、執事が慌てて部屋を訪ねてきた。
私は『執事慌てる=面倒事』と記憶しているので、思わず眉を寄せた。
伝言を聞いたマリー達も慌てだした。
「クリストフ殿下がお見えになられたとのことです。」
「え?なにしに?」
私は聞かれても困るであろう質問をしてしまった。
案の定、マリーは困惑していた。
「申し訳ありません。そこまではお伺いしていなくて。」
「ああ!!ごめんなさい。
そんなこと聞かれても困るわよね。
つい心の声が漏れてしまったの!気にしないで。」
「ふふふ。心の声が漏れてしまったのですね。
でもわかります。
さぁ、お嬢様急いで支度致しましょう。」
「ええ。お願い。」
私は楽譜を閉じると、着替えるために立ち上がった。
(クリスどうしたのかしら?
まさか!!また重大事実?!)
最近、立て続けに重大な事実を聞かされたりして、私はすっかり怯えていた。
(何もありませんように!!)
心の中で祈ってみたが、何も用事もないのに忙しいクリスがわざわざ来るわけがない。
きっとなにかあったのだろう。
「はぁ~。」
私は溜息をついてしまった。
サロンに行くと、クリスが大きな花束を渡してくれた。
(え?何?今日って、何かの記念日?)
私があまりの花束の迫力に驚いていると、クリスが口を開いた。
「報告で元気になったと聞いていたけど、本当に元気そうでよかった。
もう体調はいいの?」
・・・・?
・・・・・・体調?
・・・・・・・・あ!!そうだった!!
クリスの言葉で思い出したが、私は元々、王宮で倒れたんだった!!
それで休暇を貰ったんだ!!
山に登ったり、ヴァイオリンを弾いたり、お茶したりして忘れてた!!
最近衝撃的な出来事の連続せいで、私はすっかり忘れていた。
これでは、まるで会社を体調不良を理由にサボったのに、みんなにうっかり旅行のお土産を配ってしまう人と同じではないか!!
するとクリスが仕方ないなぁ~という顔をした。
「忘れてたね?
でもベルが元気そうでよかった。」
「はい。元気です。お気遣いありがとうございます。」
そして、私は花束を見た。
花束には明るい色の花が多く使われ、華やかな雰囲気だった。
「花もありがとうございます。
見ているだけで元気になりますわ。」
(こんな豪華絢爛な花束、もう貰えることなさそうだな・・・。凄いな~。)
花束に見とれていると、クリスが笑顔になった。
「その顔が見たかったんだ。
久しぶりだろ?話をしないか?」
私はマリーに花束を預けると、クリスに手を引かれてサロンのソファーに座った。
いつもの距離なのに場所が変わったからか、どこか落ち着きなく思った。
ソファーに座ると、クリスが真剣な顔で見つめてきた。
「ベルは音楽芸術学院に入学するんだろ?」
さすがクリスだ。
私でさえ、先日知った事実をすでに知っているなんて。
しかも話の前置きも何もなくいきなり核心だ!!
「はい。」
私は思わず、自分の手をぎゅっと握った。
「大変だと思うよ?」
クリスが心配そうに覗き込んできた。
『大変』そんなことは充分にわかっていた。
今朝だって、楽譜を見たが、楽譜の横に調合記号がたくさんついていて泣きそうになった。
それにクリスだって、意地悪で言っているわけではないだろう。
王妃教育はこれまで同様に行うのだ。
その上で、音楽芸術学院の入学試験に望むのだ。
正気の沙汰とは思えないだろう。
だが・・。
「決めてしまったことなので・・。」
そうだ。
自分で選んでしまったのだ。
もうやるしかないのだ。
すると、クリスが優しく微笑んだ。
「そっか。じゃあ、俺も覚悟を決めようかな・・。」
「え?」
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