我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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38 幕間~馬車の中にて~

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王宮から公爵家へと戻る馬車の中には、アトルワ公爵とエリック、そしてトリスタンが乗っていた。
皆、それぞれの思いに考えをめぐらせていると、アトルワ公爵が口を開いた。

「なぁ。トリスタン。
そろそろベルナデットに真実を話したらどうだ?」

トリスタンは眉間に皺を寄せた。

「だが・・彼女はまだ幼い。」

すると、アトルワ公爵が穏やかに笑った。

「ふふふ。君は知らないだろうが、ここ最近の彼女は急激に成長している。
こどもというのは、大人が思うほどずっと幼いままではないよ。」
「・・・。確かに、ヴァイオリンの影響なのか・・。
王妃教育の影響なのか・・。
彼女の成長は目覚ましいが・・。」

アトルワ公爵がエリックに視線を向けた。

「エリックはどう思う?
まだ早いと思うかい?」

すると、トリスタンも身を乗り出した。

「確かに。
今回のベルの音楽への思いを伝えてくれたのも君だ。
一番近くでベルを見ていてくれてるのだろう?
どうだろうか?」

2人に見つめられ、エリックは唇を少し噛んだ。

「今のベルに真実を話しても、受け止められると思います。
ですが・・。」

エリックの表情を見たアトルワ公爵が小さく息を吐いた。
その様子を見たトリスタンが呟いた。

「なるほど・・。エリックに不安があるのかい?」

エリックは小さく頷いた。

「まだ、兄として彼女の側にいたい・・・とは思います。」

エリックの答えを聞いてアトルワ公爵が真剣な顔で尋ねた。

「エリック・・。
確かに最初に兄でいてくれと頼んだのは私だ。
だがおまえは、いつまで彼女の兄でいるのだ?」
「え?」

アトルワ公爵の様子にトリスタンが慌てて言葉を挟んだ。

「兄上・・。」

だが公爵は言葉を続けた。

「ベルナデットはあと2年もせずに、殿下のパートナーとして供に社交場に出るだろう。
そうなれば遅かれ早かれ、誰かから彼女の耳に入る。
他人から真実を聞かせれた彼女がどう思うかなど、おまえならわかるだろう?」

そして公爵は鋭い目でエリックを見た。

「それに今、おまえは、兄から解放されるチャンスがあるんだぞ?
それともおまえは、兄などという甘えた立場でなければ、彼女との関係を深めることはできないのか?」

アトルワ公爵はエリックを見据えた。
それを聞いたエリックは拳をきつく握りしめ、公爵を鋭く睨んだ。

「例え兄でなくとも、彼女とは関係を深めていきます。
父上は、私がどれほど彼女を愛しているかなど、とうにご存知のはずでしょ?」

すると、トリスタンが目を白黒させた。

「え?え?エリック・・。
そうだったの??」

その途端アトルワ公爵が楽しそうに笑ってトリスタンを横目で見た。

「ふふふ。だそうだぞ?トリスタン。
息子のためにも早くベルナデットに真実を教えてあげてくれないかい?
このままではエリックはいつまでも兄として、彼女の意識にのぼらないままだからね。
最近、ベルナデットの周りにはたくさんライバルがいるからね。
エリックは、気が気じゃないんだよ。」

エリックが驚いたように目を丸くした。

「まさか・・父上・・。このために?」
「ふふふ。」

そう言うと、アトルワ公爵はエリックにウインクをした。
エリックは脱力したが、脱力したのはエリックだけではなく、トリスタンも同じだった。

「なるほど・・。
そうだったのか。
エリックが、ベルのことを・・。」

そして、トリスタンが自分の手を握った。

「わかった。ベルに真実を話そう。」
「ああ。頼む。」

エリックは嬉しいのか、悲しいのか、困っているのか、喜んでいるのか自分でも自分の気持ちがわからなかった。
困惑。それが一番しっくりくる感情だった。


馬車は確実に公爵家に近づいていた。
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